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眠狂四郎
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眠狂四郎
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#戦国時代
眠狂四郎
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#戦国時代
眠狂四郎
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リウィウス、ネルロの軍は、ついにメタルギア川でハスドルバル軍を捕捉した。
ハスドルバル軍、六万。
対するグラン軍、三万七千。
数では、敵が大きく上回っている。
川を挟んで布陣する敵軍を眺めながら、ネルロはしばらく黙っていた。
やがて――。
「なんだ、ありゃ。」
隣にいたリウィウスが振り向く。
「どうした。」
ネルロは敵陣を指差した。
「スピリタスも大したことねえな。」
「……何の話だ?」
「あんなのに逃げられたのか。」
リウィウスの眉がわずかに動いた。
ネルロは構わず続ける。
「中軍と右翼はまとまってる。ありゃハスドルバルの本隊だろう。」
そして、敵の左翼へ指を動かした。
「だが、左は駄目だ。」
「駄目?」
「全然まとまってねえ。隊列も歩調もばらばらだ。」
ネルロは鼻で笑った。
「たぶん、合流して日が浅いガラリア兵か何かだろ。」
リウィウスも敵左翼へ目を凝らした。
確かに。
中央と右翼に比べ、明らかに統率が取れていない。
兵数を揃えるため、急遽かき集めた兵なのだろう。
「なるほど。ならば――」
「じゃ、行ってくる。」
「……は?」
振り向いた時には、ネルロはもういなかった。
「おい、ちょっと待て!」
慌てて探す。
いた。
すでに馬上だった。
「ネルロ!」
その声が届くより早く、騎兵隊が動き始める。
向かう先は――敵左翼。
「……あの馬鹿。」
リウィウスは額に手を当てた。
だが、もう止められない。
ならば。
勝たせるしかない。
「全軍、戦闘態勢!」
号令が響く。
グラン軍三万七千が、一斉に動き始めた。
そのはるか前方では――。
ネルロ率いる騎兵隊が、すでに敵左翼へ向かって疾走していた。
「このまま突っ込みますか!」
疾走する馬上で、部下が叫んだ。
ネルロは敵左翼を見た。
その向こうには――川。
「いや。」
手綱を引く。
「川を渡る。」
「川を?」
「背後へ回る。」
ネルロは笑った。
「川を使って包囲するぞ。ついてこい!」
騎兵隊が大きく進路を変えた。
敵左翼へ正面から突撃すると思われた騎兵は、そのまま川沿いを疾走し、
浅瀬を渡る。
そして大きく迂回すると――
敵左翼の背後へ回り込んだ。
「突っ込め!」
騎兵が雪崩れ込む。
敵左翼は、何が起きたのかすら理解できなかった。
正面にはグラン軍。
背後にはネルロの騎兵。
側面には味方の中軍。
そして、もう一方には川。
逃げ場がない。
押された兵が川へ落ちる。
逃げようとした兵が味方とぶつかる。
隊列は瞬く間に崩壊した。
一度生まれた混乱は、隣の部隊へ。
さらにその隣へ。
崩壊は波のようにハスドルバル軍を飲み込んでいった。
「左翼が崩れました!」
「何だと!」
ハスドルバルが振り向く。
土煙が上がっていた。
その中から、一騎の騎馬が飛び出してくる。
速い。
あまりにも速い。
「敵騎兵です!」
遅かった。
すでにネルロは眼前にいた。
ハスドルバルは剣へ手を伸ばした。
その瞬間――。
刃が閃いた。
「兄者――」
ハスドルバルの首が、宙を舞った。
ハスドルバルの首を手にすると、ネルロはすぐさま兵を集めた。
「よし、帰るぞ!」
「は?」
部下たちが目を丸くする。
「帰るって……どこへです?」
「決まってんだろ。」
ネルロはハスドルバルの首を掲げた。
「バルカのところだ。」
戦場では、まだ敵兵の掃討すら終わっていない。
「急げ! あんまり留守にしてると、じじいにバレる!」
七千の兵が慌ただしく隊列を整える。
そしてネルロ軍は、来た時と同じように――
風のように去っていった。
あとに残されたリウィウスは、ただその光景を眺めていた。
勝った。
六万の敵軍を破った。
敵将ハスドルバルも討ち取った。
間違いなく大勝利である。
本来なら勝鬨を上げ、将兵と喜びを分かち合うところだった。
だが――。
「…………」
その勝利をもたらした男は、もういない。
遠くに小さくなっていく騎兵の土煙を見つめながら、リウィウスは呟いた。
「なんじゃ、ありゃ……。」
勝利の余韻など、どこにもなかった。
「何事だ。騒がしい。」
天幕の外が妙に騒がしかった。
バルカは立ち上がると、外へ出た。
兵士たちが集まっている。
誰もが何かを見つめていた。
「どうした。」
人垣が割れる。
その中心に、マゴがいた。
「……マゴ?」
様子がおかしい。
泣いているように見えた。
いや――泣いていた。
両手に何かを抱えている。
大切なものを壊さぬように。
胸に抱きしめるように。
マゴはこちらへ歩いてくる。
何かを言おうとしている。
だが、声にならない。
「……」
バルカは、その手にあるものを見た。
足が止まった。
弟だった。
ハスドルバル。
何年も会っていなかった。
スパルーニャを任せたまま、自分はアルペスを越えた。
そして今――。
弟は六万の兵を率いて、自分のもとへ向かっているはずだった。
合流すれば、まだ戦える。
王都へ進める。
この長い戦争を、もう一度ひっくり返せる。
そう思っていた。
だが。
もう、来ない。
バルカは何も言わなかった。
マゴも何も言えなかった。
ただ、弟の顔を見つめていた。
それが何かわかったとき――。
バルカは悟った。
最後の望みが、ついえたことを。
◇
ネルロはハスドルバルの首をバルカの陣中へ投げ込むと、
そのまま自陣へ帰還した。
七千の兵も、何事もなかったかのように元の配置へ戻っていく。
ネルロは馬から飛び降りると、真っ先に一人の老人を探した。
自分の代わりに陣中へ残しておいた、老副官である。
「おい。」
「はっ。」
ネルロは周囲を気にしながら、声を潜めた。
「じじいには、まだバレてないよな?」
老副官は、しばらく答えなかった。
コメント
1件
うわあ、ネルロまたやってくれた……! 七千の騎兵だけで六万の敵の背後に回って、大将首まで取ってくるって、もう英雄譚どころじゃないですよ。でも一番グッときたのは、バルカが弟の首を見たときの静かな絶望です。あの「もう来ない」の一文が重すぎる。そして何より、ネルロが「じじいにバレるなよ」って慌てて戻るギャップがたまらない(笑)。軍師リウィウスの呆れた顔が目に浮かびます。