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うめぼっち

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#溺愛
うめぼっち

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うめぼっち

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#ざまぁ
うめぼっち

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エドワールが去ったあとも、リアーヌはしばらく扉の前から動けなかった。
閉じた扉の向こうには、もう彼の気配はない。それでも、耳を澄ませてしまう。馬車が動き出す音が聞こえないか。蹄の音が、もう一度近づいてこないか──リアーヌは目を伏せた。胸の奥に残った痛みから逃げるように、記憶をたどる。
父に死刑判決が下った日──
あの頃の自分は、まだ諦めてはいなかった。父が罪人ではないことを、どうにかして証明しなければならない。自分にはそれができると、強く信じていた。
父の罪状は二つだった。一つは、異端擁護および教会命令違反。もう一つは、王家およびファミーユ家への反逆謀反。どちらも、父が犯した罪ではない。リアーヌには、そう確信できた。
幼い頃から、リアーヌは父の姿を見てきた。厳格な人だった。けれど、理不尽を嫌う人でもあった。権力を持つ者だからといって、弱い者を踏みにじることを許すような人ではなかった。だからこそリアーヌは、自分の知らないことについても、父の無実を信じていた。何かがおかしい。証拠のどこかに、間違いがあるはずだ。そう考えて、リアーヌは父の無実を証明できるものを必死で探した。
けれど、調べれば調べるほど、彼女の前には見えない壁が立ちはだかった。
裁判に用いられた証拠はすでに『事実』として扱われている。
父を疑う者は大勢いる。だが、父を擁護する者はいない。何よりも恐ろしかったのは、誰もが口を閉ざし、父について語ろうとしないことだった。
リアーヌには分かっていた。父を助けることが、危険なのだ。父が罪人だと決められた以上、その無実を口にすることは、王太子や教会に逆らうことと同じだった。
それでも、諦めるわけにはいかなかった。
最後に思い浮かんだのが、顔見知りのファティマだった。
ファティマ・ド・ファミーユ。ソル=アンリの婚約者。王宮の中枢に近い彼女なら、何か知っているかもしれない。もしかしたら、父の罪を晴らすために力を貸してくれるかもしれない。そう思い、リアーヌはファティマを訪ねた。ファティマはリアーヌを王宮に呼び出した。
王宮の回廊には、西日が差していた。中庭の噴水から聞こえる水音が、静かに響いている。ファティマは、いつものように美しく着飾っていた。そして、リアーヌを見るなり、柔らかく微笑んだ。
「リアーヌ。来てくれて嬉しいわ」
その笑顔を見て、リアーヌは少しだけ安心した。
まだ、何も終わっていない。話を聞いてもらえるかもしれない。
「私も……お会いできて嬉しいです」
そう答えてから、リアーヌは本題を切り出そうとした。
けれど、その前にファティマが嬉しそうに微笑んだ。
「伝えたいことがあったの。私と殿下の結婚が正式に決まったわ。私……王太子妃になるのよ」
「……おめでとうございます」
自分の声が固いのをリアーヌは自覚する。
祝福しなければ、と思った。ファティマは、これから王太子妃になる。しかし自分は、父の処刑を目前にしており、父が死ねば恩寵の館の娼婦になる。その違いを思えば、心から祝うことなどできなかった。
けれど、それでもリアーヌは笑顔を作ろうとした。
そんなリアーヌにファティマは曇りのない笑顔を向けた。
「あら、失礼……。タイミングが悪かったかしら」
「いえ……」
「せっかく出てきてもらったのに、悪いことをしたわ」
言葉とは裏腹に、ファティマは笑っていた。
心底嬉しそうな顔で、ファティマは言葉を続けた。
「あなたのお父様の処刑が決まった当日に、こんな話をするなんて」
リアーヌは黙った。
何かがおかしい──直感がそう告げる。
