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「シン様!
梅、それに桃もありました!
季節はちょっと過ぎていますけど……
あと栗は今が食べ頃です!!」
一反木綿のような布ゴーレムから助け出された
パチャママさんは―――
その後、何事も無かったかのように探索を続け、
そして次々と目的のものを発見してくれた。
「こ、これ……食べられるの?」
「このようなトゲトゲの化け物のようなものが」
イガ栗を見て、メルもアルテリーゼもやや引いた
姿勢になる。
まあ、初めて見る食材だしそういう反応も
無理はない。
「さすがにこのまま食べはしないよ」
私は近くの石を持って適当に中身を取り出す。
「ほぉ、中はこんなふうになっていたのですか」
羽狐の一人が興味深そうに見つめ、
「これでもずいぶんと固そうですが……」
冒険者の男性がアゴに手をあてて、疑問の声を
上げる。
「これからさらに焼いて、皮から中身を
取り出すんです。
これはまあ、実際に公都に戻ってやって
もらった方が早いかと」
そこで獣人族の冒険者が手を挙げて
呼びかけてきて、
「シンさん、荷物の積み込みと運搬準備、
完了しました!」
見ると、『乗客箱』の横に―――
何本かの木が幹をロープでまとめられ
置かれていた。
成木を丸ごと持って帰る事にしたので、
それをアルテリーゼにぶら下げる要領で
運んでもらう事にしたのである。
そして布ゴーレムも巻かれて置かれ……
こちらも桃や梅の木と同様、ぶら下げて
運ぶ予定である。
(栗の木は実を全て落とした状態)
「では引き上げましょう。
みなさん、『乗客箱』へ乗り込んで
ください!」
私の合図に、パチャママさんを始めとした
冒険者、羽狐たちが乗り込んでいった。
「おー、こいつが栗か。
すごい見た目だな」
宿屋『クラン』で―――
アラフィフの白髪交じりの頭をしたギルド長が、
イガ栗を手にして語る。
「他は今、土精霊様に頼んで育成してもらって
いますので」
公都『ヤマト』に帰還した後……
西側新規開拓地区北側にある、果樹&各種野菜を
専門的に育てているエリアへ持っていき、その
促成栽培を土精霊様に依頼した。
特に梅はパチャママさんが梅干しの作り方を
知っているという事で―――
実り次第彼女に作ってもらう予定だ。
「で、これをどんな感じに料理するッスか?」
「何かちょっと想像出来ないんですけど……」
レイド君とミリアさんが、イガ栗の針を指先で
つつきながら聞いてきて―――
「料理というかまあ、炊き込みご飯にして
みようかと」
私の答えに、『へー』『ふぅん』と褐色肌の夫と
タヌキ顔の妻は……
そのイガ栗を見つめたまま相槌を打った。
「シンー、出来たよー」
「とは言っても、ただ米と一緒に炊き込んだ
だけだがのう」
「ピュッ!」
しばらくして、厨房からメルとアルテリーゼが
それを持って出てきた。
仕込みは私がだいたいやり、炊くのは彼女たちに
任せたのだが―――
ご飯と一緒に甘い香りが店内に充満する。
「おお、こいつは……!」
「炊き込みご飯は、貝や魚や肉で
経験済みッスけど」
「間違いなくこれは美味しい匂いです!」
ジャンさんとレイド夫妻がまずその香りを
堪能し、
そして試食が行われた。
「甘くてホコホコしているな。
こりゃ子供たちも喜ぶだろう」
「そうッスね。
ご飯にもすごく合うッスし」
「それにしても、中身がこんな感じなんて……
信じられません!」
ギルドメンバーの三人が、頬張りながら
賞賛し、
「甘味としても使えそうだねー」
「うむ。これまでの果物や野菜とは、また違った
甘さがある」
「ピュッピュ!」
家族にも好評のようだ。
ただトゲは危険なので、子供たちには手伝わせ
られないな、とは思う。
「さつま芋もランドルフ帝国から頂きましたし、
そっちもやってみれば良かったかな」
私も食べながら他の料理について考えていると、
