テラーノベル
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#大人ロマンス
#サレ妻
「……蓮、配信を止めろ…!こんなもの、見せちゃいけない……」
健一は肩のナイフに手をかけながら、血を吐くように訴えた。
だが、5歳の執行人はタブレットを固定し、カメラの画角を調整しながら冷たく言い放つ。
「ダメだよ、パパ。……今、同接30万人を超えた。これが一番の『防犯』でしょ? …ほら、あやめさん。画面の向こうのみんなが、あやめさんのことを見てるよ」
あやめは、向けられたレンズの中に映る自分の「醜い顔」を見て、激しく動揺した。
彼女が求めていたのは、完璧で美しい「奈緒」の再演であり、こんな血塗れのヒステリックな女ではなかった。
「…消しなさい。…そんなカメラ、今すぐ壊してあげるわ!!」
あやめが蓮に向かってナイフを振りかざしたその時
蓮は一切動じず、ただ画面に流れる無数のコメントを読み上げた。
『うわ、この女マジで狂ってる』
『奈緒のパクリの成れの果てww』
『早く警察行けよサイコパス』
「…パクリ? 私が、パクリですって……?」
あやめのプライドが音を立てて崩壊する。
彼女にとって、奈緒になることは救済だった。
だが、世間は彼女を「奈緒」とは認めず、ただの「劣化した模倣犯」として嘲笑っている。
「……健一さん。ねえ、あなたは分かってくれるわよね?私は、あなたの奈緒なの。……あの死んだ女よりも、ずっとずっと、あなたを愛してあげられる…」
あやめは崩れ落ちるように健一に縋り付いた。
傷口を圧迫し、さらなる苦痛を健一に与えながら、彼女は歪んだ愛を乞う。
「…君は……奈緒じゃない。……奈緒は、こんなに…っ、浅ましくなかった……」
健一の最期の拒絶。
それは、あやめの存在意義を根底から否定する言葉だった。
あやめは、憑き物が落ちたような顔で健一を見つめ、次に、無機質な視線を送り続ける蓮を見た。
「……っ、」
あやめは自嘲気味に笑うと、健一の肩からナイフを引き抜いた。
そして、その切っ先を、カメラの向こう側にいる数十万人の観客に見せつけるように掲げた。
「…これが、あの子が望んだエンディング、かしら」
あやめがナイフを自らの喉に当てようとした瞬間、遠くでサイレンの音が鳴り響いた。
蓮はそれを見届け、満足げに配信を終了させた。
「パパ。……これで、偽物のお掃除は終わりだね」
蓮は、瀕死の健一の頭を
あの日、奈緒がしていたのと全く同じ慈愛に満ちた手つきで撫でた。
健一は、血の気が引いていく中で
あやめの狂気よりも、自分を守るために配信という名の「公開処刑」を選んだ
息子の冷徹さに、底知れぬ絶望を感じていた。
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