悪魔の力を借りたイジメっ子への報復。魔界の社会構造−−様々なことが頭の中を駆け巡り、根岸は風呂を上がってベッドの中に入っても興奮のせいか中々、寝付けなかった。
「兄貴ぃ、眠れないの?睡眠魔法でも掛けて上げようか?」
枕元からフリーダが根岸に語りかける。
「おい、止めろよ。勝手に……」
そこまで言いかけた根岸は、自分の体がベッドの中に吸い込まれていくような感覚を覚えた。
「……魔法なんて掛けるんじゃないよ」
次の瞬間、根岸は自分自身の声で目が覚めた。充電スタンドの上でスマホが目覚ましアラームを鳴らしている。
根岸は手を伸ばしてスマホを触ると、アラームを止めた。画面表示を見ると、朝の6時半になっていた。
「♪ 新しいアーサーが来た。希望のアーサーだ。喜びに胸を開け、大空仰げ〜」
枕元でフリーダが調子外れの歌を歌う。
「アーサー王もランスロットも来なくていい」根岸が噛みつく。
「アーサー王もランスロットも来なくていい……ってことは、兄貴はサクソン人側?」
「朝一番で頭を使う小ネタ止めろ。後、本人の承諾なしに勝手に魔法を掛けるな」
「姐御に治癒魔法掛けて貰った時には、視線逸らして息なんか止めちゃってアオハルしてた人が、コレですわ。はーヤレヤレ」
フリーダが茶化す。
「おま……そういうの、止めろよな」根岸がムッとして言う。
「ヒロくーん」階下から母親が根岸に声を掛ける。「起きてる?トースト何枚?」
「うん、今そっちに行く。2枚お願い」
階下に向けて大声で返事をすると、根岸はフリーダに言った。
「覚えとけよ」
「へっへーん。もう忘れちゃいました〜」
起きがけに洗面所に行き、顔を洗い、口の中をゆすぐ。夢も見ないほど熟睡したせいか、鏡の中の自分からは目の下の隈が消えていた。
リビングでは兄がTVの対面側のテーブルに陣取り、トーストを食べながら朝の全国ニュースを見ている。
兄が自発的に、こんな早く起きてくることはないから、多分、自分の部屋で一晩中ゲームをするか動画サイトを漁るかして、腹が減ったから下に降りてきてご飯を食べているといったところだろう。これで眠くなれば自分の部屋に戻って一眠りする筈だ。
昼夜逆転した、ストレス・フリーでやりたい放題の引きニート生活。羨ましい限りだ。
「お早う」
根岸が挨拶するが、兄は小さく「おぅ」と答えただけで、TV画面から目を離そうとしない。
「……18日の空爆に続き、コメヌカ軍は20日未明 イェメン南部の港町を攻撃しました」
原稿を読むアナウンサーに合わせて、米軍が提供した映像がTVに流れる。
真っ暗闇の中、船の甲板から垂直にミサイルが撃ち出される。ミサイルの尾部から吹き出す炎が、直線と平面だけで構成されたイージス艦特有の輪郭を、闇の中に浮かび上がらせる。イージス艦は数秒間隔でミサイルを発射し続けている。光と闇が交互に中東の海に訪れる。
画面が切り替わり、暗闇の中、空母からジェット戦闘機が発艦する映像になった。轟音を立て、ジェット機が闇の中に飛び出していく様子が2台分流れた後、画面がまた変わる。
「現地で医療活動を続ける赤新月社によると、これまでに子供や女性を含む70人が死亡、180人以上が負傷したと伝えられています」
今度TV画面に映ったのは、黒・灰色・白のモノトーンで映し出された、何処かの街の暗視映像だった。画面の真ん中の大きな建物に、死の予兆のように小さな十字マークが重なっている。画面の外から現れた白い小さな点が、大きな建物と重なった瞬間、画面が激しく明滅し、それが収まると、キノコ雲のミニチュア版のような雲が、上空へ向けて昇り続けていく。
アナウンサーが淡々と原稿を読み上げる。
「コメヌカ軍は、この港がイランを始めとする反米勢力からの軍事物資供給の拠点に使われていたとした上で、国際テロ組織「神の拳」を弱体化させることが目的だったと説明。イェメンの一般市民を傷付ける意図はなかったと主張しています」
コメント
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コメヌカ軍…嘘つけ絶対市民巻き込む気満々だゾ
フリーダ朝一で歌ってんのおもろw