「あー……
そういえばシン、すまなかったな」
「?? 何がです?」
いきなりギルド長に頭を下げられ困惑する。
「テンについてッスよ。
あの山の主の子について話すの、忘れて
いたでしょ?」
「お母さ……リベラさんが来て、
こってり絞られたんですよ、ギルド長」
レイド君、ミリアさんが説明する横で、
ばつが悪そうにジャンさんは頭をかく。
「いやまあ、その辺はいろいろありましたから。
そもそも私が完全に失念していたというのも
ありますし―――」
「そう言ってくれると助かる。
そういや、『布ゴーレム』とやらは
やっぱりあの夫婦行きか?」
ギルド長があの一反木綿に話を振る。
「そうですね。殺したわけではないので……
パック夫妻に任せています」
『布ゴーレム』は一度討伐記録を取るために
冒険者ギルドに引き渡したが―――
さすがにこれは未知の対象だったらしく、
またゴーレム研究に関してはレムちゃんがおり、
さらに何かあってもドラゴンの奥さんである
シャンタルさんがいるので、夫妻に任せる事に
なったのである。
「最初に持ってきた時は何コレって思ったけど、
こんなに美味しいものに化けるとはねぇ」
そこへ髪を後ろに束ねた四十代くらいの女性、
クレアージュさんがやって来て、
「まー貝だってそんな感じだったし」
「しかし、あんな見た目の物を最初に
食べようとした者は勇者じゃのう」
「ピュウゥ~」
メルとアルテリーゼ、ラッチも食べながら
改めてイガ栗の外見を語る。
「そういえば、児童預かり所へは……」
「とっくに手配済みだよ。
今頃はもう着いているんじゃないかい?」
女将さんの言葉にジャンさんが目を細め、
「そういやテンが人化したって聞いているが、
あの子はどうしているんだ?」
「山の主―――
ご両親の頼みで、また児童預かり所に
戻って来ました。
布ゴーレムは何とかしましたけど、
一応、山の安全が確認出来るまで引き続き
預かって欲しいとの事で」
そのやり取りにレイド夫妻が、
「あー、そうッスねえ。
いくらシンさんが倒したとはいえ」
「シンさんやドラゴンがいるこの公都が、
一番安心出来ますしね」
その話にクレアージュさんが首を傾げ、
「なんだい、また何か獲って来たのかい?」
すると周囲の客から、
「何だ、知らねーのか?」
「確かドラゴンがでけぇ布持って飛んで来たが、
ありゃ何だったんだ?」
「おお、そりゃ俺も見たけど」
と、ヤジ馬も加わって……
その説明をギルドメンバーと一緒にする事に
なった。
「だから、奴隷を返せってウィンベル王国に
要請して欲しいんだよ。
あの時に引き渡したのは間違いだったってな」
ランドルフ帝国帝都・グランドール―――
そこのとある商館で、黒々とした口ヒゲの
アラフォーの男が、商売相手らしき男に
詰め寄っていた。
「無茶を言わないでください、シルヴァ提督。
そもそも金を出してまで引き取ってもらったん
でしょう?
いくらその場に帝国のティエラ王女様が
いたとはいえ、お互いに合意した取引きに
口なんて出せませんよ」
奴隷船で帝国まで来ていたドラセナ連邦の
シルヴァは……
商品である奴隷たちがゼロの状態でほとんど
商売が出来ず、商館で八つ当たりのように
無理難題を吹っかけていた。
「どうせ辺境の大陸の弱小国どもだろ?
ちょっと脅してくれるだけでもいいからよ」
それを聞いた担当者は大きくため息をつき、
「……人の姿となったドラゴンやワイバーンを
ご覧になったのでしょう?
あと向こうでは亜人・人外種族と協力関係に
ありますし―――
技術では一部帝国を凌駕しているとさえ
考えられているのです。
他の属領にした国々と同じだと思って
舐めてかかると、痛い目を見ますよ」
彼は苦言を呈するが、
「ハッ!
それほどの技術や戦力があるというのなら、
なぜ攻めてこない。
それにランドルフ帝国としても、奴隷の
取引きを妨害されたも同然だろ?
