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中央にまき散らされた、神器が神化人になった証拠となる吐瀉物を見て、僕は安堵のような気持ちを覚えました。

なぜなら、それは神器になっていた猫手さんが亡くなったことを示していたからです。

猫手さんは、参加者のうち僕を視認できる最後の方でした。

霊媒体質という体質によって、何十年も前に死んでいる僕を見ることができるんです。

これは僕にとって最後の気持ちを伝える方法でした。

ですから、本来であれば猫手さんが亡くなってしまったことはとても悔やむべき事象です。

ですが、今の僕にはとある計画、いや企みがあります。

その企みは、他人に気付かれてはいけないものです。

なので、それを気付ける最後の人物であった彼女が亡くなったのは、僕の企みがほとんどの人に気付かれなくなったということです。

自分の計画のために他者の死を喜ぶなんて、僕はなんて最低な人間なんでしょうか。


しかし、猫手さんが亡くなったからには、その犠牲を無駄にしないためにも、僕は計画を遂行しないといけません。

そのために、僕は今死体安置所に居ます。

僕だけでなく、木更津さんや桐原さんも同タイミングでいますが、お二人は霊媒体質ではないので、僕の事を視認することはできません。故に、僕が今死体安置所にいると気づかれないわけです。


この死体安置所で僕がすることは、大きく分けて二つ。

まず一つ目は、僕の死体を探すことです。

僕は、一年前に地上の輝煌グループ系列の病院で亡くなりました。

実際は神化人育成プロジェクトに利用するために故意で殺害されたのですが、表向きには医療ミスということになっているので、死体はおそらく地上、つまりこの飛行船外にあります。

ただ、僕は飛行船内に僕の死体が無いと、計画によって死んでしまいます。

幽霊として意識を残すわけでもなく、意識も体も永遠に残らない、本物の死です。

僕は本来であれば死んでいる身です。ですから、本物の死が訪れても受け入れる覚悟はできています。

でも、それでも生き残れる道があるのなら、探してみたいなと思った次第です。

もし飛行船内に死体があれば、僕は幽霊なんかじゃなく本当に生き返ることができます。

ですから、飛行船内の死体置き場、通称外と呼ばれるこの場所になら、僕の死体はあるかもしれないと思ってここに来たのですが……

残念ながら僕の死体は見つかりませんでした。

他の所にある可能性も考えてみたのですが、神化人育成プロジェクト内で起こった死亡事故・事件の死体は全て死体安置所に置かれるシステムになっていますし、そもそも幽霊になってから隅々までこの飛行船を探索していて、それでも見つからなかったので僕の死体は飛行船内にないのでしょう。

