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愛の充電器がほしい

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愛の充電器がほしい

52 - 第52話 生活感と家族の時間

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2025年02月21日

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「ちょっと、紙おむつとって!!」


病院から退院してからさらに1週間が経った頃。

美羽は荒れていた。髪はボサボサ、服は授乳服のまま。化粧もする暇がないくらい。

食事もままならない。


母が恭子が寝坊して1階のゲストルームからさっぱり来ない。

そんな時の朝はとても慌ただしい。

鬼のような形相で颯太と紬に指示を出す。

生まれたばかりの男の子のお世話が忙しすぎるのだ。

泣いて母乳を飲んで落ち着いたかと思ったら神経質のようで

ドアの閉まる音や颯太や紬の足音に敏感で泣き声が響く。

リビングに置いたベビーベッドから離れることはできなかった。


「入院生活には慣れたけど、この家にはまだ慣れてないみたい。人見知りなのかな?」


美羽はオムツ交換を終えると抱っこをしてゆらゆらさせた。

ソファの上でぐったりしている颯太と紬。


「朝からこんなに疲れるとは……」


「いやいや、私なんて夜勤しているもんだよ? 何時間おきにおっぱいやってオムツ交換してってやってるんだから」


「琉久《りく》は神経質だよ!! 私は忍者にならないといけないわ」


楠 琉久くすのき りく。それが赤ちゃんの名前だ。壁には命名と書かれた用紙にフルネームを筆で書いていた。


「紬ちゃん、忍者になれてるよ! 抜き足差し足忍足で」


「え、本当? 忍者修行に行こうかな」


「おいおいおい。紬、今日、学校だろう? 準備できたの?」


「まだだもん。忘れてた。ランドセルに昨日の習字の筆入れないと!!」


洗い終えていた筆を洗面所に置きっぱなしにしていた紬は、走って取りに行った。


「そしたら、俺は、朝ごはんか」


「パパ、待って。このオムツ、ゴミ箱に!」


処理済みのオムツを颯太に渡す。


「え、待って。そんな、これからご飯作るのに」


「手洗ってくればいいでしょう! 私は今から母乳あげなきゃないから!!」


「え、今、泣いてないからいいんじゃないの?」


美羽は、颯太の目をじーと睨む。


「はいはい、わかりました〜」


抱っこされ続けている琉久は、嬉しいそうにニコニコしていた。


「泣いてなくても胸が張ってたらあげないとおっぱい痛くなるの! というか、今泣く予定だから! ね? 琉久」


(何だか騙されてるような気がしていた……)


そう都合よく泣くわけがと思いながら、颯太は処理済みのオムツを捨てた。台所で目玉焼きとウィンナーを焼き始めた。

紬が部屋のバタンと閉めた瞬間、びっくりした琉久が、泣き始めた。怖かったようだ。


ささっと、美羽は母乳を与えて、静かにさせた。どや顔で見せつけた。


(いや、今のは、ドアの音で泣いただけだろう……どや顔の意味……)


颯太は対面キッチンからどや顔の美羽を呆れてみていた。わかっている。仕事でいない時間がある分、自分に甘えたいんだろうと感じていた。ソファに腰掛けて、半分ドーナッツのような授乳クッションに琉久をのせてゆっくりと母乳を与えた。