それで文句のひとつも付けられない、
腰抜けに成り下がったのか!」
提督の言葉に担当者は眉間にシワを寄せて、
「そんな事を言っている暇があれば、
また商品を仕入れて来たらいかがです?
ここは商談の場です。
他に質問・ご要望が無ければお引き取りを」
「……チッ! クソッタレが!!」
シルヴァは舌打ちすると、悪態をつきながら
商館を後にした。
その場に残った担当者に、同僚らしき男が
近付いて話しかける。
「災難だったなあ」
「まったくだ。
自分で勝手にやった取引きを後で無かった事に
しろだなんて、何考えてんだか。
しかもその尻ぬぐいを帝国にしてくれなんて、
いくら交易関係にあるからって―――」
ウンザリした様子でグチる同僚に、彼は声の
トーンを落とし、
「辺境大陸に対等な関係を認めたっていうのは、
要は『そういう』事だろ?」
「軍事力での支配を帝国が諦めたという事……
って意味、わかってんのかねアイツは」
そこでボソボソとさらに小声になって、
「それより知っているか?
各商会とも、奴隷取引きの規模縮小に舵を
切っているらしいぜ?」
「ああ、それは俺も聞いている。
特に獣人や亜人奴隷の取引きは、辺境大陸との
交易に『良くない』影響があると―――」
「連中の商売に関する情報収集能力はピカイチ
だからな。
何かつかんだんだろう。
奴隷はドラセナ連邦の主力商品の一つだが、
さて、今後はどうなる事やら」
そして二人は、ドラセナ連邦から来た提督が
出て行った扉を見つめた。
「季節外れのソーメンだが……
梅干しっていうのを入れるとまた違うな!
酸味が効いてていくらでも食べられる!」
「この梅干し入りおにぎりもうめぇ!
たいてい米には何でも合うけどよ。
これは飯が進むぜ!」
公都『ヤマト』の宿屋『クラン』の食堂で、
ブラウンの短髪と、こげ茶のボサボサ頭の
男性二人が梅干しを使った料理に舌鼓を打つ。
公都の門番兵長であるロイさんとマイルさんだ。
「あっま……!
こんな果物が世の中にあるなんて」
「こ、これはまさにデザートになるために
生まれてきたような果物……!」
向こうではレイド君と同じくらいの長身の
男性と、亜麻色の髪を後ろで三つ編みにした
女性―――
ギル君とルーチェさんが夫婦で桃を
堪能していた。
栗ご飯から数日後……
土精霊様によってあっという間に実った
梅と桃は無事収穫され、
そしてちょうど新たな食材を取りに来た魔族の
オルディラさんと―――
パチャママさんの手により数日で梅干しが完成。
そしてお披露目の日を迎えたのである。
「土精霊様のお力もそうですけど……
オルディラさんの魔法もまたすごいですね!
