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レイ
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「こっからは手加減なしだぜぇ?」
ーー愛ほど無駄なものは無い。
少なくとも、ワタシはそう思っている。
アマレーは「愛してあげる」なんて浮かれたことを言っているけれど、ワタシにはさっぱり理解できない。
愛なんて、所詮は辛いだけの不幸製造機だ。
そもそも、どうしてコイツはワタシを愛したがる?
……いや、それ以前に。
愛ってなんだ?
考えても、答えは出ない。
アマレーは相変わらず門の頂上から、ワタシを見下している。
あのキチガイ女の 血=愛という考えは到底理解できないけど、「誰かを愛し、自分も愛される」ことを求めているのは間違いない。
だけども、その異常性がワタシに向くのは勘弁してくれ。
たしかに厨二病からしたら、緑の血ってカッコいいんだろうけど。
ーーまぁ、それは置いといて。
ワタシは、地球上の酸素を全部食べ尽くすくらい、大きく息を吸った。
その後、肺いっぱいの空気を一気に吐き出した。
「ワタシの本気、見てなさい!」
ワタシの叫びに対し、アマレーは舐め腐った態度。
「ふーん、じゃあこっちもそうする」
ようやく、高みの見物が飽きたらしい。
アマレーは門から飛び降り、初めてワタシと同じ地面に立った。
正々堂々戦うために、ワタシも木の枝から地面に足を置く。
わざと、鞭を叩いて威嚇する。
「ねぇ、お願いがあるの」
「なんだい、アマレーちゃん」
ちゃん付けで呼んで首を傾げると、アマレーはまた興奮した様子でワタシの目を見た。
こちらの反応を見ているのか、一瞬の沈黙。
でも、すぐに打ち破る。
「あたしが勝ったら、君はあたしの恋人ってことで。いい?」
「ありゃ、それはそれは。いいねぇ楽しそう。
却下しよう」
ノリノリなテンションとは真逆の、否定の言葉。
「なんで」
アマレーは本当に不思議そうだった。
まるで「恋人になることを断る理由なんてあるの?」と言いたげな顔。
やっぱり、コイツとは根本から違う。
「コイビトに、あんまりいい思い出ないしさぁ。」
わざと軽く言ってみせる。
「それに、オマエと付き合うなんて死んでも嫌」
これは半分本気。
ワタシは死ぬつもりはない。 でも、コイツと付き合うくらいなら、内臓をフルセットで売る方がまだマシ。
アマレーはくつくつと不気味に笑いながら、こう言った。
「じゃあ、今から婚活パーティってことにしよう」
いつの間にか、彼女の手には真っ赤に染めあげられたレイピア。カッターナイフはポケットにしまったみたい。
……婚活ってこんなだっけ?
まぁ置いておこう。それより、戦闘準備はバッチリだ。
ワタシは一歩踏み出して、もう一度鞭を叩いた。
「社交ダンスくらいなら、してあげる」
「そう来なくっちゃ」
そこで、会話が途切れた。
次は戦闘という予告だろう、身構える。
コイツが貧血になるまで耐える。それまで全力で戦えばいいだけの事。
でも、それだけじゃあ、楽しくない。
……あ、そうだ。
いいこと、思いついちゃった♪
嫌いなものほど活用したらいいよね。
その時。
真正面に爆弾が飛んできた。
顔と同じ高さ、距離は目と鼻の先。
これが婚活開始の合図。
爆発するまで、もう猶予もない。だから。
ワタシは反射的に、足で爆弾を蹴り落とす。
地面へ叩きつけられた次の瞬間。
ドォンッ!
