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第5話「誰が嘘をついたか」
朝。
訓練場の空気はいつもより張り詰めていた。
だが、兵士たちは誰も理由を知らない。
セツナだけが知っていた。
数日前に処分されたはずの兵士の名前が、何の説明もなく演習記録から削除されていたことを。
「いなかったことにされてる……」
言葉にするのが怖くて、誰にも言えなかった。
もし、これを口にしたら——自分も消される。
⸻
その日、食堂で偶然、鬱先生の姿を見かけた。
食事には手をつけず、冷めたスープをじっと見ていた。
セツナは、恐る恐る近づいた。
「……鬱先生」
返事はなかった。けれど、目だけがこちらを見ていた。
「僕……あの、“ラグナ・プロトコル”っていう作戦を知ってしまって……」
その瞬間、鬱先生の目が鋭く光る。
誰にも聞かれないように、小さく囁いた。
「お前、生きてるうちに他人に話すな。今の言葉だけで、口を塞がれる」
「……でも、それって、国家の命令じゃ……」
「命令は人が出す。だから、人が嘘をつく」
⸻
鬱先生は、かつて自らもその作戦に関わっていたと話し始めた。
けれど、途中で言葉を止めた。
「これ以上話したら、お前を巻き込む。……それでも聞くか?」
セツナは、しっかりと頷いた。
「巻き込まれたのは、最初からです。
もう“誰かの駒”でいるつもりはありません」
⸻
その夜、鬱先生は密かに1枚のデータチップを手渡した。
「これを、誰にも見られずに“トントン”へ届けろ。
あいつだけは、この国でまだ“真ん中”に立ってる」
……???