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「親分猫様、守恵子《もりえこ》は、どうすればよろしいのでしょう?私は、大納言家の娘、当然、入内するものと、周囲の期待もあります。しかしながら、その、苦労をさせまいと、皆が、手を尽くしてくれている。私は、私は、皆に迷惑をかけたくないのです。自分の役割を、果たしたい、でも……私は、何も出来ないから……」


そこまで、言って、守恵子は声を震わせた。


つっと、涙が、張りのある白い頬を伝っている。


「うーむ、難しい問題ですなぁ」


守恵子の脇にうずくまる、親分猫が言う。


「はい、難しい問題です……それに……」


「それに?」


「なにやら、父上達が、今回の騒ぎに関係あるようで……それは、結局、宮中に、答えがあるような……」


「ほお、大納言様が、悪人だと……」


親分猫に、守近を悪人呼ばわりされて、守恵子は、言葉が出ない。


父は、何かに関わっている。立ち聞きしてしまった話だけでは、よくわからないが、それを、暴いてしまってよいのか、守恵子は、今更ながら戸惑った。


「ああ、ですから……私は、どうすればよいのか。猫施薬院《ねこせやくいん》など、言葉のあや。私は、猫達を使って、いい顔を売りたかっただけなのです。きっと。それは、父上のことから、逃る為、なのかもしれないし、入内から、逃る為かもしれないし……」


言って、守恵子は、わっと、泣き崩れた。胸の内にある不安を吐き出すかのように、ひどく、乱れていた。


「守恵子様?本当は、上野様と一緒に居られなくなるかもしれないと、それで、つい、お心が乱れたのでは?入内するとしても、上野様がいる。大納言様の秘密を暴いてしまっても、上野様がいる。そう、いつも、頼りになる、紗奈姉様《さなねぇさま》が、側にいたから、守恵子様は、安心でき、いやー、恐いもの無しか。しかし、国元へ、帰られるとお聞きになって、どうすれば良いのか、わからなくなった。そうではないのですか?」


親分猫は、守恵子を、じっと見ている。


「あ……私……」


ニャー、と鳴くと親分猫は、釣り殿から飛び降り、とことこと、裏方へ向かった。


「おお!そうじゃ」


立ち止まり、振り返った親分猫は、守恵子へ、


「猫は、猫小屋でもお作りなされませ。牛小屋の脇に作って、生き物を集めておくと、髭モジャ殿も、世話がしやすい。小屋は、鍾馗《しょうき》殿にでも頼めばよいでしょう」


ほほほ、と、好好爺《こうこうじい》さながら笑い、姿を消した。


そして。縁の下では。


「晴康《はるやす》様、髭モジャ様や、鍾馗様を、使いすぎじゃないですか?」


「いや、だってね、タマ、結局、世話事は、髭モジャにかかってしまう訳だから、初めから、髭モジャが、動きやすいようにしておいてやるのが、親切ってもんなんだよ」


「えー?!すごく、強引に聞こえますけど?!」


しっ、声が大きいよ、と、晴康と呼ばれている童子は、タマを抱き上げ、そっと縁の下から這い出した。


「じゃー、皆のところへ戻ろうか」


「それは、いいんですけど、うーん、それはそれで、また、混乱しそうだなあー」


「じゃ、親分猫、行きましょうか」


童子は、親分猫へ声をかけた。


「そうですなぁ、橘様が、いらっしゃるので、どうにかなるでしょう」


一瞬の間が過ぎた後、


「お、親分猫様、喋った?!喋れるんですかっ?!えっ、えっーーー??!」


驚くタマに、ほほほ、と、笑いかけると、親分猫は、すたすたと歩んで行った。


「えー、えー、タマ聞いてないよー!そんなこと!!」


「しっ!タマ、声が大きいって!!」


童子に制され、タマは、あたふたしつつ、なんで、なんでー、と、言い続けている。


「いけない、守恵子様が、気づいたかも!行くよ!」


童子は走り、守恵子に姿を見せないように、その場を離れた。抱き抱えられたままのタマは、その腕の中で、相変わらず、驚きの声を上げていた。

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