腹の底まで響く爆音とともに、爆風が真正面から襲いかかった。
アマレーの赤い血と、ワタシの緑色の血が混ざって、お気に入りの服はさらに悲惨な姿になった。
頬が爛れているのかもしれない。緑の液体がこれでもかと溢れでてくる。
「ぐへぇ〜、いたァい」
眉間に皺を寄せる。それとは対照的に、アマレーは悪魔的な笑みと、 レイピア片手に猛進。
「痛くないんだよね!?」
首の動脈を狙っている。殺意マシマシな視線。
たとえワタシが理想の愛の形なんだとしても、任務だから殺さないといけないみたいだ。
「そうだけど何?」ワタシは答えを求めない問いを投げた。
鞭を振るう。
空気が裂ける音が遅れてついてくる。前髪が、ふわりと逆立ちする。
蛇のようにうねりながら、アマレーの腕へ――。
行かなかった。
本当なら、レイピアを叩き落として主導権を奪うはずだった。
だがアマレーは、うねりながら迫る鞭を、
途中で、思い切り掴んだ。
「……っ」
動きが止まる。
「ふぇ〜!?嘘〜!?」
思わず素っ頓狂な声が漏れた。
……予定がズレた。
でも、まだいい。
別ルートに切り替えるだけ。
アマレーは、その場でくるりと一回転した。
まるで舞踏会のお姫様みたいに。
勢いのまま、鞭を引かれる。
運動会の綱引きみたいに、一気に。
身体が連れていかれる。足が勝手に動かされる。
ちょっとやめてくれ、という思いとは関係なく、一瞬にして距離が急接近。
ーー来た。
相手は相変わらず首を狙っている。ワタシがアマレーに密着した瞬間に、ワタシの首に斬込みでも入れるつもりだろうか。
そうすれば、血も見れるもんね。
「あれぇ?どうしたの?」
「予想より弱い」と言いながら、彼女は真正面に剣を突き出した。
密着するまであと、三、二、一。
ーー今。
アマレーとの距離が一メートルくらいになった時。
ワタシは、生成した鞭を消去した。
「はっ?」
アマレーの体制が崩れる。そりゃあ、綱引きをしてる最中に縄がなければそうもなる。
この綱引きを中断させれば、ワタシの計画通りに行く。
ワタシの能力は鞭を生成する能力だもの、いつだって主導権は、このワタシ。
よろけたアマレーは、レイピアの狙いまでぐちゃぐちゃ。それなのに重心は整えず、 勢い任せて喉笛に細剣を突き出した。
焦ったね。
それは、おすすめできないよ。
「いっただきまーす!」
ワタシはアマレーの腕を掴み、そのまま自分の身体をひねる。
喉を狙っていた切っ先は、肩へと逸れた。
グサッと鋭くて冷たいものが、ワタシの肩を貫く。
「あっ!?」
アマレーの驚きの声。
いいねぇ、その青ざめた顔。
さすがにここまで予想はできなかったか。
自分から刺さりに行くアホが、今この場にいるんだから。
「よかったわ、痛覚なくて。」
驚いた拍子に、アマレーの柄を握る力が弱まる。
その一瞬を、ワタシは見逃さなかった。
「せんきゅー!」
ワタシは柄を掴み、そのままアマレーの足を払う。
すると、余計にバランスを崩したアマレーは、完全にレイピアから手を離した。
その隙に、三メートルほど距離を取る。
レイピアは刺さったまま、血が土に混ざる。
「あなた……へぇ……そういう」
「うん」
ようやく相手もワタシの思惑に気がついたみたいだ。
鞭で近接戦闘が無理ならば、相手の武器を奪えばいい。
舞台は森、鞭は開けた場所での戦闘を得意とする。オマエが剣使いでよかった。
「言ったろ?ここから手加減なしって」
肩に刺さったレイピアを、ぐりぐりと引っこ抜く。
緑の血が、眼前に溢れ出す。
肩から引き抜いたレイピアを、くるりと一回転させ、 重さを確かめる。
