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#離婚
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九条の死
それは、彼が築き上げた「負の帝国」が完全に解体される合図だった。
彼の息を引き取った数時間後には
九条の親族と名乗る者たちが、ハイエナのように私のオフィスへ押し寄せてきた。
「詩織さん、あなたが九条の隠し口座を操作しているのは分かっている。あれは九条家の正当な財産だ、即刻返してもらおう!」
「そうよ! 赤の他人のあなたに、一円たりとも渡すわけにはいかないわ!」
高級ブランドに身を包み、品性の欠片もない言葉を投げつけてくる親族たち。
彼らは、九条がその金をどうやって集め
どれほどの人々の人生を壊してきたかなど、1ミリの関心も持っていない。
私は、デスクに置かれた父の形見の万年筆を静かに置き、彼らを見据えた。
「正当な財産……。興味深い言葉ですね。…ですが、私の帳簿によれば、その資産の100%は『不法行為による利得』として分類されています」
私は、九条が10年かけて行ってきた脱税
背任、そして私の実家を含む数十社への計画倒産の全記録を、彼らの前にぶちまけた。
「……これらはすでに、検察と国税庁、そして私が設立した『被害者救済基金』への移転手続きが完了しています」
「……あなたたちが相続できるのは、九条が残した膨大な『負債』と、被害者たちからの『損害賠償請求権』だけです。…それでも、相続を希望されますか?」
親族たちの顔から血の気が引いていく。
彼らが欲しがったのは「金」であって、九条の「罪」ではなかった。
「……ふざけるな! お前が勝手に決めることじゃない!」
「いいえ。一円の狂いもなく、法が決めたことです……退室してください。あなたたちの滞在時間は、私の会社の『損失』として計上されます」
彼らを追い出した後、私は深く椅子に背を預けた。
これで、九条にまつわるすべての毒が、浄化のプロセスに入った。
◆◇◆◇
その日の夜───
リビングで宿題をしていた陽太が、私の元へ歩み寄ってきた。
その手には、私が大切にしていた父の形見の万年筆が握られていた。
「ママ。……僕、決めたんだ」
陽太の瞳には、かつての直樹のような卑屈さも
九条のような傲慢さもない。
ただ、澄み切った決意が宿っていた。
「僕、将来は法律の勉強をしたい。…パパや九条さんみたいに、言葉や数字で人を騙すんじゃなくて。……ママみたいに、数字で人を守れるようになりたいんだ」
陽太は、その万年筆を私に返しながら、真っ直ぐに私を見た。
「この万年筆、いつか僕が、困っている誰かのために『正しい数字』を書けるようになったら、ママと同じのが欲しいな」
「陽太……いい決心ね。それが陽太の夢なら、ママは全力で応援するわ」
私は、陽太を力いっぱい抱きしめた。
私の10年に及ぶ戦い。
一円の誤差も許さず、地獄を這い上がってきた日々。
そのすべての「利益」が、今、この子の言葉となって結実したのだ。
【残り41日】