テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
白山小梅
12
#借金
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
* * * *
温泉に浸かりながら、七香は話すタイミングを窺っていた。その時ちょうど外の露天風呂が空いたので、全員で移動することにした。
辺りはまだ明るく、少しずつ空が夕焼け色に染まり始めていた。露天風呂があるのは屋上のため、近くにある湖や温泉街がそれは美しく見える。
「はぁ、露天最高!」
「気持ちいいねぇ」
浴槽の縁にもたれかかるように景色を眺めていた四人は、揃ってほうっと息を吐いた。
「そういえば今日行った美術館、すっごく素敵でさ、絶対に七香の好みだよねぇって話してたんだよ」
頬を赤く染めた楓が、興奮した様子で七香に話しかける。
「へぇ、どんな感じの美術館だったの?」
「ほら、いつもつけてるレモンのネックレスあるじゃない。あんな感じのがいっぱい展示してあったり、売ってたりしてさ」
ドキッとした。先ほど昴と会った後で、まさか今ネックレスの話題を出されるとは思っていなかった。
「あのネックレス、相当七香のお気に入りだよね。どこで買ったの?」
どこでと聞かれ、思わず口ごもってしまう。視線が揺れ、誰が見ても動揺しているのがわかるほどだった。三人は顔を見合わせると、ニヤリと笑う。
「あっ、なるほど。自分で買ったんじゃないんだ」
「つまり誰かにもらったプレゼントってこと? 誰にもらったの?」
「えっと……友だち?」
グイグイと質問をしてくる三人をかわそうと、なんとか頭をフル回転させる。言いたくないわけではないが、どこまで話せばいいのかわからず、それならば黙っている方が楽だと思い、つい嘘をついてしまう。
「なんで語尾が上がるの? あっ、もしかして男ってこと?」
「恋愛に興味がない七香が? でも一応付き合った人はいたよね」
「『友だちからでいいから』って言われて、本当に友だちで終わったやつでしょ? さすがにあの二人からもらったものをずっとつけたりはしないでしょ」
「じゃあ……誰にもらったの?」
「やだなぁ、憶測で話し過ぎだよー。これは家族からもらったものでーー」
「あーっ!」
「何よ、翔子ってばいきなり大きな声出して」
「さっきのあの男! 七香のネックレスに触って驚いた顔してた!」
「えっ、それ本当⁈」
「ってことはもしかして……」
全員の視線が七香に集中する。ずっと口を閉ざして言い訳を探していた七香だったが、ここまで来ては逃げ|果《おお》せる自信は全くなかった。
諦めたようにため息をつくと、両手をあげた。
「なんでそんなに知りたいの? 別に、みんなが期待してるようなことじゃないよ」
「じゃあなんで隠すわけ? 大したことじゃなければすぐに話せるでしょ」
「それは……ちょっと複雑な事情があるの」
「それで? あのネックレスをくれたのは、やっぱり今日会ったあの人なの?」
「……そうだけど、別にただの従業員と客の関係だったし、別れ際にお礼にくれただけ」
だいぶ内容を端折った気がしたが、どれも真実で嘘はついていない。
しかし三人は納得のいかない様子で、再び七香に詰め寄ってくる。
「あの人に告られた?」
「ないない。だってあの人には好きな人がいるもん」
「じゃあ逆に七香がフラれてたりして」
こんなに的を射た質問をされては、どう反論していいのかわからず、黙り込んでしまう。しかし無言はある種の肯定であり、三人は驚いたように目を見開いた。
「うそっ、七香が失恋経験者だったとは……」
「ちょっと意外だった。フッたことしかないと思ってたもん」
「まぁ高校生の時だし」
「七香って恋愛に興味がないと思ってたんだけど……もしかしてあの人に失恋したことが原因とか?」
確かにその通りだったが、失恋というよりは、あの二人の愛に心を折られたという方が正しいかもしれない。欲しい愛を与えられないのに、愛することをやめられない昴の姿を見ても、まだ子どもだった七香は、早紀に対抗し彼の心を変えるほどの術を何も持ち合わせていなかった。
「そうだね……私じゃ勝てない相手だったってことかな。深すぎる愛は不健康になるのよ」
ちょうど昴の話が出たし、三人が黙ったところで、七香は先ほどの話をするいいタイミングだと思えた。
「それでね、さっきの人が久しぶりに話したいらしくて、夜に少し出かけてもいいかな」
「えっ、なんで⁈ フッたくせに話したいとか非常識じゃない⁈」
「あぁ、確かに非常識かも。でも昔もあんな感じだったからなぁ」
「というか、女連れだったよね。なのに七香を誘うの?」
「ただ話すだけだよ。もうそういう気持ちはないもん」
「わからないよ、男は下心がないのに誘ったりしないと思うもの。あっ、ミッチーは違うけど!」
突然羅南によってぶち込まれたアイドルネタに笑いながら、四人はそろそろ上がろうかとか浴槽から出る。
「私たちは口だけは出しまくるけど、決めるのは七香自身だからさ」
「そうそう。でも危険を感じたら、すぐに帰ってきなよ」
「うん、わかった。ありがとう」
友人たちの想いをひしひしと感じながら、七香は大きく頷いた。