うん、悪くない。
「てなわけで、お借りしまーす」
今からワタシはーー。
「剣と鞭の二刀流だ!」
レイピアの切っ先をアマレーへ向ける。
右手には奪った細剣。
左手には、先刻生成したばかりの黒い鞭。
何も知らないヒトから見たら、変なだけだろう。
「オマエと違って、大事なヒトがいるのよ! 早く行かせてよね!」
ワタシは、大地を踏み締め、走り出した。
ーー思ったより時間を使った。
ワタシだって無敵じゃない。 ……もっと冷静に戦わないと。
だけど、相手だって止まっちゃいない。
また、カッターナイフを取り出す動作を見せる。
ポケットから刃が出たままのカッターが垣間見える。
アマレーは慣れた手つきで、自分の腕に深い傷を刻み込んだ。
血がぽたぽたと、心配になるほど流れ落ちる。
それが、重力を無視して、空中で形を変え始めた。 血が空中で絡み合い、圧縮され、鋭い穂先を形作る。
言葉にできないほどの速さで完成したのは、一振りの槍。
アマレーはそれを迷いなく掴み、そのまま一直線にワタシへ飛び込んできた。
「大丈夫よ、篠塚レンと桜月イロハなら、リアスが愛してくれるわ!」
その言葉とほぼ同じタイミングで、ワタシとアマレーは武器を振り上げた。
ガキィンッ!
耳をつんざく金属音が森中に響く。
アマレーの攻撃を防ぎながら、ワタシは。
「はぁ!?アイツなんかに愛されるなんて、フタリとも真っ平ゴメンよ!」
槍とレイピアがぶつかり、火花が散った。
「なんで? リアスはあたしもみんなも愛してるのよ?」
アマレーは槍を押し込みながら、心底不思議そうに首を傾げる。
ただ、コイツの「愛す」は傷つける行為を指す。
ということは、今頃あのフタリはーー。
「愛は心を満たすもの!」
「……っ!」
押し負ける寸前で力を逃がし、剣を滑らせる。
槍の穂先が肩をかすめ、緑色の血が宙を舞った。
その隙に左手の鞭を振るう。
バシィッ!
鞭は槍の柄へ巻き付いた。
「たしかに」
ワタシは思い切り引っ張る。
「愛はヒトを救うこともある。」
アマレーは槍を離さない。
そのまま身体を回転させ、逆にワタシを引き寄せる。
「でしょ?」
勝ち誇った綻びを見せるアマレー。
「でもさぁ!」
コイツとの言葉の戦いは負けたくないね。
距離が詰まる。
ワタシはレイピアを振り抜き、槍を弾いた。
「血は意味わかんない! 愛しすぎたら死ぬじゃない!」
ずっと疑問に思ったことを、叫んだ。
すると、
「死んだ時はね。」
アマレーは微笑んだ。 その笑顔だけは、本当に幸せそうだった。
どれだけ自分がキチガイなのか、理解していないみたい。
「『ああ、こんなに愛してたんだ』って、嬉しくなるよ。」
「……。」
一瞬だけ思考が止まる。
……いや、ここで黙ったら相手の空気に食われる。
「聞いたワタシがアホでした。」
槍が一直線に突き出される。
ギリギリで身をひねると、穂先がまた、頬を掠めた。
「なんで?」
アマレーは追撃を止めない。
「なんで君は、そんな嫌そうな顔するの?」
レイピアで槍を受け流す。
同時に鞭を足元へ叩き込み、砂煙を巻き上げた。
「オマエみたいなやつには。」
息が上がる。
視界も少し霞んできた。表情がよく見えない。
「理解は難しいだろうけど……っ!」
レイピアを振り抜く。
アマレーは槍で受ける。
ガキィンッ!
「こっちは生きてんの……っ」
もう一撃。
「ずっと、生きてるのよ。」
鮮やかな火花が散る。 剣と槍が何度もぶつかり合う。
「好きなヒトに会いたいって理由だけで、放火したヤツもいた。」
ギィンッ!
