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「最初の事業のスタートは、どういう風に始めたんですか?」
「本当にお知りになりたいんですか?」
百合は無意識のうちに答えていた
「ええ、本当に聞きたいわ」
「話せば長くなりますから、ほんのさわりだけお聞かせしましょう」
定正は、しばらく空中を見つめてから話し出した、庭の片隅では、竹筒が水を受けて「カッコン」と軽やかな音を響かせ、まるで時を告げるようにリズムを刻んでいる
「十七歳の時、父親と一緒に船の上で魚の漁をしていました、それがそもそもの始まりでした、冴えない仕事でしたが船の上の魚料理は絶品なんですよ、その場で捌いてね、色々な魚料理を食べました、ところが陸の人々に食べさせてあげたくても、陸に持って上がると魚が腐って味が落ちるんです、そこで私は船の上での漁師しか知らない絶品料理を凍らせて陸地にあげて販売しました、しかし、そこで問題が発生しました」
「どんな問題ですか?」
百合は話にすっかり魅せられて、定正の一言一句に耳を傾けていた、定正の話は続いた
「冷凍したものは鉄であろうと、食材であろうと、何でも引っ付くんですよ、だからあらかじめ引っ付かない様にして凍らせなければなりません、だからプラスチック食品トレー会社を買収しました」
「まぁ!」
「独自で冷凍食品のトレーを開発した次はそれを運ぶ車です、トラック車団の会社を買収して所有するようになったのもそんな理由からです、次に必要になったのは冷凍食品を保管しておく倉庫です」
「それも買収したのね?」
百合は笑った、定正は肩をすぼめて話を締めくくった
「一つが成功すると、あとは芋づる式でした、凍らせることに関しては私の右に出る者はいません、そうそう、今、鎌倉の港に私の大型船舶が停泊してるんですよ、私がこだわったのはその船に大型冷凍庫を内蔵させているんです、瞬間冷凍で秒で-50℃になります、とにかく何でも凍らせてどこでも運べますよ、精子でも、人間でも」
クスクス・・・
「ずいぶん物騒なんですね」
「それでね、船から見える最近出来た丘の上のチャペルがとても素敵なんです、今から行ってそこで私と結婚式をあげませんか?」
百合は面食らった、今聞いたことを目をパチパチして頭の中で反芻する
「今から?結婚?ふざけていらっしゃるの?定正さん」
「とんでもない!大真面目ですよ」
「冗談もほどほどにして下さい、第一、鎌倉なんて遠い所・・・今からなんてとても無理です」
定正の目がキラリと光った
「私のプライベートヘリが八尾空港にありますよ、ここからなら1時間半で到着します」
「結婚なんて・・・あなたとこんなに親しくお話ししたのは今日が初めてですよ?」
定正の殺し文句は続いた
「初めて会った時から感じていたんです、あなたをこの地上で生を受けた数百億の男の中で、一番幸せに出来るのは私しかいません」
二人はじっと見つめ合った
「・・・私に何を求めていらっしゃるの?定正さん」
「全てですよ、百合さん、あなたの全てが欲しい」
また暫く二人は見つめ合った、やがて百合は呆れて首を振った
「結婚なんて無理です!・・・それに鎌倉も無理です、今夜は6時からお店があるもの」
・:.。.・:.。.
百合の務めるラウンジのママが電話を取ったのはちょうど6時10分前
「もしもし・・・?」
『ママ?百合です』
「まぁ!百合?どうしたの?今日は欠勤するの?」
『あのぅ~・・・それが・・・大変申し訳ないんですが、私、本日付けで退職したいの』
ママはびっくりして持っていたメンソールのタバコを落としてしまった
「いい?話し合いましょう!百合!何が不満なの?私に何でも言って、あなたがいなくなったら商売あがったりだわ!何でも話を聞くから会いましょう!お店が嫌なら近くのあのカフェにしましょう!今からどう?すぐに来れる?」
『無理です』
ママはカッとなった
「どうして無理なの?」
『だって今、鎌倉のチャペルで伊藤定正さんと結婚式をあげたばかりなんですもの』
今やママはカツラが取れそうなほど驚いていた
「なんですって??理解できないわ!どうしてそんな事になっているの?」
『私が一番理解できないわ、とにかくこの人の傍にいると考える隙を与えてもらえないの、今から新婚旅行で一週間ギリシャに行ってきます』
・:.。.
・:.。.