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るしゅ
479
第3話 数え間違い
ホールに重い沈黙が落ちていた。
誰も動かない。
誰も修司の方を見ようとしない。
陽菜
「……無理……無理無理……」
玲奈
「落ち着いて。まず状況を整理しましょう」
圭吾
「整理って……人が死んでるんだぞ!」
湊
「でも、このままだとまた誰かやられる」
紫苑は、手の中の鍵を見つめていた。
小さな鉄の鍵。
番号も印もない。
ただ、冷たい。
紫苑
「……これ、修司が持ってた」
拓真
「鍵?」
紫苑
「死ぬ直前まで握ってたみたいだ」
圭吾
「つまり……犯人から奪った?」
蓮
「違う」
全員が蓮を見る。
蓮
「自分で手に入れた可能性の方が高い」
湊
「なんで分かるんだよ」
蓮
「争った形跡がない」
確かに。
部屋の中は荒れていない。
倒れ方も、不自然に整っていた。
まるで——
抵抗する間もなくやられたみたいに。
真白
「じゃあ……不意打ち?」
美月
「それか、信用していた相手」
その一言で、空気が一気に冷えた。
全員が、互いを見る。
疑いの目。
さっきまで「同じ被害者」だったはずなのに。
今は違う。
この中に、殺した人間がいるかもしれない。
玲奈
「……一度、全員で確認しましょう」
圭吾
「何を?」
玲奈
「人数」
紫苑の背筋に、嫌な予感が走る。
玲奈
「今、ここにいるのは何人?」
全員が集まる。
ホール中央。
円を作る。
玲奈
「順番に数えるわ」
一人ずつ、指を差しながら。
玲奈
「1、2、3……」
数が進む。
紫苑の鼓動も速くなる。
玲奈
「……10」
最後の一人。
玲奈
「……11」
沈黙。
圭吾
「……は?」
湊
「待て、修司が死んだんだから……」
紫苑
「最初は12人だった」
真白
「……今は11人、だよね?」
全員が頷く。
数字は合っている。
——はずなのに。
蓮が、ぽつりと呟いた。
蓮
「……本当に?」
紫苑
「え?」
蓮
「最初、本当に12人だったか?」
圭吾
「だからそれさっきも——」
蓮
「記憶が曖昧なんだろ」
誰も反論できない。
紫苑も思い出せない。
最初に見た人数。
本当に12人だったのか。
ただ「そう思った」だけじゃないのか。
その時。
七海が小さく声を上げた。
七海
「……ねえ」
全員が振り向く。
七海は震えながら、壁を指さしていた。
そこには、大きな古い鏡があった。
七海
「……数、合ってる?」
紫苑
「何が——」
言いかけて、止まる。
鏡の中。
そこには、円になった自分たちが映っている。
紫苑は、無意識に数えた。
1、2、3……
そして。
紫苑の思考が止まった。
紫苑
「……っ」
湊
「どうした?」
紫苑
「……多い」
湊
「は?」
紫苑
「鏡の中……人数が」
全員が一斉に鏡を見る。
そして、凍りついた。
そこには——
12人、映っていた。
陽菜
「……嘘……」
圭吾
「いやいやいや待て待て!!」
拓真
「誰だよ!!どれだよ!!」
パニックが広がる。
だが。
鏡の中の「もう一人」は、
普通にそこに立っているだけだった。
誰の隣にも、不自然に。
まるで最初からそこにいたみたいに。
紫苑は目を凝らす。
だが——
顔が、見えない。
ぼやけている。
輪郭だけがある。
存在だけがある。
蓮が、静かに言った。
蓮
「……いるな」
その声は、妙に落ち着いていた。
まるで。
驚いていないように。
その瞬間。
鏡の中の“それ”が、
ゆっくりと——
首を傾けた。
陽菜
「きゃあああああ!!」
鏡にヒビが入る。
バキッ!
次の瞬間、粉々に砕け散った。
ガラスの破片が床に散らばる。
そして。
もう一度、数える。
全員で。
今度は震えながら。
結果は——
11人。
誰も増えていない。
誰もいない。
でも。
全員が確信していた。
さっき、確かにいた。
紫苑は気づく。
手の中の鍵。
それが、ほんの少しだけ——
温かくなっていることに。
第3話終
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