「好きなヒトを取られるくらいならって、女を刺したヤツもいた。」
槍を弾き飛ばす。
「いろんな愛の形を見てきた。」
大きく息を吸う。
「だからこそ言う。」
レイピアの切っ先を、アマレーへ真っ直ぐ向けた。
「愛ほど無駄なものは無い。」
ワタシは何を言ってるんだろう。
アマレーの笑みが、ほんの少しだけ揺らいだ。
ワタシの言葉が気に入らなかったんだろう、今までの笑みが演技というように、無表情に変わってく。
「愛は金で変わる。」
一歩、踏み込む。
「嘘にも弱い。」
もう一歩。
どんどん目的地の門から距離を離していく。
「世間にも弱い。」
剣を握る手に、自然と力が入る。
「……訳の分からないもののために」
胸の奥に、遠い日の景色がよぎる。
大きく見えた背中、統一された軍服。
それを見ることしかしていなかったワタシ。
「愛を投げ出さなきゃいけなかったヒトだっている」
剣先は、惨めなほどに震えていた。いっちょ前にトラウマ思い出して、感情むき出しにするなんて。
こんなのワタシじゃない。
「その気持ちだけは……アンタには、分かってほしくない。」
あの日の感情は、忘れるはずない。
忘れたい、忘れられない。
あの目……あの目が今もずっと。
「……ふーん」
つまり君は……とアマレーが言葉を切ったところで、空気が一変した。
一体、自然は何思ったのだろうか。こんな時に、心地よい風が髪をなびかせた。
そよ風が落ち葉を乗せて、一瞬だけアマレーの顔を隠す。
だけど、目を疑う速さで目の前から去っていった。
まるで、逃げるみたいに。
葉が通り過ぎて行ったあとに残ったアマレーの顔は、恐ろしいとしか言いようがないものだった。
瞳孔が大きく開かれて、首の筋肉がないみたいに、首を傾げる。
「愛が、いらないとでも言うの?」
あ。
これ、終わったかもしれない。
声のトーンを聞いた瞬間にそう考えた。
どうしようと思っているうちに、腹部に凄まじい衝撃が突き刺さった。
ワタシの口から、血が溢れ出る。
「……はっ……?」
ワタシの腹をーーいや、胴体を……。
槍が、思い切り貫通した。
口からもヘソからも、血。
血しか見えない。
「うっ……!」
喉から血以外のものまで吐いてしまいそう。
吐き気が、さっきからずっとある。
身体には異物が混入する違和感だけ。それでも無傷なわけじゃなくて、むしろ重傷。
「君ぃ、なかなか度胸あるじゃん」
アマレーは躊躇なく槍を引き抜いた。
その勢いのまま、アマレーはワタシの腹部を、思いっきり蹴り飛ばしたのだった。
「ひぁ……っ!」
痛くもないのに、苦痛の声が吐き出された。
幸い、木がワタシを受け止める。
震える手で顔を覆いながら、目を開けると、
先ほどいたところから何メートルも離れたところで、地面に尻をつけていた。
ーーここまで蹴り飛ばされたと言うの?
アマレーの顔が、微かに見える。
レイピアはちゃんと手に持っている。鞭は離してしまったけれど、もう一度生成すればいい。
でも、一番の問題は。
アマレーだ。
彼女は、へなへなとした様子でこちらに足を向けている。
ゆっくり、近づいてくる。
足音だけが、やけに耳に残った。
まるで世界が、その歩みに合わせて静かになっていくみたいに。
その顔は、
無表情だった。
ただ、呆れた様子で、ワタシを嘲笑った。
「可哀想な君に、愛を教えてあげる」
第三十三の月夜 「会いたい」へ続く。
コメント
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半分本気ってとこで僕の中の厨ニ病が歓声をあげました
圧巻です🫣指折りのハードなバトルに、ただ圧倒されました。次で決着?楽しみにしています。