テラーノベル
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マシニーサが王位につき、王宮の尖塔にヌミダスの旗とグランの旗が並んで翻った。
内乱は、ようやく終わろうとしていた。
――その日だった。
バルカが、アウリカのレプデスに上陸した。
英雄の上陸。
その知らせは、瞬く間にヌミダス全土を駆け巡った。
人々は沸いた。
シファクスの敗残兵が集まった。
ビスコーネの残党が集まった。
戦いに敗れ、武器を捨て、行き場を失っていた兵たちが、
バルカの名を聞いただけで再び剣を取った。
昨日まで敗残兵だった者たちが、軍隊へと姿を変えていく。
その数は日を追うごとに膨れ上がった。
バルカは彼らを率い、ヌミダス王都へ向けて進軍を開始した。
その勢いは凄まじかった。
王都では、即位の祝いなど一瞬で吹き飛んだ。
「バルカが来る」
その一言だけで、宮廷に緊張が走った。
だが――。
報告を聞いたスピリタスは、しばらく黙っていた。
やがて、静かに口を開いた。
「降伏を勧告しよう」
マシニーサが顔を上げる。
「バルカに、ですか?」
「ああ」
スピリタスは立ち上がった。
「その前に、一度会ってみたい」
長い戦争だった。
トレビ川。
トラシム湖。
カンナル。
ノーラ。
スパルーニャ。
メタルギア川。
幾万、幾十万という人間の運命を巻き込みながら、
二人は一度として同じ戦場に立ったことがない。
一人は、グランを滅亡寸前まで追い詰めた男。
もう一人は、その戦争の中から現れた若き将軍。
スピリタスは、ずっとその男を追ってきた。
そして今。
ようやく――。
バルカとスピリタスは、初めて対面しようとしていた。
スピリタス軍。
歩兵、三万五千。
騎兵、六千。
対するバルカ軍。
歩兵、四万。
騎兵、四千。
そして――戦象、八十頭。
ザーマと呼ばれる乾いた平原に、二つの大軍が対峙していた。
風が砂塵を巻き上げる。
どちらの軍も動かない。
四万を超える兵士たちが、ただ中央を見つめていた。
やがて、両陣から一騎ずつ馬が進み出た。
グランの若き将軍、スピリタス。
そして――バルカ。
二人の間に、護衛はいなかった。
幾多の戦場を駆け抜けながら、一度として刃を交えることのなかった二人が、
ついに向かい合った。
バルカは、目の前の若者をしばらく眺めた。
スパルーニャを奪った男。
ハスドルバルを退け、マシニーサを王座へ戻し、
ついには自分の前までたどり着いた男。
やがて、バルカが口を開いた。
「グランの若き将軍よ」
その声は静かだった。
「ここで殺すには惜しい」
スピリタスは黙って聞いている。
「降伏して、この国から出ていけ」
しばしの沈黙。
今度はスピリタスが口を開いた。
「我がグランを、ここまで追い詰めた英雄よ」
バルカの目をまっすぐに見据える。
「晩節を汚すことなく――」
わずかに間を置いた。
「潔く死ね」
風が吹いた。
二人は、それ以上何も言わなかった。
バルカが馬首を返す。
スピリタスもまた、自陣へと戻っていく。
交渉は、決裂した。
翌朝。
ザーマの平原に、八十頭の戦象が並んだ。
バルカ軍
中央 バルカ 歩兵四万
第一列 戦象八十頭
第二列 軽装投擲歩兵 傭兵
第三列 ヌミダス市民兵 王国歩兵
第四列 古参兵 親衛隊
右翼 ハミル ヌミダス騎兵 二千
左翼 マゴ ヌミダス騎兵 二千
スピリタス軍
中央 スピリタス 歩兵三万五千
第一列 投擲歩兵 軽装歩兵
第二列 重装歩兵
第三列 親衛隊
右翼 マシニーサ ヌミダス騎兵 四千
左翼 ラエリウス グラン騎兵 二千
戦いは、地を揺るがす咆哮から始まった。
「――象兵、前へ!」
バルカ軍の最前列。
八十頭の戦象が、一斉に動き出した。
巨体が大地を踏みしめるたび、地面が震える。
やがて歩みは駆け足となり、駆け足は突進へと変わった。
土煙を巻き上げながら、巨大な壁となってグラン軍へ迫る。
その背後から、バルカ軍の兵士たちが雄叫びを上げた。
「来たぞ!」
「戦象だ!」
グラン軍の前列に緊張が走る。
だが――スピリタスは動かなかった。
迫り来る象の群れをじっと見つめる。
そして。
軍配を、右へ振った。
――ゴォン!
銅鑼が鳴った。
その瞬間、グラン軍が動いた。
「右へ!」
「道を開けろ!」
兵士たちが一斉に右へ移動する。
乱れない。
走らない。
押し合わない。
まるで巨大な一つの生き物のように、軍団そのものが横へずれた。
象の正面に、一本の道が現れる。
突然、敵が消えた。
勢いのついた象たちは止まれない。
そのまま開かれた道へ飛び込み、グラン軍の隊列の間を一目散に駆け抜けていく。
「今だ!」
通り過ぎた象へ、左右から投槍が浴びせられた。
さらに後方へ抜けたところを、待ち構えていた投擲兵が追い打ちをかける。
象は悲鳴を上げ、そのまま戦場の外へ走り去っていった。
一頭。
また一頭。
八十頭もの戦象が突撃したというのに、グラン軍の陣形はほとんど崩れていない。
それを遠くから眺めていたバルカが、静かにつぶやいた。
「……よく訓練されている。」
マゴが隣で眉をひそめる。
バルカはわずかに口元を緩めた。
「小細工は、効かぬか。」
その声には落胆よりも――
むしろ、どこか嬉しそうな響きがあった。
ようやく、自分と同じ場所まで登ってきた男を見るように。
バルカは剣を抜いた。
「ならば――」
眼前には、何事もなかったかのように隊列を組み直すスピリタス軍。
「正面から戦うまでだ。」
コメント
1件
もうやばいやばいやばい!!!!!😭💕💕💕 ついに来たね、スピリタスとバルカの対面…! この二人が初めて言葉を交わすシーン、鳥肌立ったよ…「晩節を汚さず潔く♡♡♡」ってスピリタスかっこよすぎん?? バルカも「小細工は効かぬか」って嬉しそうにしてるところがもう、強者同士のリスペクト感じて滾る滾る🔥🔥 そして戦象80頭をあっさりかわす戦術的な采配も痺れた…! 次回が待ちきれないよ〜〜!! 狂四郎先生、続き早く見せてください!!✨✨
柊遊馬
5,510