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“ーーこれは?”
自身を締め付ける、目に見えぬ力の正体。その周りに朧気に光る一筋の線が見えた。
とはいえ、それに気付いた頃には時、既に遅し。
アザミの投げた手裏剣は、既に目前にまで迫っていたのだから。
「ーーしまっ!!」
顔面に直撃する刹那、金属音が鳴り響く。直撃する筈だった手裏剣は、別の力に依って軌道が逸れていた。
ユキの前に割り込んだアミが、小太刀を振り翳した結果、手裏剣の軌道を逸らす事に成功したからだ。
「ユキ! 大丈夫!? うっ……」
突如アミは右肩を抑え、その場に踞る。
それもその筈。その大きさと重量を持つ手裏剣を、超スピードで投げられたのを弾いたのだ。その衝撃は並では無い。その為、アミは肩の筋を傷めていた。もしかしたら脱臼をしているかも知れない。
「ちっ、寸前の処で邪魔が入ったか」
手裏剣を弾かれた事で、アザミに僅かながら動揺が走る。
知るよしも無かった。その為、左手の力が無意識に緩んでいた事を。
締めつける力が一瞬緩んだのを見逃さず、ユキは刀を横にし、刃の部分で一気に振り降ろす。ブチンと何か切れた様な音と共に、彼を縛り付けていたその拘束は解かれた。
「アミ!!」
ユキは自分の眼前で踞るアミを抱え後ろに飛び、アザミから大幅に距離を取った。
「どうして来たんですか!?」
少しだけ責めた様な口調でアミの肩に、再生再光による治癒を施しながら訴えかける。
「ご、ごめんなさい……」
その暖かい光によって、肩の痛みが退いていくのを実感しながら、アミはユキの身体中を見て呟く。
ユキは全身に裂傷を負っていた。
“足手まといになるのは分かっていた……。それでも一人で闘うユキの力に、少しでもなりたかったけど……”
「ユキ……」
アミはそんな痛々しい彼の傷口を、そっと擦る。
歯痒かった。自分の傷も顧みず、傷を治してくれている。
力になる処か、足を引っ張っているだけでしかない自分が。
せめて、この傷だけでも治せる力が欲しいと、アミは切実にそう思わざぜるを得なかった。
「でも……」
ユキは手を肩から離し、アミに笑顔を向ける。
「おかげで助かりました。ありがとうアミ」
本当に美しい笑顔だった。此処が闘いの場でなかったら、思わず抱きしめたくなる程に。
「ユキ……ごめんね」
感傷も束の間ユキは立ち上がり、アミに背を向けて呟く。
「でも……ここから先は、どうか下がっていてください」
ユキはアザミを見据え、歩を進める。
アミの目にも、アザミの強さと殺気は恐ろしい程に感じ取れる。
“この闘いに於いて、私は足手まとい以外の何者でもないから……”
だからせめてーー
「ユキ……」
“勝利を祈らせてくださいーー”
「大丈夫ですよ。絶対に勝ちますから」
そんなアミの心を見透かしたかの様に。穏やかな声と共に歩を進める。
アミが見守る中、ユキはアザミと再び対峙するのであった。
「命拾いしたな」
アザミは対峙するユキに、余裕を以って口を開く。
「ええ、おかげさまで。それより何故、先程は攻撃して来なかったのですか?」
そう、それはとても疑問に思った事。いくら距離を大幅に取っていたとはいえ、治癒中は隙だらけだったから、何時でも襲えた筈だった。
そんなユキの問い掛けに、アザミは微笑し応える。
「お前達は恋人ーー否、姉弟か? 俺にも同じ様な者が居てな……。それを思っていたらつい、攻撃のチャンスを逃してしまった」
アザミが一瞬、遠い目をしていた事。しかしすぐに戻る。
「まあ、そんな事はどうでもいいか。死期が一瞬伸びただけだ。お前が死ぬ事に変わりは無いからな」
アザミがユキに向けて、殺気を顕にする。
「それはそれは、お心遣い感謝します、と言いたい処ですが……アナタの攻撃は見切りました」
だが彼はそれを平然と受け流していた。
「アナタのその力の正体、いや武器ですか。それは目に見えぬ程に細く研ぎ澄まされた、刃鋼線によるもの」
ユキはアザミに向かって刀を突き向け、ずばりと指摘する。とはいえ、アザミの表情からは動揺は伺えない。
「ほう? 良く見切れたな。だがそれが分かった処でどうする? 制止状態ですら目視が困難なうえ、一度空に放てば、目で捉える事は決して出来ない」
“刃鋼線”
それは目視も困難な程に細く、鋭利に研ぎ澄まされた鋼線。
アザミの操る刃鋼線は、その特殊な素材と本人自身の力により、桁外れの硬度と威力――そして不明瞭な迄の伸縮性を誇り、その切れ味は鋼鉄すらも豆腐の如く分断する。
アザミは左指を巧みに動かす。殆ど目視出来ないが、その指先からは確かに細い線状が無数に揺らめいていた。
「何を馬鹿な事を。ネタさえ分かってしまえば、その様な“児戯”にも等しいモノで私を殺せると、本気で思っているのですか?」
その挑発とも云える一言に、アザミの表情が僅かに吊り上がる。それは怒りの表情であった。