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「ズルズル……!
ま、まさか米だけでなく、ソバやウドンも
あるとは」
「味噌や醤油まであるなんて―――
まさか故郷以外の地でこの味に出会えるとは
思いませんでした」
細マッチョという感じの鬼人族の青年と、さらに
それより一回り痩せた感じの男性……
クロウさんとシシマルさんが冒険者ギルドの
支部長室で、麺類をすする。
「ここには何でもあるんですね、お嬢様」
「んー、でも生魚は食べないんだって。
生卵は食べるのに変なのー」
女性の鬼人族―――
小柄な長髪のツバキさんと、十歳を少しも
過ぎていない少女、パチャママさんが
月見ソバを食べながら語る。
「あれは生で食べられる方法をシンが
作ったんだよー」
「それまでは卵そのものが貴重であったと
聞いておるしのう」
「ピュイッ」
メル、アルテリーゼ、ラッチ……
家族が料理を運びながら、彼女たちの疑問に
応える。
「しかしそんなに似ているのかよ。
パチャママから、シンの故郷の料理と
ほとんど同じって事は聞いていたが」
「って事はやっぱり、そういう事なんで
しょうッス」
「鬼人族の先祖は、シンさんと同じ世界から
来た、という事ですか」
ジャンさんにレイド君、ミリアさんも一緒に
食べながら会話に参加する。
あの模擬戦の後、戦った私とギルド長、そして
鬼人族のクロウさん・シシマルさんは―――
休憩と食事を兼ねて支部長室に通した。
そして宿屋『クラン』に料理を依頼、家族が
次々と冒険者ギルドに運び込む。
模擬戦の後、一緒に食事をするのは今までも
やって来た事だが、今回は微妙に違う点がある。
それは応接室ではなく……
支部長室に連れて来ている、という事。
基本的にここは、よほどの場合をのぞいて
とあるメンバーしか入る事を許されていない。
即ち、私の正体が異世界人だと知っている―――
もしくは知らされる場合だ。
パチャママさんにはすでに明かしていたのだが、
今回、他の鬼人族の方々にも話を通しておいた
方がいい、という判断になった。
理由としては、彼らはおそらく諜報機関の
人間なので、先にパチャママさんに話して
しまっている以上、彼らに隠し通す事は困難に
思えた事、
そしてあまりにも料理が元の世界の物と
似通っている事、
その疑問からいつ私の正体に言及されるか
わからず、下手に秘密にするよりは彼らに
先に事情を話した方がいいと、ギルド長から
忠告されたのである。
「いやしかし納得です!
これだけの味や料理を再現しているとは、
そうとしか説明が出来ません」
「しかもそれ以外にも美味しい料理が
たくさん……!
我らが先祖も、食には手を抜かなかったと
言われておりますゆえ」
そんな彼らが次に手をつけているのは、いわゆる
丼ものだ。
時代考証を考えるに、天ぷらや揚げ物は
あるものの、いわゆる洋食はまだ入って
来ていなかったのだろう。
クロウさんとシシマルさんは、かつ丼に
頭を突っ込む勢いで食べる。
「そういえばお嬢様。『かりー』なる物も
美味しかったですよね」
「あ、アレは匂いでお腹が空くのー!」
一方、ツバキさんとパチャママさんは、
担々麺を勢いよくすする。
彼女たちの故郷は南方という事もあってか、
辛い物は平気……というか大好物のようだ。
さらに今回ランドルフ帝国からニンニクも
持ち帰っているので、味は現代日本のそれに
かなり近くなっている。
「しかし、シンさんと戦って納得がいきました。
我らの世界にはもともと魔法は無く、従って
魔力も無かったと―――
魔力ゼロの者と戦った事などありませぬゆえ、
面喰いましたよ」
シシマルさんが対戦を思い出しながら語り、
「そういえばジャンドゥ殿。
どうして模擬戦をあの場でやめたのですか」
次いで、ギルド長と対戦した鬼人族の青年が
彼に問う。
「あー、あの木の枝? にすり替わったのを
見て……
『面白ぇな』とは思ったけどよ。
お前ら、言ってみれば『裏側』の人間だろ?
そこで、あれだけの公衆の面前で手の内を
明かさせるのは、マズイと思ってな」
なるほど。確かに彼らは忍者、隠密に相当する
人たちだ。
だとすると、その戦い方や術など、秘密に
しなければならないものも当然ある。
確かあの時シシマルさんが―――
『ご配慮、痛み入ります』と言っていたけど、
そういう意味だったのかと納得する。
「でもそれって、元をただせばオッサンが
無理やり模擬戦させたからッスよね?」
そこでなぜ地雷を踏みに行くレイド君。
心なしかミリアさんも笑いをこらえているし。
「うるせぇ!