まるでこの梅干し、五年十年漬けたような
味わいですよ!」
彼女もまた、自分がオルディラさんと共同で
作った梅干しに満足しながら料理を食べる。
ちなみに納豆を平気で食べる彼女は、
当然オルディラさんに気に入られ―――
梅干し作りに協力してもらえる事に
なったのだが、
天日に干すという作業は短縮出来ず、
それで数日要する事になったのである。
ちなみにオルディラさんは梅・桃・栗の苗木を
土精霊様に成長させてもらったものを
両手に抱え魔族領に戻っていったのだが、
その際、『鬼人族に何かあれば魔族が
助けるぞ!!』と宣言していった。
「ティエラさ……さんも、もうちょっといれば
コレ食べられたのにねー」
「忙しいのであろう。
しっかり買い物はしていったがな」
「ピュウウゥ~」
『保護』されているランドルフ帝国の軍人たちを
帰国する手続きや準備で忙殺されている彼女は、
ここ公都『ヤマト』にあるゲートでいったん
帰国し、調整と報告を行う運びとなった。
何せ四千人超の帰国だ。
規模も何もかもケタ違いで―――
あちらとしても詳細な情報はあった方が
いいだろう。
「そういえば、パチャママちゃんの故郷は
シンさんのところと似ているって話だけど、
他に何があるんだい?」
ふと、ロイさんから来た質問に彼女は振り向き、
「もち米とか小豆とか、あと海にも近いので
牡蠣や海苔も養殖してます」
「おー、という事はおはぎが作れますね。
それにカキフライや海苔巻きとかも……」
私の言葉に家族が反応し、
「おっ、何それ何それ?」
「それは絶対美味しいものじゃな?」
「ピュイッ!」
こうしてパチャママさんの故郷と、そこの素材を
使った料理の話で盛り上がった。
「パチャママ様はまだ見つからないのか?」
「奴隷船に乗せられ、行先はこの帝国だった
はずなのだが……
なぜか途中で出会った船に、奴隷は全員
引き渡されたらしい」
「海の向こうの大陸、か―――
さすがにそこまで行く手段は……」
人気の無い路地裏で、忍者のような黒装束に
身を包む者たちがいた。
頭に布を巻いて顔を隠しているが、その角は
鬼人族である事を示し―――
「ここはいったん戻って報告を」
「バカを言え。
向こうへの航路があるのだ。
何としてでもその船に潜入するか、
どんな手段を使ってでもそれで渡海するぞ」
「だがどうやって?」
その三人はしばらく沈黙していたが、
「……この帝国のティエラ王女様と連絡は
つかないだろうか。
彼女は亜人や他種族に非常に寛容だと聞く。
事情を話せば協力してもらえるかも」
そこにもう一人は希望の光を見出すが、
残った一人が、
「いや、その王女様だが―――
数日前から船で出航していて不在なのだ」
「間が悪いな」
「待てよ。
もしそうなら、奴隷を引き取った船というのは
ティエラ王女様の船ではないか?」
「それはあまりに楽観的過ぎだろう」
そこでまたしばしの沈黙の後―――
「ここにこうしていても始まらぬ。
とにかく彼女の帰りを待とう。
まずは港の船・港湾施設・王宮を見張るのだ」
その言葉を最後に、彼らは路地裏から
姿を消した。
「……うん?」
王宮に向かった鬼人族は思わず声を上げる。
なぜなら、出航したと聞いていたはずの対象を、
その窓の中に見つけたからだ。
「ティエラ王女様―――もう帰ってきたのか?
だが、それなら話が早い。
夜を待って、他の2人と共にお目通り願おう」
そして彼は港に向かった二人と合流・情報共有を
行い、その時を待つ事にした。
「!? 誰です!?」
自室でくつろいでいた、パープルの長髪を
眉の上でそろえた痩身の女性は、気配に気付いて
振り返る。
「怪しい者ではございません。
我らは南方に住む鬼人族という亜人。
ティエラ王女様にお願いがあって
参りました」
三人は跪いて頭を下げ―――
敵意の無い姿勢を見せる。
「……有角人?
もしかして、パチャママさんの事で何か」
その名前が出た瞬間、鬼人族たちは反応し、
「!!
我が長の娘をご存じなのですか!?」
「では、奴隷たちを引き取ったというのは、
やはりティエラ様が……!?」
彼らの疑問に彼女は首を左右に振って、
「残念ですが、パチャママさんは今向こうの
大陸―――
ウィンベル王国におります。
ただ奴隷としてではなく、保護される形で、
です。そこは安心してください」
ティエラ王女の答えに、彼らは安堵の表情を
浮かべる。
「それで帰ってこられたのですよね?
では、次に向かう際に我々もどうか
ご同行させて頂ければ……!」
そこで彼女は困った顔になり、
「……実は、わたくしが戻ってきた事は
極秘なのです。
帰国はおろか、今ここにいるのもわずかな
人間しか知りませんので」
ティエラ王女は公都『ヤマト』のゲートで
帰国していたのだが、さすがにゲートの事は
トップクラスの国家機密であり―――
それをどう説明したらいいか苦心する。
「ここで少々お待ち頂けますか?
