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時は平安。京の都は、絢爛たる貴族たちが華やかな暮らしを楽しみ、雅な文化が花開いていた。だが、その美しい表層の裏には、人知れぬ闇が広がっていた。陰陽師たちは、この世ならざる者たちの存在を知り、その脅威から人々を守っていたが、都の者たちはその存在を忘れがちであった。
都の中心に立つ、木々に囲まれた壮麗な屋敷に、名高き陰陽師、安倍晴明が暮らしていた。晴明は多くの人々から尊敬され、彼の助言を仰ぐ者たちは後を絶たなかった。その日も、晴明の元には朝早くから客人が訪れていた。
藤原彰子、その美貌で都中の噂となっている名門藤原家の令嬢である。彼女は、いつもと違う神妙な面持ちで晴明の屋敷を訪れた。
彰子: 「晴明様、お願いがございます。」
彼女の声はかすかに震え、その表情には何か言い知れぬ恐怖が浮かんでいた。晴明は彼女を座敷に通し、静かに話を促した。
晴明: 「藤原様、何か不安なことでもおありですか?」
彰子は、少し息を整えた後、口を開いた。
彰子: 「昨夜、奇妙な夢を見たのです。暗い森の中、何か得体の知れぬものが私に迫ってくるのです。そして、その影が私を飲み込もうとしたその瞬間、目が覚めました。しかし、目が覚めた後も、その恐怖は消えることなく、胸の奥に重く残っているのです。」
晴明は彼女の話を聞きながら、その背後にある真意を探ろうとした。単なる悪夢とは思えない、何か得体の知れないものが蠢いているかのように感じたからだ。
晴明: 「その夢、ただの悪夢ではないかもしれぬ。何か、この世のものならぬ力が、あなたに接触しようとしている可能性があります。」
晴明は座敷の中央に小さな祭壇を設け、そこで一つの儀式を始めた。彼の周囲に漂う空気が、徐々に重く、冷たくなっていくのが感じられた。藤原彰子は不安そうにその光景を見守っていた。
儀式が進む中、晴明の表情が険しくなる。彼の瞳は一瞬、何かに驚いたように見開かれた。
晴明: 「これは…蠱毒の影…いや、それ以上のものが関わっている。」
その言葉に、彰子の顔はさらに青ざめた。
彰子: 「蠱毒…それは、確か古の呪術…では、私は一体…」
晴明は静かに首を振り、彼女を落ち着かせるように声を掛けた。
晴明: 「まだ何も決まってはいません。ただ、何かがあなたに触れようとしているのは確かです。私がこの場でできる限りのことをしますが、これから先、何が起こるかは私にも予測できません。十分に注意を払ってください。」
彼の言葉に、彰子は小さく頷き、深く礼をして屋敷を後にした。
その夜、京の都は静寂に包まれていたが、その静けさの中には、何か不穏な気配が漂っていた。都の外れにある祠では、封印されていたはずの蠱毒の鬼が、長き眠りから目を覚まそうとしていた。