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うめぼっち

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#溺愛
うめぼっち

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うめぼっち

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#ざまぁ
うめぼっち

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エドワール・ド・ヴェルモンは、唇を噛み締めた。 恩寵の館。没落した貴族令嬢たちが娼婦として働く、教会公認の高級娼館。
まさか、あのリアーヌが、本当にここにいたとは──
王宮の酒宴でソル=アンリから彼女の消息を聞かされたとき、エドワールは耳を疑った。大罪人の娘となった彼女が、娼婦に身を落としたという。しかも、今では誰とも知れぬ男たちを相手にしているのだと。
嘘だと思いたかった。けれど、ソル=アンリは愉快そうに笑い、ファティマは同情するような顔で、彼女が自分から客を取ろうとしないらしいと告げた。
誰かを待っているのかもしれないわ──その言葉が、胸に引っかかっていた。自分を待っているのではないか。そんな考えが一瞬でも頭をよぎったことに、エドワールは苛立った。
リアーヌは、かつて自分の婚約者だった女だ。美しく、聡明で、貴族令嬢として申し分のない教養を備えていた。彼女と過ごす時間を心地よく感じていたのは事実だ。婚約者として隣に立つ姿を、悪くないと思っていた。いつか夫婦になれば、穏やかで満ち足りた生活が送れるのではないかと、漠然と想像したこともある。
だが、彼女の父が罪人となり、家が没落した今、その未来は消えた。
それだけなら、まだよかった。
耐えがたいのは、彼女が娼婦になったという事実だった。
宮廷では、すでに噂になっている。あのヴィエル公爵令嬢が、今では金を払えば誰にでも身を任せるような女になったのだと。酒の席で男たちが下卑た笑みを浮かべ、彼女の身体を品定めするような言葉を交わす。その光景を想像するだけで、胃の底が焼けるような不快感を覚えた。
彼女が自分の知らない男に触れられている。彼女が自分以外の男に微笑み、甘い言葉を囁いている。かつて自分のものになるはずだった女が、今や誰かの金で買われている。腹立たしい。耐えられない。すべてを破壊したくなる。
それは、嫉妬だった。認めたくはないが、そうとしか言いようがない。
自分は彼女を救いたいのか。それとも、ほかの男たちに渡したくないだけなのか。エドワール自身にも、よくわからなかった。
彼は貴族として無能ではない。領地経営にも社交にも長け、損得を見極める目も持っている。だが、一人の男としての彼は、決して特別な人間ではなかった。
自分が好意を抱いた女が、自分の手の届かない場所で、別の男たちに求められている。その現実を受け入れられず、傷ついた自尊心をどう扱えばいいのかもわからない。だからこそ、彼はここへ来た。
確かめたかったのだ。リアーヌがどれほど変わってしまったのかを。自分の目で確認すれば、諦めもつくだろう。しかしその一方で、かつての自分が彼女に抱いた感情が間違っていなかったことを、エドワールは何かしらの形で証明したいと思っていた。
恩寵の館のホールに現れたリアーヌは、以前と変わらぬ所作で彼を迎えた。
彼女は一礼し、彼の手を取り、手袋を外して口づけた。
その指先は、記憶の中と同じように細く、白かった。
──何故、こんな場所で、こんなことをする。
エドワールの胸の奥が、ひどくざわついた。彼女が自分を見上げる瞳に、かつての親しさを探してしまう。彼女にとって、今でも自分は、特別な存在であってほしい。そんな思いを押し殺す。自分の中にそのような望みがあることを認めれば、ここへ来た自分の惨めさまで認めることになってしまう。
