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 結論から言えば、箒の乗り心地は最悪だった。

 空を飛んでいる間中、絶えず真帆の髪が顔に当たってちくちくする、やらなくても良いアクロバット飛行をしてみせる、そうでなくとも運転が荒い。身体を上下左右前後ろに揺すぶられ続けるので天地の感覚が麻痺して胃の中身が喉元まで上がってきた。学校に着くまで耐え抜いた自分を誰か褒めて欲しい。

 逆にアリスさんの運転は予想通りというか想像通りというか、安心安全安定だったらしく、飛んでいる間は自身の髪が乱れないように、魔法か何かを使ってしっかり押さえていたようだ。

 榎先輩は空から見下ろす街並みを堪能したらしいが、真帆の荒っぽい運転のせいで僕は真帆の体にしがみついたままギュッと目を閉じて、ただひたすらに落ちないよう願うことしかできなかった。

 学校に着くなり生垣の隅で嘔吐する僕を見ながら、

「ひ弱だなー」

 と口にする真帆。

 こいつ、マジで許せん。

 そんな僕の背中を優しくさすりながら、

「大丈夫?」

 と声をかけてくれるアリスさんの姿はまるで女神様のように僕には見えた。

 僕もう、このまま真帆なんかと別れてアリスさんとお付き合いしたい……

 ちなみに榎先輩はそんな僕など気にする様子もなく、

「さて、どこから調べる? 校内、校庭、グラウンドはこの一年ちょっとで一通り調べはしたけど、見落としがあるかもしれない」

 と何とも冷静な態度で真帆に言った。

 胃の中のものをあらかた吐き出し、落ち着いたところで、

「とりあえず、二手に分かれてみます? 片方は見落としがないか調べるチーム、もう片方はまだ調べていないところを調べるチーム」

 真帆がそう提案する。

 榎先輩もアリスさんも「じゃぁ、それでいってみよう」と頷いて、

「あ、でもその前にちゃんと学校側に知らせておかないと。私、部外者だもの」

 そう口にしたアリスさんに、真帆は、

「いいじゃないですか、そんなの気にしなくても」

 と口を尖らせた。

 けれどアリスさんは首を横に振り、

「ダメよ、真帆ちゃん。こういうのちゃんとしとかないと」

 諭すように真帆に答え、僕らは一度事務室へ向かうことになった。

 ところが日曜日ということもあってか、事務室には人がおらず、

「ほら、誰もいませんよ! このままいきましょう!」

 とグラウンドを指さす真帆。

 それを尻目にアリスさんは、

「職員室はこっちね」

 とひとりすたすた職員室の方へ行ってしまった。

 僕も榎先輩もアリスさんの追うその後ろで、

「――もう、いちいち細かいなぁ」

 真帆は小さく呟いた。

 それから四人して職員室まで行くと、

「失礼しまーす」

 ドアを叩かずいきなりガラリと開け放つ真帆。

 それに続いて、僕たちはぞろぞろと職員室の中に足を踏み入れた。

 すると、

「なんだ、今日も来たのか」

 自分の席でパソコンと睨みあっていた井口先生が、気怠げに顔を上げた。

 けれどすぐにアリスさんの姿に気づいて居住まいを正し、

「――あぁ。楾さん」

 椅子から腰を上げ、僕たちの方にやってくる。

「こんにちは、井口さん」

 アリスさんはぺこりと深くお辞儀した。

「やっぱり、知り合いなんですね」

 と訊ねる僕に、先生は、

「まぁな。このあたりに住んでいる全魔協所属の魔法使いや魔女はだいたい顔見知りだからな」

「ぜ、ゼンマ……なんすか、それ」

「全魔協。全国魔法遣協会。日本中の魔法使いや魔女が所属している団体だな。解り易く説明すると、魔法を必要としている人からの依頼をまとめて、それを得意としている魔法使いたちに振り分けていったりしている団体さ」

 それはそれとして、と井口先生は一緒にいる榎先輩に顔を向けて、

「――えっと、君は、二年生、だよな。すまん、名前は?」

「榎夏希です。二年C組なので、たぶん先生には受け持ってもらったことはないと思います」

「あぁ、だからか」

 と井口先生はハハハっと笑い、

「……で? こいつらとは、どういう関係?」

 そこで真帆は「ああっ!」と口にして両手を打ち、

「井口先生に言うの忘れてました。なっちゃん――榎先輩、魔女でした。グラウンドの魔法陣を描いたの、榎先輩です」

 その言葉に、井口先生は真帆と榎先輩を何度も交互に見つめた後、大きなため息を一つ吐いて、

「……なんで早く言ってくれないの? 俺、今日もその調査の為だけに出勤してきたんだけど……?」

 心底ショックを受けたように、項垂れた。

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