テラーノベル
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私が仕掛けた「資金ルートの逆流」は、九条グループの心臓部を的確に撃ち抜いた。
一晩で数十の関連会社が不渡りを出し
九条が数十年かけて築き上げた「影の帝国」は、砂の城のように崩れ去っていく。
しかし、負けを悟った九条の最後の一手は、想像を絶するほど醜悪なものだった。
「…詩織さん、医療刑務所の直樹被告の病室に、不審な手荷物が届けられました。中身は……劇薬の入った注射器と、九条からの短い手紙です」
山崎からの報告に、私は冷徹にスケジュールを確認した。
九条の手紙にはこうあったという。
『直樹、お前の人生はもう清算できないほどの赤字だ。
最後に詩織への嫌がらせとして、お前の「死」という負債をあいつの帳簿に叩きつけてやれ』
九条は、直樹を自死させることで、私の心に「一生消えない傷」という名の呪いを残そうとしたのだ。
「……させないわよ。一円の誤差も、一人の死に場所も、私が決める」
私は、夜を徹して車を走らせ、直樹が収容されている医療刑務所へと向かった。
厳重な警戒を突破し、面会室のアクリル板越しに対峙した直樹は
もはや人間というより、ただの肉の塊だった。
その手には、震えながらも注射器が握られている。
「……詩織……。九条さんが言ってた……俺が死ねば、お前は一生俺のことを……忘れられなくなるって……。お前の完璧な人生に……俺の死体を……混ぜてやるんだ……」
「直樹。……自分の命に、そんな価値があると思っているの?」
私の声は、氷のように冷たく、鋭かった。
「あなたが今ここで死んでも、私の家計簿には『清掃費』として数万円が計上されるだけよ」
「……あなたの死なんて、私の人生にとっては、ただの『雑損』に過ぎない。…一円の未練も、一秒の感傷も、私はあなたに与えない」
直樹の動きが止まる。
「……死にたいなら勝手にしなさい。でも、あなたが死んだ瞬間、私は陽太にこう教えるわ。『パパは、最後まで責任から逃げ出した最低な人だった』とね。…あなたの名前は、あの子の記憶から完全にデリートされる」
「……あ……あ……」
「生きなさい、直樹。……惨めに、泥を啜ってでも生き続けなさい。……私の建てた施設で、あなたが壊した人たちが笑う声を、檻の中で一生聞き続けるの。それが、あなたが私に支払うべき『利息』よ」
直樹の手から、注射器が滑り落ちた。
彼は崩れ落ち、獣のような慟哭を上げた。
死ぬことさえ許されない。
その絶望こそが、私が彼に与えた最終的な刑罰だった。
刑務所を出ると、東の空が白み始めていた。
スマホには、九条が心不全で緊急搬送されたという通知が入っていた。
自分の帝国が崩壊する数字を見て、その心臓が耐えられなかったのだろう。
「……チェックメイトね、九条さん」
私は、手帳の「九条」という項目に、今日の日付と共に完済の印を打った。
彼らが私に仕掛けた「死」という負債は
一円の損失も出すことなく、すべて彼ら自身へと還流された。
【残り42日】
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