案内された個室の前でリアーヌが振り返る。
「今宵は少し……長いお話になっても構いませんか?」
リアーヌはエドワールに尋ねた。
エドワールは、口元に薄い笑みを浮かべた。
「ああ。構わないとも。お前の評判は殿下から聞いている。上手いんだってな」
彼女の表情が、わずかに揺れた。
その変化を見て、エドワールは妙な安堵を覚えた。傷ついたのだ。自分の言葉が、まだ彼女に届いている。
ならば、もっと聞かせてやろう。
自分がどれほど傷ついたかなど、彼女にはわからないだろう。だからせめて、彼女にも同じように痛みを与えたかった。
◇
夜が明けようとしていた。接客用の寝室には、まだ夜の名残があった。小さな窓から差し込む光は薄く、ステンドグラスに描かれた天使の姿をぼんやりと浮かび上がらせている。鎖につながれた天使。ここに来てから何度も目にした硝子絵だった。
リアーヌはその前に立つエドワールの襟元へと手を伸ばした。
「……少し、曲がっています」
指先で布を整える。
エドワールは何も言わなかった。
リアーヌも、何も言わない。
けれど、胸の奥には、まだ消えていないものがあった。
昨夜、この人が自分を訪ねてきた。わざわざ、この場所まで。それだけで、リアーヌはどこか救われたような気持ちになっていた。自分のことを忘れていなかった。あの頃の自分を、まだ覚えていてくれた。だから、もしかしたら、これからも──そんな期待があった。エドワールの言葉には、以前とは異なる冷たい棘が見受けられたが、その裏には自分に対する好意があることをリアーヌは感じ取っていた。
リアーヌはエドワールの襟元から手を離し、俯いたまま尋ねた。
「……次はいつ、会えますか?」
「二度と会うことはないだろうな」
エドワールの冷ややかな声に、リアーヌは息を呑んだ。
本気で言っているのだろうか。リアーヌはエドワールを見上げる。
「……え?」
「まさか、身請けを期待しているのか?」
リアーヌには何も言えなかった。図星だったからだ。
エドワールは顔を歪め、せせら笑いながらまくし立てた。
「……おいおい、勘弁してくれよ。お前を身請けして、俺になんのメリットがある? 大罪人の娘だぞ。しかも異端のチェンジリング・エルフ。そんな女を囲ったところで、俺の評判が落ちるだけだ」
エドワールの言葉が、リアーヌの胸に突き刺さる。
チェンジリング・エルフ。それは、彼女の出生にまつわる疑惑を嘲る言葉だった。父が罪人とされたことで、彼女自身まで異端の存在として扱われている。その苦しみを、エドワールは知らないはずがない。
それなのに、彼はそれを武器として利用した。
言葉を失うリアーヌを、エドワールは愚弄し続ける。
「……それとも欲求不満なのか? そういうことなら、他の客をあたってくれ。良かったじゃないか。一生男に不自由することのない身分に収まって」
リアーヌの指先が、膝の上で震えた。
彼は自分を傷つけようとしている。そう気づいた瞬間、悲しみとは別の感情が胸の奥で芽生えた。それは怒りだった。しかしリアーヌにはその感情を言葉にすることができない。何かを言おうとするより先に、エドワールの嘲笑が降ってくる。
「そういうことが好きだから、娼婦になることを選んだんだろう? 嫌なら自害するはずだ。それが貞淑な貴族令嬢の選択というものだろう。……違うか?」
リアーヌは、何も答えられなかった。
公爵令嬢として育てられた彼女は、家庭教師から男性の心理や、社交の場での振る舞いについて学んできた。男が傷ついた自尊心を隠すために、虚勢を張ることがあるのも知っている。嫉妬を怒りにすり替え、相手を責めることで、自分の弱さから目を逸らそうとすることも。
今のエドワールがそうなのだと、彼女にはわかった。
彼は自分を好いていた。だからこそ、受け入れられないのだ。かつて婚約者だった女が、ほかの男たちに身体を売っているという現実を。宮廷でその話が囁かれ、男たちの笑いものになっているという現実を。
