炎に包まれた病院から脱出した3人は、人気のない公園に辿り着いた。
2つあるベンチに一ノ瀬と皇后崎がそれぞれ座り、ようやく一息つく。
鳴海はと言えば、一ノ瀬が不機嫌モードに突入するのをスルーし、治療のため皇后崎の右隣に腰を下ろすのだった。
「腕パンパン。男に肩貸すとか最悪だぜ。」
「別に頼んでねぇけどな。」
「お前本当むかつくな。」
「ふん。」
「無事に出て来れたんだから少しは仲良くしな?迅ちゃん、痛いとこある?」
「(頭はまだボーっとしてっけど…)いや、大丈夫だ。」
「なら良かった!じゃあもう少しだけ血入れ替えとこう。まだ少し変な感じするんじゃない?」
「! ……あぁ。」
言わずとも自分の不調を見抜く鳴海に、皇后崎は改めて彼のすごさを実感する。
先程と同様に手を出せば、その手をギュっと握り締めて血を送り込む鳴海。
歩いてる時に感じた胸のざわめきが再び皇后崎を襲い、彼は鳴海から視線を外せずにいた。
「…ん?どうしたの?」
「…別に。」
「えーなになに?気になる🥺」
「…何かそっちいい雰囲気でヤダ!俺も鳴海に治療して欲しい!」
「それだけ叫べるなら大丈夫デショ。安静にしててくださ~い。」
傍から見れば年の差カップルが手を繋いでいるようにしか見えないため、一ノ瀬が騒ぎ出すのも無理はない。
鳴海に軽く受け流され、彼は分かりやすく不貞腐れた。
そんな状態が1~2分続いた後、一ノ瀬はようやく気持ちを切り替えて皇后崎へと声をかける。
「大体あの子なんなんだ?手貸したんだから教えろよ。」
「俺も気になってた。もしかして知り合いだったりする?」
「いや、違う。あの子は…」
「どした?」
「病院に火を点けたのは、俺を拉致った桃で間違いない…でもなんで燃やした?俺を拉致るために人質にされた…人質なら殺しちゃダメだろ。念のための口封じ?まだ利用価値はあるはずなのに…」
「? どーゆうことだ?」
「他に都合のいい人質が見つかったとか?(うーん…うちの部隊からそういうのは聞いてないしな)」
「それはあるな。あの女の子には妹がいた…もしかして妹の方を人質に…?」
「でもなんで人質なんかとるんだよ?」
「四季、お前だよ。あの桃はお前目当てだ。お前を殺すための交渉材料にする気なんじゃ。」
「四季ちゃんが鬼神の子だからかな…」
新鮮な血が体内を巡ることで、少しずつ脳が活性化してきた皇后崎。
鳴海や一ノ瀬との会話を通して、自分の考えを整理していく。
と、ポツリと言葉を漏らした鳴海に反応しようとした皇后崎は、もう1つの可能性に行き当たる。
「…お前もか。」
「へ?何が?」
「四季とお前が仲間だっていうのはもう知られてるはずだ。だとしたら、一緒に手に入れようと考えても不思議じゃねぇ。」
「まさか~!そんなわけ…」
「能力がバレたら狙われるんだろ?京都の一件で、桃側が本格的に動き始めてるかもしれない。」
「確かに、無人くんにも細心の注意を払えとは言われたけど…」
「おい!俺を置いてくなって!何で鳴海の能力が桃に狙われんだよ?」
「俺もそれは聞きたかった。何でだ?」
「俺、ちょっと家系がややこしくてね…どっちも引き継いでる俺の桃太郎の能力は、鬼だけじゃなくて桃太郎も治せるんだ」
「「!」」
驚きの表情を見せる一ノ瀬と皇后崎に、鳴海は以前無陀野が話してくれたことを伝える。
治癒能力がない桃にとって、彼の力は喉から手が出るほど欲しいものなのだと。
それが分かっている上での体術を極め能力を極力使わないように生きてきた。
そしてそうした理由から、大っぴらに能力を使うことが禁じられているのだ。
鳴海の言葉を珍しく静かに聞いていた同期コンビは、彼の話が終わると揃って黙り込む。
「…とまぁこんな感じ。話してて、我ながら危ないな~って思うよ。体術の方も気を付けないと殺しちゃいそうだからさ…」
「「…」」
