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えれめんたる
「……ねえ、健斗。そんなに怯えないで」
部屋の隅で、包帯を巻いた健斗がガタガタと震えている。
彼は気づき始めていた。自分が怪我をするたび
私の手元に高価なアクセサリーが増え
私が不気味な人形に向かって愛おしそうに話し掛けていることに。
「美月、その人形……捨てよう。おかしいよ、全部」
健斗の声が震える。
その瞬間、クローゼットの奥から「ギチギチギチッ」と、骨が軋むような音が響いた。
扉の隙間から溢れ出してきたのは
赤黒い、肉の塊のような質感に変わった「アレ」だった。
サイズはもう、人間の子供を優に超えている。
市松人形の面影は消え、膨れ上がった肉に
私の知っている「誰か」の顔がいくつも浮き出ては消えていく。
駅で転落した男、事故に遭った人事部長
火傷を負った健斗……。
「……捨てられるわけないじゃない」
私はスマホを手に取った。
SNSの送り主から、真っ赤な背景のDMが届いている。
『おめでとうございます。いよいよ“完済”の時が来ました。』
『人形の腹が空きすぎて、もう小さな不幸では満足できません。』
『次の配当は、“命”そのものです。』
画面がバグったように点滅する。
『ターゲットは固定されました。あなたの、一番愛する人。』
「……健斗?」
私がその名前を口にした瞬間、部屋の照明がすべて弾け飛んだ。
暗闇の中で、人形の目が爛々と赤く光る。
その視線は、私ではなく、私の背後にいる健斗を真っ直ぐに射抜いていた。
「あ、あああ……っ!」
健斗の背後の壁から、無数の「肉の手」が伸びてくる。
それは健斗の体を掴み、壁の向こう側へ引きずり込もうとする。
健斗の指が、助けを求めるように私の方へ伸ばされた。
「美月! 助けてくれ……っ!!」
私は一歩、踏み出そうとした。
でも、その足が止まる。
私の脳内に、人形の、いや、私自身の深層心理の声が響き渡った。
『彼を助ければ、その“死”はあなたに返るわ。……いいの?』
私は、伸ばされた健斗の手を、見つめることしかできなかった。