そうなれば、僕は本物の死を体験するでしょう。

生き返る可能性がすぐ目の前にあったのに、その可能性が他者によって既に潰されていたのは残念ですが、それでも僕は計画を実行して、何者かにならないといけません。

僕は今まで誰の役にも立てませんでした。

「誰かの喧嘩を売買していたら、誰かに大好きなあの子の視線を無償提供されていた。

僕はそんなサービスがあることすら知らなかった。」ずっとそんなのばかりでした。

……今のは僕の個人的な懺悔です。気にしないでください。

僕は第一ゲームの時だけ皆さんに視認されます。

僕はせめてその時だけでも、誰かに覚えて貰って、特段皆さんのことも大好きじゃないですが、皆さんの視線を無償で奪いたかっただけなんです。

第一ゲームが終われば、僕は「なんか居たらしい人」という人間以下の存在に退化します。

だからその時まで、全力で人間らしさを出して、誰かが僕の人間力で笑ってくれたら、呆れてくれたら、感情が剥がれ落ちたら、きっと僕はそれだけで十分でした。

でも、今の僕は違います。

皆さんが頑張ってくれたおかげで、僕にもチャンスが生まれました。

自分で何か役に立つことができるチャンスです。

そのチャンスにより僕は死にます。

でも、僕はそれでも誰かの役に立ちたい。


さて、僕がやる事二つ目ですが、僕が体を借りる相手を探すことです。

鬼神さんに教えていただいたのですが、幽霊には色々な条件がマッチした場合、別の人の死体を借りられるらしいのです。

借りられる期間は、場合によりますが1年~10年ほど。

この飛行船は時間感覚が地上と違うので、簡単に言えばゲームが一回終わるくらい~神化人育成プロジェクトが丸ごと一回終わるくらいまでです。

なので、期待値的に今から体を借りれば194回目が終わり、皆さんが脱出できるかもしれないところまで行けると思うのです。


飛行船内に死体があるので、僕が体を借りるお相手は確実に生き返れます。

選ぶ相手は輝煌グループ関係者じゃない方がいいでしょう。もう一回生き返られたら折角のチャンスが無駄になります。

しかも、幽霊化するほど未練が残っていて、酷い状況で亡くなっている方。

……そういえばさっきからずっと目が合ってる方がいらっしゃるのですが……

明らかに「いやお前誰?」みたいな目で僕を見ていらっしゃる方が……


「こんにちは……?」

「だっ……誰……???」

「僕は小指って言います、一応一年前に死んでて、今は幽霊になってますね。この僕が見えるってことは……」

「よくあるホラー展開だぁ……この俺様がこの洗礼を受けるなんて……」

「……どうやって亡くなったか覚えてますか?」

「なんか音端が急に殺してきた」

「”本物の方”ではなさそうですかね。となると衣川さんの計画にあなたが必要ないってことですかね、いや、衣川さんの計画にあなたは必要なはず、となると花芽さんは……」

「……なんで音端に殺されたのに音端の名前が出てきてないんだ????」

「あーーー、えっと、花芽さんは斬人じゃなくて黄落人なので、それで音端さんに変身してただけで貴方を殺したのは本物の音端さんではなくて、いや本物の音端さんは実在してるし、あでも名義が違うかもだけど、あ、それで言えばーー」

「??????」「(説明下手すぎてごめんなさい……!)」

「え、あ、つまり、てか、何???」

「……今までずっと話聞いてくれる相手がいなくて、誰かと話せる時につい要らないことまでいっぱい話しちゃうんです、すみません」

「……別にいいけどそれは。で、俺は何すればいいのさ」

「あ、それなんです、……ここにいらっしゃるってことは、ご自身のご遺体は見つけられましたか?」

「これ」

「……それで、そのご遺体をちょっとお借りしたいと言いますか」

「許可要らねーって、もう死んでるし」

「えっと、おそらくあなたが想像している事とは違うことをするのですが」

「は、何すんの?」

「第一ゲームの時の木更津さんとmessiahさんって、どうなってたか分かりますか?」

「両方死んだと思ってたら実は木更津の体に二人分憑りついてて、結局二人とも別々の体に戻って生き残ってんだろ?」

「はい!両方死んでて、」

「でも実は木更津の体に憑りついてなんとかなってて……え、そゆこと?」

「はい!」

「それやんの?憑りつくやつ?俺とお前が?」

「はい!そうです!」

「……いや無理だろ!!」

「無理じゃないです!!いけます!!」

「いけませんー!!無理無理無理!!」

「僕やり方知ってるのでいけます!!」

「やり方知ってても出来ないことは世の中にあふれてんだよ!!馬鹿!!」

「できるんですって!!信じてくださいよ!!」

「えー……」

「……このチャンスを逃したら僕は最後まで役立たずのまま終わっちゃうんです、僕は……100年後の世界で流れるテレビ番組で、ただの被害者として、悲劇の少年として流されたくない」

「……」

「”貴方の”安全は絶対保証されてます、僕が頑張ればあなたはきっと生き返って、生き残って元の世界に戻れます、いや絶対戻しますから」


「……お前はいいのか、それで」

「え、なんで僕」

「言い方的に俺様の安全は保障されててもお前の安全は保障されてないんだろ?じゃあお前は生きて帰れないじゃないか、それでいいのか?って」

「いいです」「いいのかよ」

「何かを成し遂げて表彰されるのに生死は関係ないかなって。生きてても死んでても凄いことは凄いので」

「ふーん。じゃあいいぜ、やってみろよ」

「いいんですか?」

「まあ妥協かなー!年上だし」「どういうことですか……」

「ま、その代わりと言っちゃあ何だけど、俺様はお前のやり方に口ださないことにする。頑張って」

「……ありがとうございます」


この方法で憑りつく側は簡単。

この人に憑りつきたいなーって強く願えば可能になるらしいです。


この時を最後に、僕は死へのカウントダウンが始まります。

本物の死を受け入れる覚悟は、とっくに出来ています。

僕は、強く願い始めました。

やはり死ぬのは怖いですが、皆さんの協力を無に帰さないようにと、なるべく雑念が入らないように願いました。

やがて、僕は天竺さんと同化しました。

ここから、僕の英雄譚が始まるのか、なんて恥ずかしい事も考えてみたりしました。

ですが、僕にとって一番の目標は、誰かの役に立つこと。

僕は”彼”の元に向かいました。


デス・ファイア・ゲーム~混沌の世界へ~

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