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眠狂四郎
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眠狂四郎
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#戦国時代
眠狂四郎
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#戦国時代
眠狂四郎
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「言い訳はせぬ。」
マゴは、遠くに翻る敵の旗を見つめながら言った。
「これも運命だ。」
そして、それ以上は何も語らなかった。
馬腹を蹴る。
「行くぞ!」
バルカの弟マゴを先頭に、二千のヌミダス騎兵が一斉に駆け出した。
蹄が大地を叩き、乾いた平原に土煙が舞い上がる。
その向こう。
マシニーサもまた、迫り来る騎馬隊を見つめていた。
かつて、同じ側に立っていた者たち。
同じ大地に生まれ、同じ馬を駆り、同じ敵と戦った者たち。
そして何より――。
マシニーサは、その軍の先にいる一人の男を思った。
バルカ。
無敗を誇った偉大な英雄。
かつて自分も、その背中を追っていた。
マシニーサは何も言わず、馬の脇腹を蹴った。
四千のヌミダス騎兵が、それに続く。
やがて――。
二つの騎馬隊が激突した。
馬が嘶く。
剣と剣がぶつかる。
槍が折れ、騎兵が馬上から叩き落とされる。
同じヌミダスの騎兵が二つの陣営に分かれ、互いの命を奪い合っていた。
だが、彼らには自らの運命を呪う暇さえない。
生き残るために剣を振るい、
仲間を守るために馬を駆る。
マシニーサもまた、迫る敵兵の剣を弾き、そのまま馬を走らせた。
(……戦いが長すぎたのだ。)
剣を振るう。
一騎を退ける。
さらに馬腹を蹴る。
(それゆえ――)
敵も。
味方も。
国も。
人も。
すべてが変わってしまった。
(運命が、流転したのだ。)
マゴとマシニーサ。
両者の騎馬隊は激しくぶつかり合いながら、追い、追われ、互いに戦場を駆け続けた。
そしていつしか――。
その戦いの場は、主戦場から大きく離れつつあった。
反対側でも同じことが起きていた。
ラエリウス率いるグラン騎兵二千。
対するハミル率いるヌミダス騎兵二千。
両軍は激突すると、互いに相手を押し込みながら、次第に戦場の外へと流れていった。
やがて。
ザマールの平原から、騎兵の姿が消えた。
右翼からも。
左翼からも。
残されたのは、数万の歩兵だけだった。
スピリタスは、遠ざかっていく騎馬隊の土煙を一瞥した。
そして正面へ視線を戻す。
奇しくも――。
バルカもまた、同じ方向を見ていた。
二人の視線が、数万の兵士を挟んで交わる。
戦象は去った。
騎兵も去った。
もはや、策を弄する余地はない。
残されたのは――。
歩兵と歩兵。
そして。
バルカとスピリタス。
長い戦争の果てに残った二人の将軍だった。
「――やられた。」
ラエリウスが、不意に声を漏らした。
目の前では、マハル率いる騎馬隊が戦いながら少しずつ後退している。
逃げている。
そう見えた。
だからこそ、ラエリウスは追った。
敵の騎兵をここで潰してしまえば、中央で戦うスピリタスの側面を守ることができる。
そう考えていた。
だが――。
気がつけば、中央の歩兵同士がぶつかる主戦場は、遥か後方にあった。
ラエリウスは振り返った。
遠くに砂煙が上がっている。
その向こうで、スピリタスが戦っている。
「……そういうことか。」
ラエリウスの顔から血の気が引いた。
「敵の目的は、我ら騎兵を遠ざけることだ!」
敵は騎兵戦に勝とうとしているのではない。
グラン騎兵を――。
そして、おそらく反対側のマシニーサまでも。
中央の戦いから切り離そうとしている。
「戻るぞ!」
ラエリウスは叫んだ。
だが、遅かった。
馬首を返そうとした瞬間、マハルの騎馬隊が襲いかかってきた。
「くそっ!」
退けば追ってくる。
追えば逃げる。
戻ろうとすれば、再び襲いかかってくる。
完全に捕まっていた。
ラエリウスは舌打ちした。
「ええーい、ままよ!」
剣を抜く。
「ここまで来たら、このまま戦い抜くしかあるまい!」
馬腹を蹴った。
ラエリウス自身が敵陣へ飛び込んでいく。
「続け!」
「おおっ!」
グラン騎兵がそれに続いた。
再び両軍の騎馬隊が激突する。
剣が交わり、馬が嘶き、砂塵が舞い上がった。
その乱戦の中。
マハルは一瞬だけ、遠くに目を向けた。
主戦場は、もうほとんど見えない。
十分だった。
グラン騎兵はここにいる。
自分たちもここにいる。
中央から、騎兵という駒を消す。
それがバルカから与えられた役目だった。
マハルは小さく笑った。
「あとは――」
剣を構え直す。