どうせ海の向こうだし、バレたところで
どうって事ねぇだろ!」
逆切れするジャンさんをなだめるように、
私が口を開き、
「ま、まあまあ。
そういえばクロウさんたちはゲートを使って
ここに来たと、ティエラ王女様から聞いて
いますけど……
帰りは船で帰るんですよね?
ランドルフ帝国の人たちが帰国する船が
ありますけど、準備にまだちょっと時間が
かかりますよ?」
実際、ライさんから二週間から一ヶ月くらいは
かかるだろうって言われているし、それまで
彼らには待ってもらわなければならない。
「あー、そうなると安否もそれまで連絡
出来ないのか……」
「パチャママのご両親も心配しているで
あろうにのう」
「ピュウ~」
メルとアルテリーゼ、ラッチが私と同じような
心配を抱く。
さすがに一ヶ月以上も音信不通では、家族は
不安でたまらないだろうし―――
と思っていると、
「あ、いえ。
お嬢様がご無事であるという事は、故郷に
報せてあります」
「我らには訓練した鳥で連絡する手段があり、
ティエラ王女様からゲートの使用を打診された
際、すでに故郷に放っておりますゆえ」
ツバキさんとクロウさんの説明に、みんなが
『へー』『そんなものがあるんだ』と感心
する中、
「伝書鳩かな?
小型の鳥を使うんですよね?」
私が何気なくたずねると、
「おお! やはりシン様もご存知ですか!
我らは『カワラバト』と呼んでおりますが……」
そこでシシマルさんは私以外の顔を見渡し、
「ここでは、それは導入されていないので
しょうか?」
続けて出た質問にパチャママさんが、
「あー、あれよりスゴイのあるからココ。
一瞬で遠い地に声を届ける魔導具もあってー」
「何と!?」
「それは真ですか!?」
そこでギルド長がパンパン! と手を叩き、
「どっちにしろしばらく滞在するんだ。
お前らの目で見ていけや。
あ、あとシンが異世界から来た事は秘密な」
その言葉に鬼人族の4人は交互に顔を見合わせ、
「我々の先祖が異世界から来た、というのは
どうしましょうか?」
クロウさんがおずおずと片手を挙げて質問し、
それに対しては私が、
「それは別に構わないかと―――
言ってみれば伝承や昔話の類ですし、
下手に隠すより普通に話して頂いた方が。
それより、鬼人族のみなさんにお願いが
あるのですけど」
「我々に? 何でしょうか?」
対戦したシシマルさんが、おにぎりに手を
伸ばしながら聞き返してきて、
「私は料理人でも何でも無かったので、
前の世界の料理がうまく再現出来ているか
どうか、不安がありまして。
そこで出来れば鬼人族の方々に、出来る範囲で
いいので……
『和食』の審査をして頂きたいのです。
可能ならばご指導をぜひ」
私の提案にギルドメンバーも反応し、
「確かに、言ってみりゃシンより前に来た
異世界の継承者だしなあ」
「それも、何世代も前に来て再現したって
いうのなら、シンさんの大先輩でもあるッス」
「これはぜひともご協力頂きませんと……!」
ジャンさん、レイド君、ミリアさんの三人が
身を乗り出すようにするも、
「で、ですがそれを言ったら―――
我々とて料理人ではありませぬ」
「味で言うのなら、ウドンもソバもまだまだ
腰が甘い、と感じる部分がありましたが……」
申し訳なさそうに鬼人族の青年二人が答えるが、
「え、えっと―――
家庭料理程度でいいのであれば、
ちょっとくらいなら……?」
ツバキさんが自信無さそうに答えると、
「ぜひ!!」
「メルっち!!