決して悪いようにはしませんから」
彼女は意を決したように扉へ向かうと、
残された三人の鬼人族は伏したまま見送った。
「そんな理由で王宮のゲートを使わせるのは
難しいのう」
皇帝・マームードは娘であるティエラ王女の
話を聞いて消極的に答える。
「どうか向かうだけでもご許可を……!
帰りは船で戻らせますゆえ」
彼女の願いは、ウィンベル王国へ戻る際―――
鬼人族の三人を同行させて欲しい、というもの
だったのだが、
「まず、だな。
同盟もしていない国に国家機密が知られて
しまう。
それに、その三人組がウィンベル王国へ
行った際に、何か問題を起こされても責任が
取れぬ。
お前が害されていない事を見れば、
友好的ではあるのだろうが……」
正論で諭すように父親は娘に話す。
「行先はシン殿のいる公都『ヤマト』ですから、
問題は無いと思うのですが……」
「ううむ」
シンの正体と能力を知っているマームードは、
それを聞いて言いよどむ。
「そもそも奴隷の救出はシン殿の発案であり、
またいずれ彼らを故郷に返す意向でもあります
から―――
余計な懸念やトラブルを予め取り除く事は、
シン殿への支援にもなるかと」
「むむ」
皇帝・マームードは個人的にシンに恩義を感じて
おり、その意見にうなずくものの、
「……だが、それでも王宮内、それも
皇族の者しか入る事の出来ないエリアへ、
非同盟国の者を入れるわけにはいかん」
ゲートは王宮でも厳重な警備が施されている
場所に設置されていて、現実的に鬼人族を
入れるのは無理があった。
「し、しかし―――」
それでもなおも食いつく王女に皇帝は続けて、
「王宮内のゲートは使わせられぬが……
他のゲートなら容認出来る」
そこでティエラはハッと皇帝の意図に気付く。
「ウィンベル王国を始め、新たに同盟を結んだ
国々のため、大使館を設立したが―――
現在、まだそこに滞在する外交使節の人選は
決まっておらず……
我が帝国が管理・警備しておる。
そこならばいくらでもごまかせよう」
「そ、それは確かに―――
しかし、それはそれで大使館の機密を、
鬼人族に知られてしまう事になるのでは」
娘が聞き返すと父親はニッ、と笑い、
「もともと問答無用で作られたのだ。
これくらいの意趣返しはさせてもらわんとな。
それに今回の件の発端はあちらなのだし、
容認してもらおう」
子供のようなイタズラっぽい笑顔のまま、
皇帝は話を終えた。
「クロウ! シシマル!
それにツバキまで……
どうしてここに?」
公都『ヤマト』の冒険者ギルド支部・
その応接室で―――
私はティエラ王女様が新たに連れて来た、
三人の鬼人族と相対していた。
一人は細マッチョという感じの短髪と、
もう一人はそれより一回り痩せた感じの
男性。
残る一人は小柄な長髪の女性で……
ただ三人とも黒髪黒目に、赤い肌に頭に
角がある。
パチャママさんの知り合いだったのか、
彼女は名前を呼んで驚いていたが、
「実は、帝国までパチャママさんを探しに
来ていたようなのです。
それでゲートを通ってこちらまで連れて
来た次第」
ティエラ様の話によると、大使館にあった
ゲートを通って、魔界、そしてこちらに
飛んできたとの事。
また大使館のゲートを使った理由も説明
してくれた。
「また面倒な事をしてくれたなぁ」
一通り話を聞いて……
同席していたジャンさんが苦笑する。
「も、申し訳ありません!
この件はわたくしの方から、直接王都に行って
説明させて頂きますので」
王女様がその頭を低くし、さらに新しく来た
鬼人族たちもテーブルに突っ伏す勢いで、
同様に頭を下げる。
「で、ですがまあ、そこまで気にする事も
無いのでは。
まさか一瞬で海の向こうまで行ける魔法や
技術があるなんて―――
言っても信じてもらえないでしょうし」
「そりゃまあ、なあ」
私の意見に、ようやく室内に安堵の空気が
広がる。
「そ、そういえば……
やっぱり母ちゃん怒ってる?」
パチャママさんが恐る恐るたずねると、
「ご母堂も心配しておられます」
「どうか一刻も早いお帰りを」
そこでティエラ王女様が話に割って入り、
「さすがに帰りは船で帰ってもらいますよ?
