テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
いつの間にか職場近くの駅に着いていた。到着のアナウンスを聞き自然と目が覚める。
早出だと職場の人間とすれ違うこともないため、気が楽に感じる。
職場に着いたら制服に着替え自分の部署へ向かう。
3年目となれば色々なことに慣れてくるものだ。
あれだけ怖かった採血も、今では患者さんと話ながら出来る余裕もある。
「白石さん!ごめん、こっちヘルプいい?」
「はーい!」
夜勤の先輩に声をかけられ、一緒に手分けして処置や身体ケア、ナースコール対応を行う。
(そろそろ朝ごはん来ちゃうなぁ。)
そんな事を考えながら慌ただしく時間は過ぎていく。
「朝日が眩しいぜ。」
患者さんの食事介助中、朝日が差し込む病室で薬を持ってきた夜勤の先輩が呟いた。
「松岡先輩、手を止めないでください。」
「今日早出3人で助かった、本当に。」
「星野さんが遂に早出デビューですからね。次からは2人ですよ。」
「それな。田中さん、今朝も薬多いですけど、頑張って飲みましょうね。」
薬を確認しながら配るのも看護師の役目だ。1つ1つに間違いがないか確認してから薬を渡す。
「看護師さん達も大変だねぇ。あー、またこんなに薬がある。」
「大切な薬ですからね。」
そう言って病室全ての患者さんに薬を渡し、松岡先輩は次の部屋へ向かった。
夜勤が始まる時はとても恨めしい気持ちになる日もあるが、朝日を見るとようやく終わるという重圧からの解放感もある。
(いいなぁ、私も帰りたい。)
勤務はまだまだ始まったばかりなのに、そんなことを考えていた。
パタパタと廊下を走る足音が聞こえた。
廊下を見ると星野さんがこっちに気付く。
「白石さん!鈴木さんがご飯を食べてくれなくて。どうしたら。」
「あー。拒食のおじいちゃんね。わかった、行ってみる。」
担当した食事介助と口腔ケアを終わらせて、その患者さんの部屋に向かう。
鈴木さんはまだまだ入院して日が浅いこともあり、どんな人なのかも掴めていない。
病室からは大きな声が聞こえる。どうやら松岡先輩の薬を配るタイミングと重なっていたらしい。
「食べないって言ってるだろう!」
「困ったなぁ。 水分も摂らないなら、もしかしたら点滴になるかもしれませんよ。」
「それもしない!」
「じゃあ、これだけでも食べましょう。そしたら朝ごはんは終わりです。」
2人の間に割って入り妥協案を出す。
「••••。」
鈴木さんは少し黙り込むとポツリと呟いた。
「果物だけなら、食べてやる。」
(神様ありがとうございます!)
心の声が漏れでないようにそっと果物を渡す。
今回はたまたま食べてもらえたが、拒食の方にご飯を食べてもらうのは滅多に上手くいかない。
それでもなんとかして食べてもらえるようにあの手この手を使うのだ。
時間が経つのは早いもので、気付けば休憩時間となっていた。
「あー、もう足パンパン。」
休憩室のソファで足を伸ばす。
「今日も慌ただしかったね。」
佐々木さんもコーヒーを片手に笑っているかたわらで、 星野さんは魂が抜けた様に呆然としている。
それも無理はない。
朝ごはんが終われば食後の身体ケアに入浴介助とやることは盛りだくさんだからだ。
「デビュー戦、お疲れ様。」
「しっかりご飯食べたら、後半戦だよ。」
「はい。がんばります。」
「程々にね。」
フォローに着いている佐々木さんはベテランであり、人当たりもいい稀少な存在だ。
人の命を預かるのだ、優しいだけではやっていけない側面もある。
よくも悪くも、私も経験年数を重ねる毎に気は強くなっている。
急に休憩室のドアが開く。
リーダー看護師が立っているということは、嫌な予感しかしない。
(神様、どうか嫌な要件じゃありませんように。)
そんな祈りも虚しく、淡々と要件を言われる。
「ごめん、白石さん、今から来る入院とってもらえる?」
「••••はい•••。」
もちろん拒否権はない。
ドアが閉まると佐々木さんが声をかけてくれる。
「私もフォローするね。」
「ありがとうございます。」
「白石さん、私も手伝います!」
「ありがとう。」
2人の優しさが染みる。
仕事だからやるしないのだ。
(大丈夫、始まれば終わるから。)
学生の時からのおまじないを唱え、休憩が終わると同時に担当する入院準備へ向かった。