コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
むむむ、と、髭モジャが、顔を歪めた。
市で、食材をしこたま買い込み、背負い篭《かご》を、前後に担ぎ、引く馬にも、これでもかと、荷をくくりつけている。そして、その後を、崇高《むねたか》が、これまた荷物満載の荷車を引いてついて来ていた。
「うーん、何やら、呼ばれたような、仕事を頼まれるような、気がするのじゃが?」
「なに?!髭モジャよっ!こ、これ以上、まだ、動くのかっ!?」
崇高は、荷物山積みの、荷車をひいーひいー言いながら引いている。
「はあー!まさか、御屋敷勤めが、この様に過酷なものとは思うてもみなんだわ!髭モジャよ!お前、よく、平気だな!」
「いや、崇高よ、これは、特別ぞ。毎日が、これでは、流石にワシも身が持たん、じゃが、思えば、宴の準備、節目節目の、行事、急な来客の場合やら、あー、そうじゃなあー、わりと、毎日が、これに近いかもしれん。いやー、確かに、大変じゃわ」
「いやいや、お前、何、他人事の様に言っておる!」
「おお?そうか?」
崇高へ答える髭モジャの足が止まった。
そして、次の瞬間、馬を引き連れ駆け出していた。
「な、何ごとぞ?!」
崇高の制止のような呆れのような言葉を振り切って、髭モジャは、つい先へ、移動していた。
一台の、牛車《くるま》が、立ち往生している。
そして、通行の妨げと、行き交う者達には、邪険にされつつ、何事ぞと、人だかりか出来ていた。
「ああ、これはまた。しかし、よそ様の家の事にまで首を突っ込むとは、髭モジャらしいわ」
やれやれと、息をつき、崇高は、荷車を引いて、髭モジャの後を追った。
「守満《もりみつ》様!いかがなされました?!」
大路に、髭モジャの声が響く。
「はて、なるほど、守満様が。何故に、牛車と共に?というよりも、髭モジャ、あいつ、この距離で、よく、気が付いたなあ」
はあはあ、息を荒げて、崇高は、荷車を引き、向かって行くが……。
「ん?!ちょっと、待て!!守満様?!と、いうよりも、何故に、何故に!女童子殿にあの様に迫りながら、何故だっっ!!!」
ぐぬぬぬぬーーー!!!と、怒りの形相を浮かべた崇高は、力任せに荷車を引き、髭モジャの元へ急いだ。
立ち往生している、牛車は、女車。つまり、女人が乗る物。そして、その、脇に、守満がいる。
「あやつめ、うまいことぬかしおって!女童子殿を、もて遊ぶつもりかっ!!少将だかなんだか、知らぬが、許せぬわ!!!」
髭モジャーーー!!!
と、崇高は、叫んだ。
「おっ!守満様も、常春《つねはる》殿も、加勢が来ましたぞ!」
「ああ、崇高殿が……い、いや、まずいぞ、髭モジャ殿!」
髭モジャに示されて、常春は、荷車を引く崇高を見つけた。
その顔つきときたら……鬼のような、を、越えて、鬼になっている。
「あー、紗奈《さな》の一件が、尾を引いてます」
「ありゃ、恋敵の鉢合わせか」
常春、髭モジャは、牛飼いに何か命じている守満へ視線を移す。
「おお!髭モジャではないか!助かった!」
守満は、加勢に気がつき、ほっとしている。
「待たれい!!」
崇高が、息も絶え絶えで、しかし、ここは決め所とばかりに、声を振り絞っていた。
「おお!崇高殿も、一緒か!」
守満は、さらに人手ができたと喜んでいるが、崇高の心中は、それどころではなかった。
「守満様とやらっ!そなた、この様な女人がおりながら、女童子殿へもちょっかいを出して、どのようなお心づもりかっ!」
「どのようなと言っても……お困りのようだから、手を貸しているのだが?」
むむむ、と、崇高は、唸る。そして、その顔は、真っ赤になった。
「あーー!崇高殿!!大路で、牛車が、立ち往生、どうぞ、検非違使として、この野次馬をなんとかしてください!!これでは、動かせる物も、動かせませぬ!!」
常春が、崇高の気をそらそうと、必死になるが、当の守満は、髭モジャを加え、牛車《くるま》の、お供、牛飼い達と話し込み始める。
「やはり、髭モジャ、お前もそう思うか」
「はい、どうやら、車輪の車軸に、緩みが出来ているようですなぁー、守満様、これは、新たな牛車を用意するのが、一番では?」
髭モジャの言葉を受けて、守満は、牛飼い達へ、屋敷へ使いを出すようにと、勧めた。
「常春殿、あれは、あれは!女人の牛車に、ちょっかいを出してっ!!!」
崇高は、まだ、いや、守満がいる以上、興奮覚めやらずのようで、肩を怒らせている。
「いや、ですから、これは、たまたま、でしてね」
「たまたま、の、おなごにまで、手をだすのかっ!あやつわぁぁっ!!」
崇高の勘違いは、収まりを見せず。常春は、困り果てた。