テラーノベル
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リビングのテーブルにぶちまけられた、色褪せた写真と書類の山。
健一は吸い寄せられるように、その「過去」に手を伸ばした。
そこには、自分と全く同じ、あるいはそれ以上に無残に壊された一人の男の記録があった。
「…これ、は……」
写真の中の男は、今の健一と同じようにエプロンを着せられ、膝をつき
若い頃の私の足元で虚ろな目をしている。
そして日記には、健一が「自分だけの秘密」だと思っていたナオミの囁きと、全く同じフレーズが書き連ねられていた。
『あなたは私の所有物』
『この絶望が、私たちの愛の形』
「……嘘だ…俺がされたこと……全部、こいつにもやってたのか?順番も、言葉も、仕掛けも……全部同じじゃないか……!!」
健一の喉から、ひきつった笑いが漏れた。
彼は、私の深い闇を共有し
彼女を救えるのは自分だけだという「特別感」を最後の支えにしていた。
だが、現実は違った。
彼は、私が不倫という呪いを浄化するために定期的に消費する、「交換可能な部品」に過ぎなかったのだ。
「そうだ。君は二番目……いや、私が把握しているだけで三番目だ」
佐藤の父は、冷徹な声で追い打ちをかける。
「彼女はね、相手が自分を裏切るように仕向け、それを口実に破滅させる。その過程で吐かせる言葉まで、すべてマニュアル化されているんだよ。……奈緒さん、君の復讐は、もはや病的なルーチンだ」
私は、ワイングラスを握りしめたまま、沈黙を守っていた。
否定はしない。
否定する価値もない。
私にとって、男たちは私の血を汚した「不倫」という概念の具現化でしかない。
「……奈緒。答えてくれ。……俺が不倫したから…俺が壊れていくのを見てたのも…そのやり方も、全部マニュアル通りってことかよ…っ」
健一が、泣きながら私の肩を掴む。
私は、その震える手を冷たく見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「ええ。そうよ。……健一さん、あなたは少し『反応が良い』方だったけれど、期待外れだわ」
「もっと特別な何かがあると思っていたけれど、結局、前の男たちと同じ場所で、同じように泣き叫ぶだけ」
健一の瞳から、最後の光が消え、深い「無」が広がった。
「愛」でもなく「憎しみ」でもない。
自分が「透明な存在」になったことへの、究極の絶望。
「……奈緒さん。私の息子は死んだ。次は、君の番だ」
佐藤の父が、カバンから一冊のノートを取り出した。
「君がナオミとして稼いだ金の流れ。そして、健一君や私の息子を精神的に追い詰め、自傷や法に触れる行為を強要した証拠」
「……これらをすべて、警察と、君のフォロワーたちに公開する。…君という『偶像』を、君の手法で破壊してあげるよ」
完成された王国に、崩壊の音が響き始める。
私は、初めて自分の足元が、自分自身の「過去の死体」で埋め尽くされていることに気づいた。
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