「あれ、2人とも聞いてた?反応ないと気まず「大丈夫!」
「四季ちゃん…?」
「俺が鳴海のこと守る!一緒に祭り行った時みたいに、俺が絶対傍にいるから。だから鳴海は笑ってて!」
「! うん。ありがとう!」
「へへっ。てことで、俺の治療して!」
「治療するところないって言ってるでしょ!」
自分を挟んでやり取りを交わす2人の間で、皇后崎は変わらず沈黙のまま。
何か言いたそうな顔で、チラッと鳴海の方へ目をやる彼の様子は、誰にも気づかれることはなかった。
それから頭を切り替えた皇后崎は、再び姉妹のことへ話題を移す。
交渉材料として使われる可能性がある以上、放っておくわけにはいかない。
「まだ疑問はあるけど…妹が危ないかもしれない。けど妹の居場所なんて知らねぇだろ?」
「偵察部隊に頼もうぜ!」
「偵察部隊かぁ…んーそれは厳しいかも。」
「だろうな。俺が病院行く時も止めたくらいだ。妹が危ない”かもしれない”なんて曖昧な情報じゃ動かない。どーにか自分たちで捜さないと。」
「アホかよ?人捜しとか簡単じゃ…あ!ふっふっふ…おい!四季様と呼べ!」
「なんだよ気持ち悪い。」
「いいアイデア浮かんだの?」
「おぅ!見つけられる奴に心当たりがある!」
「何!?誰だ?」
「お巡りさん!」
「死ねボケカス野郎。」
「んだとテメェ!」
「ポリに言って動くわけないだろう?本当に頭わりぃな。」
「そりゃ普通のポリ公ならな。鳴海も知ってる奴だぜ!」
「え?……あ、まさか!」
鳴海と一ノ瀬の頭に浮かんだのは、昨日出会った好青年。
自らの職業を警察だと語った彼は、普通の警察官とは違う雰囲気を纏っていた。
彼なら何かしら力になってくれる…一ノ瀬はそう信じていた。
連絡先を交換した四季が、早速スマホを操作する。
「四季ちゃん、名前だけ気をつけてね。」
「そうだった!サンキュ。……あ、神門?」
《もしもし、ナツ君?》
「神門にさ、頼みたいことあんだけど…」
《頼み?何?》
「人を捜して欲しくて。」
《え?何?聞こえないけど。サイレン鳴ってるけど、どこにいるの?外?》
そうしてしばらく神門とやり取りをする一ノ瀬。
鳴海と皇后崎に見守られながら会話を進める彼だったが、不意に空を見上げて手を上に向ける。
それは誰が見ても、雨が降っているかを確認する仕草だった。
“やーっぱり。深夜くん傍にいるな…”
謎の行動を見て犯人が誰か当てた鳴海を他所に、やり取りをは良い方へ進み…
「……捜してくれるって!連絡待ちだ。」
「(深夜くんの能力は欲しいけど無理に取るのもな…)良かった!ありがとう、四季ちゃん!」
「おう!皇后崎、四季様ありがとうございますが聞こえんぞー?」
「昔世話になったポリ公か?面が犯罪だもんな、お前。」
「鳴海~こいつ殺していい~?」
「ダメで~す。」
鳴海のその言葉を最後に、辺りは一気に静寂に包まれる。
連絡待ちということで、特段やる事もない。
一ノ瀬はこの状況に、1人頭を抱えるのだった。
「(いや、気まずい…!皇后崎と喋ることなんかねぇよクソ!あぁぁこの沈黙無理ぃいい…鳴海と2人でコンビニでも行こっかな…)あ!さっき聞きそびれたけど、なんであの女の子気にかけるんだ?」
「そういえば、そうだった。」
「…」
「俺が助けたのと鳴海の治療の貸し、これでチャラにしてやっから教えろよ。」
「…面白くもねー話だよ。俺にも姉がいる…いや…正確には”いた”…だ。前にも聞いたろ?俺の親父は桃太郎だ。その親父が殺した…母も姉も。あいつは家族よりも、桃太郎としての使命を選んだ。どうしようもねぇクソ野郎だ。」
“まずはそっから話さねぇといけない話だ”
皇后崎はそう言って、自分のことを静かに話し始めた。
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