我らが真っ先に教えてもらおうぞ!」
「ピュッ!!」
と、なぜか家族が真っ先に食いつき―――
しばらく料理指導員として、鬼人族に滞在して
もらう運びとなった。
「それで、鬼人族と共に大使館の『ゲート』を
使ったと……」
「も、申し訳ございません。
それに聞けばシン殿が発端との事。
亜人・人外に寛容な姿勢を見せるためにも、
事後承諾という形で使わせて頂いた次第」
ランドルフ帝国王女・ティエラは―――
ウィンベル王国王都・フォルロワの
冒険者ギルド本部にて、そこの本部長に事情を
説明していた。
ライオット……
冒険者ギルド本部長にして、その正体は
前国王の兄ライオネル・ウィンベル。
その彼に取り敢えず事情を話しておこうと
彼女は来ていたのである。
「まあ、大使館の職員の選出はまだだったし、
今は帝国が管理しているからな。
それにもともと『ゲート』は無断で作った
経緯もあるから、強く言えねぇし。
……って事も織り込み済みなんだろうが」
見透かされているようで、思わずティエラ王女は
一瞬体を硬直させる。
「そういや、あの鬼人族のお嬢さんは
元気だったか?」
「は、はい。
何でもシン殿の依頼で、故郷と同じ料理を
作っているとかで」
それを聞いていた二人の秘書風の女性、
サシャ&ジェレミエルは、
「まだまだあるんですねえ」
「それにしても有角人の女の子、ですか。
とても可愛いんでしょうねゲヘヘヘ」
「何で下世話なオッサンみたいな笑い方に
なるんだよ。
まぁ何だ、帰国準備にあと10日くらい
かかるって話だから―――
一目見るくらいなら行って来ても構わんぞ」
金髪を腰まで伸ばした童顔の女性と、
眼鏡をかけたミドルショートの黒髪の同性は、
「あざっす!」
「こうしちゃいられねえ!
では後はお任せしまーす! 本部長!」
「おい、引継ぎは終わらせて……」
と、ライオットが引き留める間もなく、
彼女たちは風になって去っていった。
「あの、ライオネル様。
鬼人族たちも帰りの船に乗る予定ですので、
どちらにしろ王都経由で港に行くと思います。
なので、ここで待機していたら会えたのでは」
「あ」
ティエラ王女の指摘に彼はポカンと口を開け、
やがて大笑いし、それにつられて彼女も
笑い始めた。
「いやー、鬼人族の女の子が炊いた米は
ひと味違いますね!」
「このお味噌汁もです!
何かこう、いつもより美味しく感じます!」
宿屋『クラン』で―――
ワイバーンで公都までやって来たサシャさんと
ジェレミエルさんが、和食を頬張る。
ツバキさんが技術指導をしてくれたおかげか、
細かい味付けや調理方法の機微が伝わり、
うまく説明出来ないが、確かに味の向上に
つながり……
各種料理の改善に貢献していた。
「こうして見ると、私の料理は結構大雑把
だったんだなあ」
私がつぶやくと―――
一緒にいたメルとアルテリーゼが、
「まーそれは仕方ないよ。
だってシン、料理人じゃなかったんでしょ?」
「ツバキもそうであったが、そこはそれ。
男女の気遣いの差というものかのう」
「ピュイ」
と、家族は私を慰めてくれ、
「そういえばサシャさん、ジェレミエルさん。
帝国の人たちの帰国準備は」
あと十日ほどと聞いていたのだが、すでに
集まっている人たちもいるだろう。
そう思って聞いたのだが、
「それがですね、何かギリギリになるまで
来ないっぽいです」
「ですので帰国最終日が修羅場になるのではと、
王国では予想しています」
まあワイバーンたちをフル動員すれば、
ギリギリまで動かないでいいんだろうけど。
「よっぽど居心地がいいんですかねー」
「気持ちはわかるがの」
「ピュ」
確かに、ゾルタン副将軍を始めとしてあちらの
上層部の人たちも、料理や布団、トイレの差に
驚いていたらしいからなあ……
「私たちも、この公都の児童預かり所で―――
出来れば働きたいずっと帰りたくないって
思いますもの」
「パチャママちゃん、それと人間の姿になった
テンちゃん可愛かった……♪」
秘書風の女性二人がうっとりとした表情で語る。
ちなみに、そのあまりの可愛がり・溺愛っぷりに
鬼人族が引き、
パチャママさんの周囲は鬼人族三人組が
ガードを固め―――
テン君についてもリベラ所長から厳重注意が
下される事となった。
「でも意外だったのは、『神前戦闘』と
