「ん? なにこれ」
「沢山飲んだので、口臭ケアのサプリです。そのあとに……ジャン! マウスウォッシュ」
ポーチから出したのは、携帯用のマウスウォッシュだ。
「お~、気が利くぅ! 乙女だからね……、口が臭かったら駄目だからね……」
春日さんはブツブツ言いながらサプリを飲み、マウスウォッシュでうがいをする。
私も同様にし、スッキリしてから洗面所を出た。
リビングはあらかた片付いていて、途中まで食べていたおつまみ類は、ジッパー付きビニール袋にしまわれていた。
「準備いいですね」
「友達と飲んだ時に、毎回こうやってしまっておくの。宅飲みの時は家主に任せがちだけど、消耗品ぐらいは用意したほうがいいかと思って」
「さすが!」
褒めるとエミリさんはピースした。
「洗面所に口臭ケアのサプリとマウスウォッシュあるので、使ってください」
「ありがと」
「んー……、エミリさんはいい嫁になるよぉ……、エミリぃ……」
春日さんはおじさんみたいにブツブツ言い、私とエミリさんは顔を見合わせて笑う。
「私たち、先に寝室に行ってますね」
「ん」
エミリさんに伝えたあと、私は春日さんを寝室まで連れて行き、横たわらせた。
「……朱里さん、隣寝て」
「はいはい」
春日さんに手を引っ張られた私は、キングサイズのベッドの真ん中に寝転ぶ。
「……私んち、ベッドが大きいのよ。だからたまに寂しくなるわ。……誰かが隣にいるっていいわね」
「もう友達ですからね、呼ばれたら行きますよ」
「……うん」
小さく返事をした彼女は、少ししてから寝息を立て始めた。
そのあと、エミリさんが静かに寝室に入ってきた。
「寝た?」
「寝ました。……沢山鬱憤晴らせたみたいで、良かったですね」
エミリさんはベッドまでくると、春日さんとは反対側に潜り込み、羽根布団を被る。
「……皆、ストレスが溜まってるわよね。それぞれのキャパとストレスがあって、誰が一番つらいなんて言えないけど、皆で集まって言いたい事を言うと、抱えていたものがフワッと軽くなった気がするわ。『自分だけじゃない』って思える」
「そうですね。……エミリさん、愚痴を言っていたように見えませんでしたけど、楽になりました?」
尋ねると、彼女はフハッと息を吐いて笑い、私の手を握ってきた。
「勿論。私の場合、あまり人に自分の事を言うのは得意じゃないの。信用していないとかじゃなくて、得手不得手の問題かな。その分、人の話を聞くのが好きだわ。それに、女子会って皆で集まって男子禁制の場で好き放題言えるじゃない。その空気が大好きで、この一泊二日でとてもリフレッシュできた気持ちになってる」
「なら良かったです」
暗い天井を見てそっと息を吐いた私は、満ち足りた気持ちで目を閉じる。
「……これからも色々あるけど、なんとかなるわ。私もついてるし、三ノ宮グループのお嬢様もついてる」
「ふふ、頼もしいです」
小さく笑うと、エミリさんは手をポンポンと軽く叩いてきた。
そのあと、私たちは大きなベッドで仲良く、手を繋いで眠ったのだった。
翌朝はゆっくりめに起きて、ルームサービスで朝食をいただいた。
アフターヌーンティーみたいなティースタンドに洋食が綺麗に盛られていて、メニューで選んだメインのエッグベネディクトは、信じられないぐらい美味しかった。
「あー……、まだちょっと頭痛いかも」
チェックアウト前、私たち三人は洗面台の前に立ち、それぞれのポーチを開けてメイクをしていた。
「春日さんは飲み過ぎなんですよ。……あ、クレドのパウダー」
「これ、いいわよ。朱里さんはSUQQUなんだ」
彼女は私が持っているパウダーを見て尋ねてくる。
「場合によりです。これはオイルインで自然なツヤも出してくれるので、サッとの時に重宝してます」
「二人とも凝ってるわねぇ……」
エミリさんは日焼け止めとBBクリームを塗ったあと、ティントチークを付けて眉毛を描き、すでにリップを塗っている。
「エミリさんはサッと派ですね」
「私、地の顔が派手だから、メイクは短縮気味なの」
「朱里さんは、睫毛が長いわねぇ……。爪楊枝が乗りそう」
春日さんは私の顔をしげしげと見てから、口を開けて目を大きく見開き、マスカラを塗る。
「……マスカラ塗る時、そういう顔になりますよね」
「アイライン引く時なんて、般若よ」
三人で「あるある」と頷いたあとも手を動かし、しばらく経って全員の身支度が終わった。
コメント
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酔っぱらって本音で話して✨🍻🎶、良いお友だちになれて良かったね😆👍️💕💕
呼び方、いつか朱里さんから変化するかな?春日さんは朱里ちゃんのこと友達だけど妹のようにも思っているのかなぁ?エミリさんは義理姉になるけれどお友達のお付き合いができるって素敵✨