彼の誇りは傷ついている。嫉妬も、怒りも、行き場を失っている。
それでも彼の暴言は、一線を越えていた。
彼は深く傷ついた。しかし、だからといって、なぜ自分が責められなければならないのだろう。父の冤罪を晴らすこともできず、家を奪われ、望みもしない場所で生きていくしかない。そんな自分が好き好んでこの境遇を選んだと、本気で思っているのだろうか。
エドワールの暴言は、止めどなく吐き出される。
「お前のような淫売に、貴族の精神なんて最初からなかった。父が父なら、娘も娘だ」
リアーヌは、顔から血の気が引くのを感じた。
父まで侮辱された。父が、どれほど誠実に国に尽くしてきたか、どれほど多くの人々を守ろうとしてきたか、エドワールは知っていたはずだ。それなのに、罪を着せられた父を、彼は娘を貶めるための言葉に使った。
怒りに震えるリアーヌの前で、エドワールは満足げに笑った。
「……まぁ、才能はあるんじゃないか? 天性の淫売だからな。お前なら最上位の娼婦になれるだろう。頑張れよ」
リアーヌは唇を噛んだ。
何か言い返したかった。あなたは私の何を知っているの、と。私がここで何を失い、何を耐えているのか、少しでも考えたことがあるのか、と。
けれど、言葉は喉の奥に詰まったままだった。
彼に理解してもらいたいと思っていた自分が、まだどこかにいたのだ。その事実が、何よりもつらかった。
エドワールは立ち上がり、目元を隠す仮面を被ると、寝室の床を踏みしめて扉へと向かった。靴底が床を打つ音が、静かな部屋に響く。
「……おいおい。何を突っ立ってるんだ。朝が来る前に帰りたい。出口まで案内してくれ」
リアーヌは、ゆっくりとドアノブに手をかけ、扉を開けた。
彼との関係は、もう終わった。そう悟った途端、胸の内にあった淡い期待が、音もなく崩れ落ちた。
薄暗い廊下には、手の込んだ壁掛け燭台が等間隔に並んでいた。豪奢な装飾が施されていても、そこは娼婦と客を出口へ導くための通路にすぎない。
リアーヌは、エドワールの隣を歩いた。彼の歩調に合わせ、少しだけ後ろを進む。客を見送るときの作法は、身体が覚えていた。表情を整え、背筋を伸ばし、余計な感情を顔に出さない。そうすることが、今の自分を守る唯一の方法だった。
小さな石橋の向こうに、出口の扉が見えてきた。橋の下では小川が静かに流れ、夜明け前の冷たい空気が水面を撫でている。リアーヌは扉を開いた。
「出口はこちらです。お足元にお気をつけて」
エドワールが外へ出る。
リアーヌは彼を見上げ、微笑もうとした。
「またのお越しを……お待ちして……おります……」
それは教えられたとおりの、マニュアルどおりの挨拶だった。
しかしリアーヌには最後まで言い切ることができなかった。
エドワールは、心底呆れたように眉をひそめた。
「二度目はないと言っただろう。婚前交渉をしたわけでもない、書類上の婚約者……それも、ただの淫売に執着する暇はない」
彼は仮面の奥で、何かを振り払うように顔を背けた。
「まぁ、サービス自体は悪くなかったな。殿下にも報告しておくよ」
リアーヌは、視線を落とした。
最後まで、彼は自分を娼婦としてしか見ようとしなかった。かつての婚約者としての時間も、交わした言葉も、今の彼にとっては侮辱を投げつけるための材料にすぎなかったのだろうか。
扉が閉じる。重い音が、夜明け前の静寂に響いた。リアーヌは、閉ざされた扉の前に立ち尽くした。もう、彼を待つことはない。終わった。その事実が心に染み込んでくる。それでも胸の奥に残った痛みは消えそうになかった。
コメント
1件
エドワールの嫉妬と自己保身が暴言になって溢れ出す様子、すごく生々しかったです。特に彼が父の冤罪まで侮辱の道具にしたとき、リアーヌの胸の内で怒りと悲しみがせめぎ合うのが痛いほど伝わってきました。「またのお越しを」と言いかけて止まったシーン、あの一瞬に彼女の全てが詰まっている気がします…。切ないけど、とても好きなシーンです。