同じような文化があるって言ってた事だよね」
「鬼人族にも『スモー』という、神に捧げる
戦いがあるらしいのう」
「ピュウ」
相撲も元をたどれば神事だからなあ。
それに人と人外の力比べで相撲を取ると
いうのは、昔話の定番だし。
あと鬼人族の衣装や格好に感化されたのか、
忍者っぽいコスチュームをする『神前戦闘』の
選手が出てきて……
それがかなり人気を博している。
「あーでも、修羅場が予想されているので、
私たちその前に帰らないといけないん
ですよね」
「ですので梅干しと栗、あと桃をお土産に
お願いします!」
サシャさんとジェレミエルさんの声に、
「後でギルド支部に届けておくよー」
厨房からクレアージュさんの声が聞こえ、
それを聞いた二人はガッツポーズをした。
「ライシェ国に行くのは初めてだっけ?」
「そだねー。
ミマームさんがいる国」
「ピューウ?」
アルテリーゼの『乗客箱』の中で―――
私と、ラッチを抱いたメルが顔を見合わせる。
『帰る直前になって……
いったい何があったのかのう』
伝声管を通して、外からドラゴンの妻の声が
聞こえる。
サシャさんとジェレミエルさんが、
王都に帰る日―――
ワイバーンの定期便を待っていたのだが、
そこに臨時のワイバーンが飛び込んできた。
何でもライシェ国で、ランドルフ帝国の
兵士たちが行方不明になった、との事。
海沿いの国であるライシェ国とアイゼン王国は
帝国の軍船を預かり、また造船と操船技術を
兵士たちから教わっていたのだが、
その合同訓練で沖に出たまま、帰ってこない
船があるのだという。
「レイド君たちはついて来ている?」
『安心せい。
きちんと後方についておるわ』
今回、範囲索敵も必要になりそうとの事で、
レイド夫妻も愛騎『ハヤテ』に乗って、
共に同行していた。
ちなみに、ライダーとして乗っているわけでは
なく、ワイバーン用の少人数を乗せる、
コンテナのような箱に二人とも入っている。
「報告によると、ランドルフ帝国の軍船は
使っていないんですよね?」
同乗した使者兼案内役にその事について
たずねると、
「は、はい。万が一を考え帝国の軍船は
使用しておりません。
ですので、そのまま帝国に脱出したという
事も考えられないのですが……」
こう言っては何だが、こちら側の造船技術は
はっきり言って低い。
遠洋航海に耐えられるほどの船ではない事は、
帝国の、それも軍人なら理解しているはず。
「どのくらい帰って来ていないのですか?
それと天候は―――」
「3日ほどと聞いております。
また、天候も波も穏やかで、自然現象による
障害は考えられないとの事で。
魔物に出会ったとも噂されていますが、
それならば船の一部が流れ着くなどの
証拠が出るはずですので……
それも考えられない、と」
聞けば聞くほどミステリーな感じだなあ。
しかし、すでに兵士たちの返還を約束し、
その期日が迫ってきている中で―――
この状況は看過出来ない。
「とにかく、直接現場へとお願いします!
ライシェ国王からは緊急事態ゆえ、
救出に関する全面支援と、全て事後承諾で
動いていいとの許可を頂いておりますれば!」
すがるような使者の眼差しを受けて……
とにかく私たちとレイド夫妻は飛び続けた。
「あ、あなた方がウィンベル王国の
救援部隊ですか!
私はこの港の責任者で―――
レビン・カーシュといいます。
新設された海軍司令を務めております」
「ウィンベル王国から来ました冒険者、
レイドです。
ゴールドクラスで……
一応、範囲索敵を使えます」
「レイドの妻のミリアです。
よろしくお願いします」
まだ作られて間もないであろう建物の中、
アラフィフの、軍服に身をまとった中肉中背の
男性に、代表としてレイド夫妻が挨拶する。
緊急とはいえ、今回はウィンベル王国から
正規の軍人が派遣されていない。
さらにそこに、冒険者を寄越したともなれば
心証はかなり悪化する。
だがゴールドクラスに関しては別格であり、
軍が要請する場合もあるほどの貴重な人材。
冒険者と聞いて一瞬眉をひそめた彼も、
ゴールドクラス、それも範囲索敵が使えると
聞いて、
「おお、そうですか!
それはそれは……!」
と、破顔させる。
そこで私が話に加わり、
「さっそくですが、状況をお聞かせ願えますか?
