テラーノベル
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「明日から休日だー!」
校門を出た瞬間、彼は太陽みたいな笑顔で叫んだ。
その声につられて、俺も自然と肩の力が抜ける。
「やっと今週が終わったな……」
「めっちゃ長かったわ」
言葉の調子が軽くて、風みたいに心に触れていく。
それがいつも、少しだけ眩しい。
そして、案の定。
「じゃあ、いつも通り……」
振り返った真平の瞳が、いつもより少しだけ輝く。
「お前ん家に泊まりに行くぞー!」
「よっしゃー」
「マジこれがないと今週頑張った意味がないわ」
「そんな?」
問い返すと、真平はわざとらしく大きく頷き、
「そんなだよ!」
と、耳が痛くなるほどの大声で返してきた。
うるさいはずなのに、嫌じゃない。
むしろ、そんな必死な表情を見ていると、
足元がゆっくり沈んでいくような感覚があった。
彼のいる場所へ落ちていく。
「ほら、ボケっとすんな。行くぞ」
手をつかまれ、その勢いのまま走り出す。
息が切れるころ、自宅が見えてきた。
中に入った瞬間、床に倒れ込む。
「お前……足……速すぎ……」
息を切らして言うと、真平は得意げに笑った。
「鍛えてるからな。お前も鍛えろよ」
「無理。生徒会の仕事で部活行けてないし」
「ふーん」
その気のない返事が、なぜか落ち着かせてくれる。
真平はバッグの奥を探り、ポテチの袋を取り出した。
「昼に購買で買ったやつ。食おうぜ」
「おー、たまにはやるじゃん」
「だろ?」
嬉しそうに背中を向けた真平の腰に、
一瞬、尻尾でも揺れたように見えて、思わず笑った。
ポテチを開けている真平を横目に、俺はゲーム機を用意する。
「早くやろうぜ」
「うーす」
ソファに並んで座り、コントローラーを握る。
ゲームが始まってしばらくした頃、
真平が突然、淡々とした声でつぶやいた。
「……そういや俺、毎週金曜とか休日になるとさ。えげつない腰痛に襲われるんだよな」
「おー……かわいそー……」
俺が気の抜けた返事をすると、
「聞いてねぇだろ……」
「聞いてる聞いてる……あ、勝った」
「は?! だるい!」
怒りながらも楽しそうで、
そのやり取りが、週末の始まりの合図みたいだった。
夕食を並べたあと、真平の横顔を何気なく見た。
距離は近いのに、触れようとすると壊れそうで。
手を伸ばせば届くのに、届かない。
そのもどかしさが胸に滲む。
風呂から上がった真平は、大きく伸びをしてソファに沈む。
「やっと明日から休みかー」
嬉しさを隠せない声。
俺もその隣に座る。
「なぁ、せっかく休みなんだし……どっか出掛けね?」
顔が近い。
触れるほど近い。
胸が、痛いくらいに締めつけられる。
返事をしようとした瞬間、真平のスマホが震えた。
「誰?」
意図せず、聞いていた。
真平は一瞬だけ視線を逸らし、いつもの笑顔を作って言う。
「ただの通知。気にすんな」
その笑顔の奥にある、かすかな怯えに気づいたのは、俺だけだったのかもしれない。
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