しかし根拠のない勘に従うことはできなかった。父を救うためなら、違和感など気にせずに、頭を下げなければならないと思った。
「……ファティマ様」
「なあに?」
「父のことなのですが……」
リアーヌは、できるだけ落ち着いて話した。
父は罪を犯していない。告発に使われた証拠には、おかしな点がある。父に着せられた濡れ衣を晴らすためにどうか力を貸してほしい。そして最後に、頭を下げた。
「お願いします。私に……協力していただけませんか?」
しばらくの間、ファティマは何も言わなかった。
やがて、その唇がゆっくりと弧を描く。
「可哀想なリアーヌ。あなたはこれから娼婦になるのに、私はこの国の未来の王妃になると決まっている……。運命って残酷だわ」
ファティマは楽しそうに言った。リアーヌは答えなかった。ファティマの視線が、リアーヌの顔から衣服へ、そして足元へと下りていく。その目が冷ややかに細められた。
「でも……貴方も悪いのよ?」
「……え?」
「殿下の寵愛を受け入れていれば、こんなことにならずに済んだのに。殿下の愛人になるよりも、婚約者を選ぶなんて。生まれながらの異端者の、チェンジリング・エルフのくせに……」
ファティマの声に、隠しきれない苛立ちが滲んだ。
リアーヌは、じっと彼女を見つめた。そして、ようやく気づいた──ああ。この人は、ソル=アンリと結婚するのが嫌なのだ。だから、その嫌悪の一部を他の女に背負わせたかったのだ。しかしリアーヌはそれを拒んだ。だから密告した。異端のチェンジリング・エルフだと。
リアーヌは目を伏せた。けれど、まだ分からない。それだけで、どうして父まで巻き込まれるのか。それに彼女はなぜ、チェンジリング・エルフに気づいたのか。
リアーヌは、ファティマの顔を見た。
「……ファティマ様」
「なに?」
「父が何か、あなた方に不都合なことをしたのでしょうか」
ファティマの笑顔が、一瞬だけ固まった。
ほんのわずかな変化だったが、リアーヌは見逃さなかった。
「どうして、そんなことを?」
「……父は、何も悪いことをしていません」
「そう……。貴方は本当にお父様のことが好きなのね」
ファティマは微笑み、はぐらかす。
リアーヌには、それ以上問い詰めることはできなかった。
「……王太子妃殿下」
リアーヌは静かに頭を下げた。
「そろそろ、お暇させていただきます」
「あら。もう帰るの? もっとお話したかったのに……」
「私はもう、貴族の娘ではありません。この場にいてはならない身ですから」
リアーヌは深く頭を下げ、そしてファティマに背を向けた。
一歩、また一歩。回廊を歩く自分の足音が、やけに大きく聞こえた。
背中にファティマの視線を感じる。その視線から逃げるように、リアーヌは歩き続けた。けれど、その背後から、静かな声が追ってきた。
「本当に可哀想。私はいずれ王妃になる。だけどあなたの人生には、何も残らない」
ファティマの声は、慈悲深い女のものだった。
けれど、その響きには隠しきれない喜びが混じっていた。
「私の勝ちね、リアーヌ」
◇
エドワールの気配は消えた。リアーヌは扉に背を向けて、館内の通路を歩く。
無実の父を、誰も助けようとはしなかった。あれほど国に尽くした人を、この国の貴族は皆、保身のために見殺しにした。それがこの国の、ヴェルムート貴族の誇りある姿だ。この国に正義はない。それを知っていながら何故、エドワールに期待したのだろう。父を助けてくれる人はいなかったのに、彼が私を助けてくれるはずがなかった──
リアーヌは悟った。誰かの助けを待っているだけでは、何も始まらない。愛や好意を得たからといって、幸せになれるわけでもない。では、自分はこれから何をすればいいのだろう。浴室で体を洗っても、何も見えないままだった。
コメント
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ああもう、ファティマの「私の勝ちね」の台詞が本当にゾッとしました……あの場面の空気感がすごく生々しくて。 リアーヌが「誰かの助けを待っていても何も始まらない」と悟るまでの、絶望と静かな決意の描き方が素晴らしかったです。彼女に残されたものはほんのわずかなのに、それでも前に進もうとする姿に胸が締め付けられました。白波さんの心理描写、本当に丁寧で大好きです。続きが気になって仕方ないです……!