少し涙を浮かべながら必死にダメだと主張している善悪の姿に、多少、いや、ドン引きしながら聞くコユキの父、ヒロフミであった。
「で、でも、善悪君、その? 凄い物って何処にあるんだい? 何も貰っていないんだが?」
善悪は答えるより先に、法衣の中に隠していた白っぽい外装の箱を足元に置いた後、馬鹿を見る目でいい歳をして引きこもっている爺(ジジイ)に告げたのである。
「これが、某とコユキちゃんからの誕生日プレゼントでござる! ふんっ! コユキちゃんを飼い殺しとか思っている馬鹿野郎には勿体無いのでござるが、ほらよ! サター○白だ! 少しは反省するがいい! 馬鹿親父!」
「善悪君っ!」
善悪の罵詈雑言(ばりぞうごん)に堪忍袋の緒が引き千切られたのか、ヒロフミは立ち上がり善悪の正面に相対した。
少し言い過ぎたか、そう思いつつも警戒を怠らない善悪、流石『聖女と愉快な仲間たち』のリーダー、常在戦場の聖魔騎士と言った所か。
次の瞬間ヒロフミが動いた。
年齢の割りに逞しい筋肉質な両腕を左右に広げ、上体を預けるようにして善悪目掛けて鳳凰サ○ザー張りに飛び掛かり、ガシっと善悪をホールドしてから言うのであった。
「ありがとう! 善悪君! 君こそ真の友だ! いや、魂の救済者、メシアと呼ぼう! 心から感謝いたします、我がメシアよ!」
「へ?」
なんと、真剣な顔付きで善悪に迫ってきたコユキの父ヒロフミの目的は、感謝感激のハグとお礼の言葉を伝える事であった。
闘いを覚悟していた善悪は一旦は間抜けな声を上げてしまったが、そこはしっかり者の坊主である、大事なトコの念を押すのを忘れてはいなかったのだ。
「メシアとかそんな大袈裟なもんじゃないでござるが、分かってくれたのならコユキ殿養豚計画は? 思い止まってくれるのでござるか?」
「勿論、善悪君が言う通りにするよ、家に閉じ込めるなんてもう止めるよ! なんなら二度と敷居を跨げ無い様に絶縁しても良いし、着の身着のままで遠くの町へ捨ててきてもいいさ! どうすれば良いか言ってくれ? 出荷でも屠殺でも思うままに命じてくれ! 何でも言う通りにするよ!」
この親父も大概だな全く。
流石はトシ子の長男にして、ツミコの兄、コユキ達三姉妹の父親、性格破綻気味の化け物女性陣と暮らしているツワモノと言ったところか……
ヒロフミの猟奇発言を聞いた善悪だったが、意外にも嬉しそうに言うのであった。
「おおっ! 分かってくれたのでござるか! 良かった、良かった! これで今まで通りでござるな! やったぁ~でござる」
そして、喜色満面のままガシっとヒロフミの体を抱き返したのである、そう、男達は違いを乗り越え互いに理解し合ったのである。
「お父さん、善悪来たんだって? えっ!」
声も掛けずに居間に入って来たコユキは抱き合っている父と幼馴染の姿を目撃し言葉を失ってしまうのであった。
――――ま、まさか二人がそういう関係だったなんて…… んでも、お父さんは兎も角、考えてみたらムキムキバージョンの善悪は『美坊主』だしな…… ありっちゃぁありか? 取り合えずここははっきり伝えなきゃね!
「オホン、大丈夫よ二人とも、私は味方だからね♪ お母さんは勿論、昔ながらの古臭い価値観に捕らわれたままの家族にも黙っているからね♪ 忘れないでよ、私が二人の愛を応援している事をね、世間の声に負けちゃダメよ! 貫いてね、二つの意味で(下品)」
「ん? 何を言っているんだ野生の猪、いや、コユキ?」
「又、腐った脳ミソで腐った勘違いを…… 今のは男同士が分かり合った事を喜んでいただけでござる!
下衆(ゲス)の勘ぐりは止めて欲しいでござるよ」
「分かってるわよ! それより、どっちがどっちなのん? それだけ教えて、ね、お願い!」
「話し聞けよ、このデブ! 違うって言ってんだろ! でござるっ!」
善悪が怒るのも無理はなかった、これだけ否定しても分からない奴には分からないのだ、今もまだ、案外善悪がネコ? とかしつこく呟いているのだから…… 始末が悪いね。
嬉しそうにニヤニヤしながら、ふんふんとかへぇ~とか適当な返事をしている恐らく聞いてないだろうコユキに、事の顛末を話し終えた善悪は自由を得た養豚と、拗(こじ)らせた前期高齢者を連れて茶糖家定番のイベント会場、二間通しの和室へと赴いたのであった。
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