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第4話「人生勝ち組体験パック」/7000円
今どき、夢ぐらい勝ち組じゃなきゃ割に合わない。
朝日拓巳(あさひ たくみ/24)は、電車の中でスマホを眺めながらそう思った。
小柄でやせ型、流行りのセンターパート。GUの白シャツにネイビーのジャケット、
どこにでもいそうな“ふつう”の人間だ。
広告には、まばゆい笑顔の若者たち。
《今すぐ「勝ち組気分」を体験しよう!》
人生勝ち組体験パック/7000円/全自動人生制御/明晰夢対応
レビューも満点に近い。「理想すぎて泣いた」「起きたくなかった」の声が並ぶ。
「7000円で、1夜だけ“人生全部うまくいったこと”にできるなら……」
タップして、購入。
《人生勝ち組体験パック:内容》
・容姿:好みに合わせ自動補正
・学歴:全てトップ通過設定
・人間関係:愛され度MAX
・職業:年収3000万+夢実現済み
・社会的影響:SNS総フォロワー数1億超
備考:一夜分の成功体験をフル再生。明晰夢として制御可能。
(※現実に戻ったあとの感情崩壊にはご注意ください)
デバイスを装着し、意識が沈む。
柔らかい光に包まれたあと、拓巳は目を開ける。
目の前には、高層タワーの一室。自分の部屋。
手にはパスカード、鏡の中の自分はシュッとしたイケメン。
「……完璧すぎる」
街に出れば、知らない人に声をかけられる。
「昨日のスピーチ、感動しました!」
「あなたの本、読みました!」
カフェでは注文前に「いつもの」が出てくる。
SNSを開けば、何気ない投稿に百万“いいね”。
面接は不要。会社は“君に任せたい”と頭を下げてくる。
どの業界にも名前が通っていて、誰もが拓巳を尊敬していた。
「……なるほど、これが“勝ち組”ってやつか」
だが3日目(夢時間)、拓巳は“違和感”に気づき始める。
● 誰にでも「すごいですね」と言われる
● どんな発言にも否定が入らない
● ミスをしても誰かが補ってくれる
「この世界、俺がいなくても回るように設計されてないか?」
5日目。
夢内のSNSで「俺なんか消えた方がいいんじゃね?」と投稿してみた。
結果は……98万件の“いいね”。
「そんなこと言わないで!」「あなたは世界の希望です!」
「……冗談だってば」
でも、コメントの全てが“肯定”で埋まる。
そして6日目の朝、拓巳は会社のガラス扉に映る自分を見て、ふと思った。
「この人生、俺じゃなくても良くない?」
その瞬間、周囲の“景色”がピクリと揺れた。
システム音:『夢解像度低下中。自己同一性不一致。』
拓巳の周囲から、人の顔がぼやけていく。
目の前の部下も、カフェの店員も、SNSのアイコンも。
すべてがノイズのように崩れていく。
「……やっと気づいたみたいですね」
背後から声がした。
振り返ると、そこには“自分と同じ顔”の男が立っていた。
「本当の“勝ち組”は、疑問を持たない人のことですよ」
「あなた、少し“考えすぎ”たんです」
そして、目が覚めた。
ベッドの上、時計は5:59。明晰夢の終了時間。
だが、枕元には印刷された“フォロワー数1億”のプロフィールカードが残っていた。
スマホを開くと、昨日の自撮りにこう書かれていた。
「#完璧すぎて怖い #夢じゃなければいいのに」
《メイセキム。》注釈:
【人生勝ち組体験パック】は高精度夢制御のため、意識操作リスクが高く設定されています
ごくまれに「自己価値崩壊反応」が起こる場合があります
現実世界に戻ってからの生活に支障を感じた場合は、**“現実調整サポートサービス”**をご利用ください