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#戦国時代
眠狂四郎
284
#戦国時代
眠狂四郎
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#軍師
眠狂四郎
153
アグリは静かに戦場を見つめていた。
眼前では、ヴァルケン軍の大軍がゆっくりと陣形を整えている。
無数の槍が朝日に照らされ、黒い波のように揺れていた。
絶対的な兵力差。
正面からぶつかれば、いずれ押し潰される。
その現実を誰よりも理解していたのが、アグリだった。
勝敗を分けるのは、兵の数ではない。
準備と、そして――タイミング。
その一瞬を逃せば、どれほど練り上げた策も砂上の楼閣となる。
背後では、兵士たちが慌ただしく木材を組み上げていた。
滑車が軋み、縄が引き絞られる。
太い腕木が据えられ、捻じられた腱が強烈な力を蓄えていく。
「急げ!」
「あと少しだ!」
汗にまみれた工兵たちが声を掛け合う。
やがて一人の兵が駆け寄り、片膝をついた。
「将軍。スコルピオ、組み立て完了しました。」
アグリは静かにうなずく。
スコルピオ。
小型のバリスタ。
グラン王国が改良を重ねて生み出した遠距離射撃兵器であり、
太い鉄矢を驚異的な速度で射出する兵器だった。
数百歩先の敵すら正確に射抜くその威力は、重装歩兵さえ貫くといわれている。
だが、その真価は威力ではない。
撃つ瞬間にこそある。
アグリは敵陣をじっと見つめた。
自軍は中央前衛は巨大な盾を幾重にも重ね、鉄壁の防御を築いている。
あそこへ攻め込んでも、多くは盾に阻まれるだろう。
ならば敵はどう動くか。
側面を突けば、必ず横へ陣形を広げる。
隊列は伸び、伝令は走り、指揮官は全軍を見渡すため前へ出る。
その、わずかな隙。
その一瞬だけが、この兵器に与えられた好機だった。
(その時だ。)
(その一瞬を逃すな。)
「照準は。」
兵士が答える。
「中央前列へ合わせております。」
「よし。」
アグリは短く命じた。
「合図を出すまで、発射するな。」
「はっ!」
兵士たちは息を潜めた。
弦は限界まで張り詰め、巨大な鉄矢が静かに獲物を待っている。
戦場には、不気味な静寂が流れた。
アグリはゆっくりと目を閉じる。
祈る相手など、本来はいない。
だが、それでも胸の内で静かに呟いた。
(人智は尽くした。)
(あとは、この一瞬を天が与えてくれることを願うだけだ。)
ガラメールは馬上から戦場を見渡した。
グラン軍の盾列は、まるで岩壁のようだった。
何度となく斧兵が突撃し、巨大な戦斧を振り下ろしている。
盾は砕け、兵は倒れる。
それでも隊列は崩れない。
「……思った以上に固い。」
低く呟く。
力押しで突破できると考えていたわけではない。
だが、これほどまでに規律を保った歩兵隊は久しく見ていなかった。
ならば、正面だけでは足りない。
ガラメールはすぐさま左右へ視線を走らせた。
「右翼、左翼を前へ。」
「敵の側面へ回り込め。」
号令が飛ぶと、両翼の兵が一斉に展開を始める。
黒い軍勢は左右へ広がり、巨大な弧を描くようにグラン軍を包み込もうとしていた。
包囲殲滅。
敵の正面を押さえ込みながら、左右から喉元へ食らいつく。
北方の戦士たちが幾度となく勝利を収めてきた戦法だった。
ガラメールは静かに敵陣を見据える。
(中央前列は思いのほか堅い。)
(焦るな。)
(時間はかかるが、ここは正攻法が正解だ。)
無理に突破を狙えば、自軍の隊列が乱れる。
それこそ敵の思う壺だった。
ならば、力比べで押し切ればよい。
兵力はこちらが上。
時間は味方である。
ガラメールは大きく剣を掲げた。
「隙があれば割って入れ!」
腹の底から響く怒号が戦場を震わせる。
「ここが勝負ぞ!」
「我が陣を前へ!」
その号令とともに、無数の斧兵が雄叫びを上げた。
大地を踏み鳴らしながら、黒い波となってグラン軍の盾列へ押し寄せていく。
重い戦斧が一斉に振り下ろされ、
鋼と木が激しくぶつかり合う轟音が戦場に響き渡った。
激しい雨の中、北方の戦士たちが雄叫びを上げながら押し寄せる。
まるで濁流のような勢いだった。
盾と盾が激しくぶつかり合い、戦斧が盾板を打ち据えるたびに鈍い衝撃が響く。
「兄さん!」
ドルトスの声が雨音にかき消されそうになる。
押し寄せる敵の数に、わずかに動揺が見えた。
ティモシーは振り返りもせず怒鳴る。
「うろたえるな!」
その一喝だけで、周囲の兵たちの背筋が伸びる。
「ここが破られれば負けだ! 気合を入れていけ!」
そう叫ぶと、自ら剣を抜いた。
盾列のわずかな隙間から飛び込もうとした敵兵へ、一歩踏み込む。
銀の刃が雨を切り裂いた。
一人。
さらにもう一人。
喉を裂かれた敵兵が泥の中へ崩れ落ちる。
「前へ出るな! 盾を合わせろ!」
ティモシーは剣を振るいながら、絶え間なく命令を飛ばす。
その姿は、一人の剣士ではない。
兵を束ねる将そのものだった。
雲霞のごとく押し寄せる北方軍はなおも盾壁を打ち続ける。
しかし、そのたびにティモシーの剣が閃き、侵入しようとする敵を次々と斬り伏せていく。
中央戦線は、なお鉄壁だった。
雷鳴が戦場を震わせた。
稲妻が黒雲を切り裂き、白い閃光がヴァルケン軍を照らし出す。
アテイラは馬上で剣を高く掲げた。
「見よ!」
「雷鳴は我が神トールの勝利の合図である!」
兵たちが一斉に空を見上げる。
「恐れるな!」
「最初に敵へ槍を投げ込む者こそ、真の勇者だ!」
その言葉に、北方の戦士たちは盾を打ち鳴らし、雄叫びを上げた。
「今こそ進むのだ!」
「世界は我らを待っている!」
アテイラは咆哮とともに剣を振り下ろした。
「総攻撃だ!」
「全ての兵を中央にたたきこめ!」
その号令とともに、ヴァルケン軍は大地を揺るがす鬨の声を上げ、
一斉にライナー軍へと雪崩れ込んだ。
コメント
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おお…第22話、めちゃくちゃ重厚で鳥肌立ちました…!アグリの戦術眼と、あの「スコルピオ」に込めた一瞬への執念がすごくかっこよかったです。ガラメールの落ち着いた采配も、ティモシーの奮闘も、それぞれの将の覚悟が画に浮かぶようで、戦場の緊張感に息が止まりそうでした…。そして最後のアテイラの総攻撃で一気に盛り上がる展開、続きが気になって仕方ないです…!🤍🥀