初めてにしては調子が良いようで入院中に頑張った甲斐があった。


助産師の指導のもと、ミルクより母乳での推しが強かったため、あの手この手で対策し、

どうにかミルクを飲まなくても大丈夫になってきた。


たんぽぽ茶がいいだの、十六茶がいいだのいろんな飲み物を試して美羽の母乳も初乳よりは落ち着いて出るようになった。

助産師いわく、母乳を飲むのも母親の力だけじゃなく、赤ちゃん自身の飲むという意思が強いかによると言っていた。

ミルクの方は、哺乳瓶で吸い口は簡単に飲める。


母乳は、飲むのに力を要する。赤ちゃん自身も慣れるまでに努力が必要らしい。

相性の問題でもある。


赤ちゃんの母乳とミルクの好みでもあるため、個人差が発生する。

美羽と琉久親子は、母乳のみでがっちり固まった。

ここでデメリットが発生する。

母乳好きな赤ちゃんは、搾乳した母乳を嫌がって飲んでくれないのだ。

哺乳瓶の乳首が嫌だと飲んでくれない。

かならず直飲みを要する。

高い搾乳機を買ったというのにどの乳首を買ってもあれもこれもだめ。

いつでもどこでも一緒に過ごさないといけなくなった。


そのため、美羽がひとたび美容院で外出すると祖母である恭子でも颯太でも、紬でもあの手この手を使ってもずっと泣いていることになる。


せいぜい離れるのは3時間が限界のようだ。


どうにかこうにかガラガラやバウンサーやかみかみするおもちゃであやしてやり過ごす。

思い出した頃に数分で泣き始める。

甘えんぼで寂しがり屋ですぐ泣く。

泣き虫。ママが大好きのようだ。

あっちやこっちにあほ毛が出てくるほどに憔悴してしまう育児だ。

育児経験者の恭子でさえもぐったりと疲れてしまうほどだ。


産後の肥立ちで1ヶ月の助っ人で来ていた恭子もそろそろ福島の実家に帰らないといけなくなった。

颯太が仕事が休みの日曜日。


「荷物もまとめたからそろそろ帰るわね。だいぶ、成長して昼夜逆転も落ち着いてきたんじゃない? 昼寝もたっぷりするもの。大丈夫じゃない? 最初の2週間はどうなるかと思ったけど。琉久ちゃん、また会おうね」


だいぶ、恭子に慣れてきたのか琉久は、きゃきゃと喜んでいる。


「男の子ってハードだわ。スタミナが違う」


「お母さん、ありがとう。お父さんによろしくね」


「良いのよ。孫と一緒に過ごせただけで楽しかったわ。紬ちゃんも一緒にオセロとかトランプできたもんね」


「おばあちゃん、ありがとう。今度、人生ゲームしようね」


「え、そういうのもあったのね。やっておけばよかった。いやいや、今度ね。楽しみにしておくわ。んじゃ、颯太さん。これからが大変だけど、美羽のことよろしくね」


「はい。わかりました。いや、お母さん、駅まで送りますよ。荷物大変ですよね」


「いいから。年寄り扱いしないで。運動しないとこれくらい、キャリーバックだから大丈夫。ほら、キャスターついてるから」

「そうですか」


「んじゃね」


手をパタパタと振って立ち去っていく。玄関のドアがバタンと閉まった。

閉まる音も慣れてきたのか泣くことはなかった。


「あれ、何か封筒入ってる」


紬が郵便受けを見ると美羽宛に何かが届いていた。


「え? 私?」


「ママにだよ。ねぇねぇ、今日、天気いいから散歩がてらに公園に行こうよ。ベビーカー買ってたでしょう」


紬は颯太に声をかけておねだりした。琉久はベビーベッドの上で手足をパタパタ動かしながらご機嫌に過ごしていた。

レースカーテン越しに太陽の光が差し込んでいた。ポカポカと暖かい。

それだけでも嬉しいそうだった。


玄関先で1人、美羽宛に来ていた封筒を開けて、書類を読んでいた。

その文章を見て、口に手を置く。

目から涙をこぼれた。紬がこちらに来る足音がして、慌てて美羽はその書類を封筒に戻して、隠した。


「ママ、早く、公園行こう!!」


「あ、うん。公園ね。今、準備するよ」


何もなかったように誤魔化した。服に着替えると同時に寝室にある引き出しの奥の奥の方に

封筒を閉まった。美羽の手は震えた。


リビングにいた颯太は、琉久を抱っこして高い高いした。

嬉しいそうにきゃきゃと喜んでいた。紬はそれにヤキモチ妬いて

すぐに大きな小学生の紬も抱っこして高い高いした。


一瞬、腰が痛くなった。美羽はそんな様子を見て感動していた。ホルモンバランスが崩れているから何気ないことで感受性豊かになるのだろうかと颯太は何の疑問も思わなかった。

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