それまではこちらに滞在した方がいいのでは。
事情は、わたくしの方から王都に説明して
おきますので」
それを聞くと、彼らは私たちの方を向いて
土下座せんばかりに床に跪いて、
「長の娘たるパチャママ様の保護して頂き、
改めて御礼申し上げます!」
「この御恩、決して忘れませぬ!」
「我ら、今はこの身しかございませぬが、
どのような事でもいたしますれば」
口々にお礼を言ってきたが、
「いえいえ、パチャママさんからもいろいろ
教わっていますので」
「どのような事でも、と言ったか?」
私の後にギルド長がつぶやくように続き、
「えっ」
と驚く私に、ジャンさんは子供のように
イタズラっぽい笑顔を向けた。
「えー、それでは……
当ギルドの『模擬戦』を行います!
今回は海の向こうからの参戦!!
パチャママさんと同郷にして鬼人族―――
クロウ・シシマル選手です!!」
次期ギルド長―――
レイド君の拡声器を使った放送により、
観客席は盛り上がる。
「そして彼らの対戦相手となるのはこの2人!
もはや説明の必要無し!
当ギルド代表にしてギルド長、
そしてゴールドクラス!
ジャンドゥ選手ー!!」
今度はミリアさんの声が拡声器から伝わり、
彼は片手を振って観客に応える。
「その相方を務めるのは同じく当ギルド所属、
シルバークラス!
しかしその実力は誰もが知っています!
シン選手です!!」
そこでまた観客は沸き起こり、私は困惑しながら
片腕を挙げて振る。
「まあそんな顔するなって。
それにお前と同じ世界から来た連中なら、
その戦い方をぜひとも体験したいと思って
いたんだ。
あのお嬢ちゃん相手にするわけにも
いかなかったし、せっかくの機会だからよ」
その通り、彼らの中ではツバキさんだけ女性で、
男のクロウさん・シシマルさんが対戦相手だ。
「そして今回は異例も異例!
なんと、防御以外に魔法の使用が認められて
おりません!
そして武器もなく、肉弾戦のみの模擬戦と
なります!!」
再びレイド君に拡声器が渡り、今回のルールが
伝えられる。
これは……
そもそも魔法も魔力も無く怪力であった
という鬼の言い伝えに、興味を持った
ジャンさんが提案したもので、
『要は神前戦闘みたいなものだろ?
それに、鬼の怪力というのも味わって
みたいしな』
というわがまま全開の要望で決まったのである。
本当に戦闘狂というか何というか―――
「では両者構えて―――」
「……開始っ!!」
レイド夫妻の合図で、試合がスタートする。
と、突然クロウさんが突っ込んで来て、
「うおっ」
「ジャンさん!」
彼はギルド長を相撲のように、腰回りを
つかまえて、
「パチャママ様の恩人でありますれば、
ケガはさせたくありません。
これで大人しくして頂きます……!」
そこでクロウさんは回した片腕を軸に、
相撲でいうところの『すくい投げ』で、
ジャンさんを背中から落とすように投げた。
「うおっと!」
観客席からどよめきが起こったが―――
一回転するかのように投げられた彼は、
足から着地し、難を逃れる。
「すげぇ力だな。
下手な身体強化よりも強力だぜ」
「今のを抜けるとは……
さすがは冒険者のトップというところですか」
互いに健闘を称えあい、評価する。
一方私とシシマルさんはというと、
「どうしました?」
彼は合気道のような構えのまま動かない。
「こうまで見事に魔力の気配を消せるとは……
あなたは鬼人族の武道の奥義である、『無』を
体得しておられるのですか……?」
とは言われても、実際に魔力がゼロなのだから、
それは単なる事実に過ぎず―――
そこで観客席がまたワッと沸き起こる。
クロウさんがまたギルド長につかみかかるが、
今度は上半身をとらえており、
「ふんっ!!」
と、そのまま片腕とえりのあたりをつかみ、
柔道でいうところの跳ね腰のように投げる。
「!?」
「確かにすげぇ力だ。だがな―――」
しかしその動作は途中で止まる。
ジャンさんはクロウさんの首に手を回すように
して、さらに片足を内股に絡ませるように
固定したからだ。
「こういう投げ方もあるんだろ?」
「カワズガケ!?