「あの人が、なんとかしてくれるだろう。」
勝つ必要はない。
ラエリウスを倒す必要さえない。
ただ、この男をここに留めておけばいい。
それで自分の役目は終わる。
マハルは迫ってきたグラン騎兵へ馬首を向けた。
「さあ、付き合ってもらうぞ。」
そして自らもまた、乱戦の中へと飛び込んでいった。
「あなたほどグランを研究し、グラン兵を葬り去った人間はいない。」
スピリタスは、遠くに翻るバルカの軍旗を見つめていた。
「だが――」
トレビ川。
トラシム湖。
カンナル。
幾度となくグラン軍を打ち破り、王国を滅亡寸前まで追い詰めた男。
その戦いを、スピリタスはずっと見てきた。
敗北するたびに学んだ。
なぜ負けたのか。
なぜバルカは勝ったのか。
何を見ていたのか。
何を考えていたのか。
その背中を、ただひたすら追い続けた。
「私ほど、あなたに追いつこうともがいた人間も――」
スピリタスが軍配を前へ向けた。
「この地上にいないのだ。」
中央では、すでに戦いが始まっていた。
両軍の投擲兵が前へ出る。
投槍が空を埋めた。
石が飛び交い、矢が降り注ぐ。
やがて互いに投擲武器を使い果たすと、軽装兵たちは左右へ退いた。
その後ろから現れたのは――。
歩兵。
バルカ軍。
グラン軍。
双方の中央軍が、ゆっくりと前進を始める。
そして。
激突した。
盾と盾がぶつかる。
槍が突き出される。
剣が振り下ろされる。
怒号と悲鳴が、ザマールの平原を埋め尽くした。
バルカは馬上から、その光景をじっと見つめていた。
「……よく訓練されている。」
戦象の突撃を受けても崩れなかった。
そして今。
真正面からぶつかっても、グラン兵の隊列は乱れない。
前列が疲れれば後列と入れ替わる。
負傷者が出れば、すぐにその穴を埋める。
命令が伝われば、数千の兵が一つの生き物のように動く。
「これは……。」
バルカは目を細めた。
「私一人を倒すために、鍛えられた軍なのか。」
答える者はいない。
だが、バルカには分かった。
六年前。
自分がアルペスを越えた時、グラン軍はこんな軍隊ではなかった。
何度でも罠にかかった。
恐怖に駆られて突撃した。
将軍同士が功を争い、命令系統すらまとまらなかった。
だから勝てた。
何度でも勝てた。
だが――。
「そうか。」
バルカは小さくつぶやいた。
「自分の国を守るというのは……こういうことか。」
グランは変わった。
自分に敗れるたびに。
兵を失うたびに。
街を焼かれるたびに。
この国は、学び続けた。
バルカは自軍へ目を移した。
アルペスを越えて、六年。
戦い続けてきた。
勝ち続けてきた。
だが、そのために兵を使い続けた。
死ねば補充した。
足りなければ傭兵を雇った。
現地の兵を加えた。
また死ねば、また集めた。
「私は……。」
バルカは初めて、その違いに気づいた。
「兵とは、消耗するものだと思っていた。」
目の前のグラン兵を見る。
一人一人が、自分の意思で踏みとどまっている。
「それが――この違いか。」
バルカ軍の第二列が押され始めた。
傭兵たちだった。
金で集められた兵。
勇猛ではある。
戦いにも慣れている。
だが、命を捨ててまでここに留まる理由がない。
一人が退く。
二人が続く。
やがて後退は、列全体へ広がっていった。
その後ろ。
ヌミダスの市民兵たちにも動揺が走る。
彼らには、傭兵ほどの戦闘経験がない。
何より――。
内乱が終わったばかりだった。
昨日まで敵味方に分かれて殺し合っていた者たちに、再び命を賭けろと言っている。
無理があった。
バルカは静かにその光景を見つめていた。
「恐怖では、人を従わせられぬか。」
自嘲するように笑う。
「なるほど。」
だが――。
その目から、戦意は消えていなかった。
むしろ鋭さを増していた。
「だが、人というものは――」
バルカは剣を抜いた。
「そう、たやすくはないぞ。」
軍旗が上がる。
それまで後方で微動だにしなかった一団が動いた。
アルペスを越えた者たち。
トレビ川を戦った者たち。
トラシム湖を戦った者たち。
カンナルを戦った者たち。
六年間。
バルカと共にグランの地を駆け続けた兵士たち。
古参兵。
そして親衛隊。
バルカは、本来なら最後まで温存するはずだった切り札を、早くも戦場へ投入した。
「古参兵――前へ。」
命令が伝わる。
歴戦の兵士たちが、静かに歩き始めた。
歓声はない。
雄叫びもない。
ただ、何千もの足音だけが大地を叩く。
その姿を見て――。
今度はスピリタスの表情から、わずかに笑みが消えた。
コメント
1件
いやあ、これは熱い…!騎兵隊が戦略的に中央から引き離される展開、読んでて「なるほどね…!」って声出たわ。バルカが「兵とは消耗するものだと思っていた」って気づくシーン、六年間の戦いの重みが一気に伝わってきてグッときた。スピリタスの執念もバルカの覚悟も、両方の視点で描かれてるから引き込まれる。次回が待ち遠しい🔥