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第6話:ギフトの影
放課後の商業ビル。ガラスの自動ドアが壊れたままの空きビルには、人影はない――はずだった。
ユイナは静かにビルの階段を上がる。
ここ数日、彼女はある異変に気づいていた。
街で“見えたマスク”が、明らかに通常とは異なる“密度”と“形”を持つことに。
その日、彼女は3人目の“異様なマスク”の持ち主を目撃していた。
それは、路上パフォーマンスを装った男。笑っていたのに、心の奥が濁っていた。
その記憶の余韻がまだ残る中、ユイナのポケットが重くなる。
取り出すと、そこにはいつの間にか入っていた金の縁取りの手紙。
中には、白い紙に整った文字が印刷されていた。
彼女が目を通したとき、背後の空間が“折れる”ように歪んだ。
空間から、誰かが歩いてきた。
身長は190cm近い。軍服のようなスーツ。
顔には漆黒のマスク。瞳の位置には何もなく、ただ漆のような闇が広がっている。
男の名は「スギモト」。
ギフト保持者のひとりであり、通称“時間の面”を持つ者。
「視える者よ。ここに来たということは、選ばれたな」
声は響くようで、耳に直接届くようでもある。
ユイナは後退しながら、即座にサイトピアを展開。
だが――視えない。
(この人のマスク、中身が……“何も”ない?)
次の瞬間、空気が止まった。
ビルの照明、風、音、心音。すべてが“静止”した。
クロノがゆっくりと前へ進む。
彼の持つギフトスキル――《ギフト・リピート》。
時間を“巻き戻す”のではなく、任意の瞬間を3回まで“固定再現”する力。
ユイナの動きが封じられ、動揺が広がる。
だが、彼女は小さく囁いた。
「サイトブレイク」
視界に浮かび上がったのは、かすかな“繰り返しの裂け目”。
ユイナは飛ぶように前転し、床を蹴って上へ。
近接戦は不利――それでも逃げずに、彼女は斜め後方から反撃の一撃を放つ。
だがクロノは“同じ動き”を繰り返し、彼女の攻撃を3回連続で無効化。
光が砕け、ユイナの身体が壁に叩きつけられる。
「まだ早い。お前の“ギフト”は、まだ目覚めていない」
彼の声がビルに残響する中、ユイナは薄れゆく意識の中で感じていた。
――これは“別格”だ。
力の質が違う。
そして、手紙の最後の一文が脳裏に残る。
『10人のギフト保持者が存在する。
彼らは、仮面の法則の原初と接触し、代償の先にある“力”を得た者たちである』
床に崩れながら、ユイナの右手には小さな光が宿っていた。
たとえ視えなくとも、自分にはまだ――届く術があるはずだ。