コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
鈴子の部下に対する面倒見の良さは社で評判になっていた、天涯孤独な彼女にとって、部下こそが家族であり、心の寄りどころだった、亡き父もそうしていた、だから彼らの身に何か起きると、自分の事の様に心配する
鈴子は部下の誕生日や記念日を忘れなかった、しかし、その思いやりはいつも一方通行で、部下にたまにお礼をされたりすると、不器用な彼女はそれにどう対処していいのか分からなかったし、妙に親しくされるのも嫌だった
優しい高村主任は究極のツンデレで、部下は仕事でお返しをするのが彼女にとって一番だと一層仕事に邁進するのだった
・:.。.・:.。.
神戸の港町を冬の冷たい風がクリスタルタワービルのガラスの壁を軽く吹き抜けていく・・・
年末の夕暮れのビルは、ガラス張りの壁面にオレンジ色の陽光を映し、街の喧騒を静かに見下ろしていた
榊原はエレベーターを降り、広々としたロビーの大理石の床を踏みしめながら駅に向かって会社を出た
手術から数か月、ようやく体に力が戻り、頬にも血色が戻って以前の仕事熱心な姿を取り戻しつつあった
鈴子のオフィスの受付嬢の花田がいつもの笑顔で彼に後ろから話しかけた
「榊原さん!お疲れ様です、もうすっかり体調は良くなりましたか?」
花田の目は心配と安堵が入り混じっていた、榊原は照れくさそうに笑い、後ろ頭を掻いた
「うん、すっかり、まだ薬は飲んでるけど医者にはもう大丈夫って言われているよ」
「よかったですね、本当に」
二人は出口に立ち止まって遠くを見るように目を細めた
「花田さん・・・俺、主任の事、改めてすごいと思うよ、あの時、主任が園崎教授にすぐ連絡してくれて、治療費のことまで全部引き受けてくれて・・・正直、俺がこうして生きてるのは主任のおかげだよ」
花田は頷き、目を輝かせた
「わかる!高村主任って、本当にすごいですよね、厳しいときは怖いけど、部下のこと本気で考えてくれる、あの人の下で働く私も誇らしいですよ、この間なんかね、主任私の誕生日まで覚えてくれてたんですよ、スタバのギフトカードをLINEで送ってくれて!(これで温かい物でも飲んでね)って、その額なんと五千円!泣きそうになったもん」
榊原は笑い、だがその笑顔にはどこか切なさが滲んだ
「主任てさ、カッコいいよな~、いつも凛としてて、強くて、大きくて、俺、主任に恩返ししたくて早く仕事で結果出したいんだ」
外はすっかり夕闇に包まれ、街灯の柔らかな光がタワービルのガラスに反射していた、冬の冷たい風が頬を撫で、榊原はコートの前を寄せて深呼吸した、生きている実感が胸の奥で温かく広がる
「あっ!見て!高村主任だ!」
花田の声に榊原の視線が、ビルの正面玄関にある車寄せゾーンに吸い寄せられた、そこに鈴子が立っていた
淡い水色のロングコートが、彼女の華奢な肩を優しく包んでいる、背中まで伸びた黒髪はそよ風に揺れ、街灯の光を受けてシルクのように輝いていた、グッチのショルダーバッグ、肌色のストッキングとこげ茶のブーツが・・・彼女の洗練された佇まいを一層引き立てる