な、なぜそれを―――」
そしてそのまま両者ともに、舞台の壇上に
仰向けに倒れこむ。
そして先にギルド長が上半身を起こし、
どちらが勝者かを周囲に伝え……
「おー、さすがギルド長」
「決まったのう。
それで、我が夫は……」
「ピュイィ~」
否が応でも、私とシシマルさんに注目が
集まってしまう。
「じゃあ、こちらも終わらせましょうか」
「……いざ!!」
構えるシシマルさんに、私は両腕を顔を
ガードするように上げ―――
「……っ!?」
そのまま彼に突進する。
シーガル様と対戦する際にメルにも教えた
技だが―――
攻撃の基本は『体当たり』にある。
(■53話 はじめての ごくひいどう参照)
ボクシングでも、無敵を誇ったヘビー級の
ボクサーがいたが……
ハードパンチャーでもあったが、彼の強さを
支えたのは、『ガードしたままの突進』という
戦い方であった。
頭を守りただ相手に突っ込んでいく。
頭突きは反則になるが、顔の前にグローブを
位置させるようにガードに使えば、それは
パンチになる。
固定したままのパンチを当ててはならない、
というルールはない。
そして、そんなただの突進に対応出来た
選手はほとんどおらず、それが彼の黄金時代を
築き上げた。
もちろんボディのガードはがら空きになるが、
上半身を屈めての突進はそのリスクを最小限に
減らす。
またいつ打撃が来るのかわからない突進は、
相手の判断能力に迷いを生じさせ、
さらに私はそれに加えて小声で、
「魔力も使わず、人間と同じ体格、体重で
怪力を発するなど、
・・・・・
あり得ない」
そうつぶやいて鬼としての怪力を無効化させる。
「くうっ!?」
シシマルさんは私の突進をそのまま食らい―――
仰向けで後方に倒れ込む。
「おおー!!」
「こっちもシンが勝ったぞー!!」
そこでまた観客席が盛り上がるが、
「……あれっ?」
彼を起こそうと近付くと、そこにシシマルさんの
姿はなく、
「おぐっ!?」
その瞬間、背中に打撃をもらい、私は
うつ伏せに倒れる。
そしてシシマルさんが倒れた場所にあった、
木の枝のようなものが視界に入ってきて、
「変わり身……です。
防御に関しては、魔法の使用が認められて
いるのでしょう?」
背中越しに彼の声が聞こえ、私が仰向けに
なるように反転、上半身を起こすと、
シシマルさんとジャンさんが相対していた。
「何だ今の!?
すげぇ面白ぇな!!」
「はは……二度通じるかはわかりませんけど」
そこでしばらく二人は無言でお互いに構えて
いたが、やがてジャンさんが構えを解いて、
「まっ、引き分けって事にしておこうや」
「ご配慮、痛み入ります」
そこでジャンさんが片手を挙げ、最上段の席、
レイド夫妻に向かって手を振る。
「これは……!?
どうやらここで模擬戦終了の模様!
ジャンドゥとシシマル選手、互いの
一勝を持って―――」
「この試合、引き分けといたします!!」
その言葉に、会場となった訓練場は
静まり返り―――
数秒後、大歓声と拍手が沸き起こった。
『なんだ、最後までやらねーのか』
『まあ模擬戦だしな』
『ギルド長が止めたんだろ、仕方ねぇ』
と、多少の不満の声はあったものの―――
おおむね観客たちは満足し、
「魔力も使わずに怪力を出せるのは、
この世界では
・・・・・
当たり前だ」
そのざわめきに交じって、密かに私は
彼らの怪力を元に戻した。