どのような些細な事でも構いませんので」
「はい、実は……」
そこで私たちは、意外な事実を知らされた。
「釣り……ですか?」
「はあ、お恥ずかしながら―――
合同訓練と称してはおりますが、ここ最近は
実際のところ、船を使って釣りに出かけていた
ようなもので……
あの釣竿という魔導具が入って来てからと
いうもの、帝国兵も我が国の者も、ハマる
者が続出しましてね。
しかも釣った魚は美味しく調理出来ますし」
何でも、連日十隻ほどの船で釣りに出かけて
いたようで―――
そしてその全てが未帰還との事。
さらに、捜索に出た船もまた帰ってくる
事はなく、残っている船を出そうにも
怖がって乗員が集まらないという。
そこで私とレイド君他は考え込み、
「まあ……それだと脱走したっていう事は
あり得ないですね」
「となると、やはりどこかで事故にあったか、
座礁でもしたかという事に」
どう答えたらいいか困りながら話を続け、
「シンさん。
やはり一回飛んでみた方がいいんじゃ
ないッスかね?」
「そうですね。
とにかく救援を急いだ方が良さそうです。
普段、どこで釣りをしていたか―――
というのはわかりますか?」
「少々お待ちください!
軍の者を呼びますので……!」
そこで私たちは釣りをしていそうな場所を
大まかに聞いて―――
ひとまずレイド君に範囲索敵をかけて
もらう事にした。
「どうですか、レイド君」
『何かどうも、ゆっくり動いているみたいッス。
しかも沖に向かって』
あれからすぐアルテリーゼの『乗客箱』、
そしてレイド夫妻のワイバーン『ハヤテ』で
捜索を開始したところ、早い段階で彼の
範囲索敵に引っかかった。
そして彼の言う通り、ゆっくりと沖に向かって
進んでいるらしい。
操船不能にでもなったのだろうか?
『あと一時間もすれば追い付くはずッス。
この方向で飛行を続けてください!』
「わかりました」
外側に取り付けた伝声管で連絡を取り合いながら、
私たちは現場へと急いだ。
『うん? シン、あれは―――』
アルテリーゼの声に反応して下をのぞくと、
船の一団が見えた。
その甲板には、助けを求めるように手を振る
人たちの姿も見え、
『シンさん! 多分あれが行方不明になった
船団ッス!
乗っている人たちも無事みたいッスけど……』
『ううむ、何か海の様子がおかしいのう。
船団の周りが異様に黒いぞ?』
アルテリーゼの言う通り―――
船団の周囲の海面だけ、なぜか墨でも溶かした
ように黒い。
「ねー、シン。アルちゃん。
アレってワカメじゃない?」
一緒に下をのぞき込んでいたメルが、
その正体に言及する。
「海草……!?
あれが船団を捕まえているのか?
まさか―――」
『シンさん、何か心当たりでも?』
ミリアさんが不安そうに聞いてくる。
「故郷の話ですが、サルガッソーという海域が
あるんです。
船の墓場と呼ばれ、海草や藻類が船に
絡みついて動けなくなる、という伝承が
あります」
最も近年の研究では、海草などで航行不能になる
という事は、当時の船でも無かったらしい。
単にその海域では魚が少なかったので、
漁業としては不人気で誰も近付かなかった、
というのが真相のようなのだが。
しかし眼下にある光景はどう見ても、
海草が船をどこかへ連れて行こうと動いている、
としか見えず、
「あれ、海草や藻が動いて絡んでいるん
ですかね。魔力とかで」
『まあそうッスねえ。
ただ浮かんでいるだけなら、1隻もそこから
脱出出来ないのは妙ですし』
そこで私は伝声管を通して、外の妻に、
「アルテリーゼ。
船の近くを低空飛行してくれないか」
『わかったぞ、シン』
私の狙いを察したのか、彼女はゆっくりと
船の周囲を飛ぶようにして……
その間に私は小声で、
「魔力で動く、船に絡む海草や藻類など、
・・・・・
あり得ない」
そうつぶやき、『無効化』させてから―――
船団に近付いて、
『こちらは救援隊です!
皆さんの救出に来ました!
これから船に絡んでいる海草を攻撃します!
船が動いたらすぐに脱出してください!!』
と、外部に備えた拡声器でメルに伝えてもらう。
多分、今の状態でも船は動くだろうが、
私の能力をごまかさないといけないので、
ひと芝居うつ必要がある。
「アルテリーゼ、ハヤテさん。
適当に船の周囲に攻撃お願いします」
そう頼み、海面に火球を何度か撃ち込んで
もらった後、
『海草が怯んだようです!
今のうちに脱出してください!!』
そう拡声器で伝えた後、しばらく上空で
様子を見ていたが、
一隻、また一隻と反転していき……
やがて全ての船が航行可能になった事を
確認すると、
『では、進路そのままで。
私たちについてきてくださーい!』
メルの号令の下、船団はそれに従い動き始めた。