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総合病院の産婦人科の陣痛室に意外な組み合わせで出産になるのを待っていた。


ベッドで痛みと必死に戦う美羽。横でフェイスタオルを用意して、額の汗を拭く拓海。

助産師には夫婦ですかと勘違いされた。

けれども、今はそれどころではない。


「痛い痛い痛い……無理無理無理……」


「楠さん、呼吸して、ひ、ひ、ふー。マラソンしてる時の呼吸でもいいよ。苦しいから」


助産師は分娩監視装置をつけて赤ちゃんの様子を確認する。ドクンドクンと鼓動の音がする。

スーツのジャケットを脱ぎ、ワイシャツの袖をまくり、本気モードの拓海。

出産するのは美羽の方はずだ。


「がんばれ」


どこかの誰かのように熱い応援が入る。


(いや、これ、スポーツじゃないから。苦しい……)


陣痛の間隔がだんだんと狭まって来るが、まだ力む時ではないらしい。

医師が内診で子宮口の大きさをチェックする。


「楠さん、もう少しです。まだ狭いから。うーん、今4センチだよ。もうちょっと耐えてみようか」


「先生、無理ですー。辛いです。苦しいです~~。あー--、また来た。痛い痛い……」


少しの間だけ休憩時間と思ったら、またじわじわと痛みが来る。出産するときよりこの陣痛逃しの方が辛い人もいる。

早く出したいという気持ちが出てくるがまだだめらしい。いつならいいのと美羽は額にたくさんの汗をかいていた。

そんな悪戦苦闘していると、やっとこそ、颯太が到着した。


「悪い、拓海くん。あと、大丈夫だから。代わるよ」


手を差し出して、バシンとバトンタッチした。


「ちょっと遅いっすよ。美羽、さっきから必死で戦ってましたよ。えっと、痛みと……」


「おう。わかった」


「あ、お父様ですか?」


「はい、夫の楠 颯太です」


「え、あ、すいません。そちらの方がてっきりお父様かと思いました」


「通りすがりの助っ人です。それじゃぁ、外、出てますね」


「もし、時間があるなら、待っててくれるか。ちゃんとお礼するから」


「いや、冗談ですよ。気にしないでください。んじゃ、美羽、元気な赤ちゃん生むんだぞ」


拓海は、呼吸の荒い美羽の肩に触れて、立ち去った。


美羽は、痛みに耐えながらも何も言わずに頷いた。拓海は陣痛室から廊下に出て、ジャケットを羽織りながら、病院の外に出た。スマホを取り出して、仕事モードに戻る。


これでお役目ごめんだなと思いながら、スマホ片手に病院の空を見上げた。

飛行機雲が細く長く連なっていた。


その近くを駆け出すの紬と美羽の母の恭子の2人が病院の中に入って行く。

颯太から電話が入り、学校終わりの紬に迎えに行き、電車とバスを乗り継いでやってきた。初孫だと心躍らせていた。

紬は、弟か妹どっちか気になっていた。

恭子は、出産予定日の1週間前に東京ホテルに移動していて、いつ産後のお世話をしても

いいようにしていた。それは美羽には内緒だった。颯太にだけ連絡していた。



「楠さん、子宮口が全開だよ。今なら、大丈夫。分娩台に移動して!」


女性医師は、内診して子宮口を確認する。もう、出産してもいいタイミング。こんなにも痛いのにどうして歩いて移動なのか不思議で仕方ない。楽になりたい。早くすっきりしたい。

美羽は、深呼吸して、手すりに力を入れた。


「はい、力んで~。陣痛のタイミングで力入れてね」


助産師は、隣でサポートする。颯太は、フェイスタオルでとにかく美羽の汗を拭きまくった。小声でがんばれとつぶやく。

拓海より控えめだ。


「あー---」


痛みを通り越した何とも言えない感覚だ。美羽が自然分娩でようやく出産を終えた。


「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」


助産師はへその緒を切られてシートに包まれた赤ちゃんをすぐに母親である美羽の胸の上に乗せた。

親子のぬくもりを大事にと病院の方針だ。


温かくて目をつぶったままの赤ちゃんは、ほぎゃぁと控えめに泣いた。体重計に乗せて体重を計っていた。約3000gの健康的な男の子だ。平均体重で安心した。


分娩台の頭の方にいた颯太は涙を流して感動していた。


「赤ちゃん……こうやって生まれてくるんだな。美羽、よくがんばったな」


額の汗を拭きながらなでた。


「体力が回復するまでこのままここで休憩しててくださいね。あと、病室の方へ移動します」


「………」


美羽は憔悴しきっていて何も言えなかった。

しばらくして美羽は病室へ移動すると、その個室には紬と恭子が待ち構えていた。


「紬ちゃん。あれ、お母さん。なんでここに? もしかして、連絡してた?」


車いすに乗って、病室に来た美羽は、驚いていた。颯太は、車いすのストッパーをおろした。


「そう、俺が呼んだの。お母さん、ぜひとも孫が見たいっていうもんだから」


「もう、呼ばなくていいって言ってたのに。だって、お父さん、1人になるじゃない」


「いいの。産後の肥立ちは体に毒よ。それに、紬ちゃんのこともあるでしょう。6日間は入院になるんだから颯太くん1人では大変でしょう。美羽のことだから、気にしないようにって私はホテルに泊まろうと思うんだけど……いいかしら?」


「ああ、それなら、マンションの1階にゲストルームがありますのでぜひそこに寝泊まりしてください。手続きしておきます」


「あらぁ、ずいぶんとまぁ、贅沢な暮らしね。うらやましいわぁ」


「お、お母さん……」


「ごめんごめん。ありがたく使わせていただきます。早速抱っこさせてよ。赤ちゃん、男の子でしょう」


恭子は病院用のキャスターつきベビーベッドの近くに寄った。紬も興味津々だ。


「朝井家では男の子育てたことないから新鮮ね。かわいいわ。イケメンになるかもね。全然、泣かないね。

ばあばの抱っこが心地いいのかしら」


恭子は赤ちゃんを抱っこしてご機嫌のようだ。紬は恭子の抱っこする横から指をほっぺにつんつんしてみた。


「うわぁ、お餅みたい……ぷにぷに。おいしそう」


生まれたての赤ちゃんはぷにぷにで愛らしい姿だった。美羽は対応するのにも体力がなく、目をつぶって休んでいた。

その様子を見て颯太は、疲れたんだろうとふとんを肩らへんまでかけてあげた。


「そうそう。寝れるうちに寝ておかないと母親業は出産だけじゃないからね。ここから大変なのよ」

「えー、そうなの?」


恭子は赤ちゃんをそっとベッドにおろした。


「洗濯物とかあったら、手伝うからいつでも言って。あと飲み物欲しくなると思うから小銭、ここに置いておくよ」


「ありがとうございます」


「パパもさらに忙しくなるから頑張ってね」


「はい。覚悟します」


「紬もがんばる!!」


「おねえちゃんだもんね」


「うん」


楠家に家族が増えてにぎやかになりそうだ。


美羽は母親業が出産だけが大変なわけじゃないと後から知ることとなる。







愛の充電器がほしい

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