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言いながら辿り着いたのは又もや本堂では無かった。

いつも皆が集まる居間である。

善悪は中を覗き込んで聞く。


「オルクス君いるでござるか?」


「オウコク、ノ、ツルギ! ナニ?」


答えた先にはソフビサイズの小っちゃい魔王兄妹弟七柱が、座卓の上に乗ってテレビに映し出された動画を見ている姿が有った。

動画はオルクスやモラクスを中心にしたスプラタ・マンユと現アンラ・マンユの十四柱を先頭に、百を超える編みぐるみ達がフォーメィションダンスを繰り広げている所であった。


バックに流れる音曲は、ヨア〇ビの〇青である。

日本を代表するテレビ局のすっきりしちゃいそうな朝の報道番組で推していた、ダン〇ワンプロジェクトで使われていた、全国の高校ダンス部をコロナ禍の陰鬱に過ぎる空気感から解放する為に企画された最高の取り組みに選び出された名曲である。


画面の中ではソフビと編みぐるみに身をやつした百二十柱を越える悪魔達が、人の限界、高校生たちの踊りを嘲笑う様に、一糸乱れぬダンスを踊っていたのである。

チラリと目をやった善悪が言う。


「ふむ、こちらも未だ衰えを見せない様でござるな! 広告収入が楽しみでござるなっ!」


「ソソ、ガッポリ、ガツガツ! ナハハ!」


切欠(きっかけ)は善悪の悪ふざけであった。

一年前の観察中に紹介したが、オルクスとモラクスの二人は善悪の指示に従って、安来節(やすぎぶし)、所謂(いわゆる)ドジョウ掬(すく)いの習得を頑張っていた事は、丁寧にお読み頂いていたオーディエンスの皆様ならば、記憶に新しメなのでは無かろうか?


ほら、あの時だよ!

コユキが鶴の恩返しの鶴の尾羽、調布から拾って持って来た時の光景を思い出して頂きたい。

ね? 踊っていたでしょう?


オルクスとモラクスの二人は必死に練習を重ねてほぼホボ完璧な演武に辿り着いたのであった。

タイミング的には一年延期を余儀なくされた東京オリンピック開幕を二か月後に控えた、令和三年五月初旬である。

ティック〇ックに投稿された動画のタイトルは世間をどよもした。


~フィギュアに躍らせてみた、安来節~


動画の始まりは直立する国民的アニメの登場人物、野菜の星の王子様である富士額のモラクスと、同じ星の低級戦士から今や、『お前が一番だ、ニンジンっ!』とか言われちゃうスーパー(超)戦士に身をやつしたオルクスの兄弟が、ソフビ丸出しでボーっと立っているシーンから始まっていた。


親しい人が聞けば誰の物か直ぐ分かる善悪の下手っぴな安来節が歌われ始めた時、声に合わせて白と黒のオーラを迸(ほとばし)らせた二柱の兄弟の踊りが繰り広げられたのである。


ヤスゥギィー♪ クイクイクイクイ!


世間、いいや、ネットは静寂に包まれたのである、ほんの一瞬だけ……


次の瞬間、あり得ない程の衝撃が広大なネットを一つの驚きで埋め尽くしたのであった。

曰く、


え? えええっ! CGでしょ?

AI的な? にしても凄くない?

影、影見てよ皆ぁ! これ、ガチで動いてんじゃないのぉ?

魔法使い、発見! 通報しました!

嘘? 嘘だよね? ってかこれ夢? なんなのー!

か、可愛すぎぃ~! 究極戦士のドジョウ掬いぃ! もうっ! 最高ぉ!

安来節が下手過ぎぃ! 踊りを殺してんじゃんかよぉ!

なんだこの声、汚っい声だな、死ねばいいのに……

声が余計っ! 黙れよ、くそ音痴めがっ! 呪われろよぉ!


的な言葉が数万件寄せられて、コメント欄を埋め尽くしたのであった、因(ちな)みに善悪は少し落ち込んでしまい、その後歌うことは止めた。


善悪の人生から歌が失われた代わりと言っては何だが、幸福寺に齎(もたら)された物、それは近所の檀家さんから始まったのである。

普段は抹香(まっこう)臭いとお寺に寄り付かなかった若者達が、スマホ片手に参拝に押し掛けたのであった。

幾ら距離を取っていたとしても、毎年お盆の度に自宅を訪ねて来る坊主の声を覚えていた少年少女達であろう。

彼らは本堂を覗き込み、ご本尊の横に安置されたオルモラの姿を目にすると、それぞれのSNSに確信めいた書き込みをしたのである。


『ドジョウ掬い踊ったフィギュアの動画、特定しました』


『バズったフィギュアダンス、ウチのお寺さんだったわww』


『汚い声だなと思ったら、案の定、近所の和尚の物でした』


等々、悪気は無さそうな言葉がネット上に散見され始めた。

そして禁断の呟きが囁かれる。


『静岡県中部の幸福寺、踊るフィギュアと音痴な坊主、生息中!』


その書き込みに埋め込まれた画像には、あの全国的に絶不評だったダミ声で読経(どっきょう)にふける善悪の後姿と、オルクス、モラクスのフィギュアが他の兄弟達と並んでいる姿が、ハッキリと映し出されていたのであった。


ネットはざわついた。

てっきり何かのトリックかCG、AIロボットかクレイアニメ的な物だと思っていた人々の内、スピリチュアル好きな一部界隈から実(まこと)しやかな声が漏れ始めたのである。


『あれって本当に動いていたりして…… だってお寺だってよ』


『悪霊が憑いているとか、かな? なんか怖くね? 恐ろしみ』


『坊主の声だと思うと中々の迫力だよね、悪霊退散ぽくまである』


だそうだ。

堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

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