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「ええ、構いませんよ」


シスター・ジェルマからあっさりと許可がおりました。

シエラを抱いて戻った私は孤児院でシエラを引き取りたいと申し出たのです。てっきり反対されると思っていたのですが、シスター・ジェルマは頷いてくださいました。


「自分で頼んでおいてなんですが……本当に宜しいのですか?」

「孤児院はその為の施設ですし、今は余裕がありますから。それに――」


シスター・ジェルマは、私の腕の中で寝息をたてるシエラを覗き込んで穏やかに微笑みました。


「――きっとこの子はあなたの光になるわ」

「私の光ですか?」

「ふふふ、自分では気が付かないものね」

「?」


シスター・ジェルマのおっしゃっる意味が分からず私は小首を傾げました。


「だけど1つ大きな問題があるわ」

「問題ですか?」


シスター・ジェルマは困ったわと頬に手を当てていますが……なんでしょう?

私には皆目見当がつきません。


「そうなのよ……実はね私は赤ちゃんを育てた経験がないのよ」

「えっ!?」


それからの孤児院は戦場でした――


孤児院では乳飲み子を受け入れたことが無いそうですし、当然ですが私にも子育てなど経験ありません。だからシエラの養育は全てが手探り状態でした。


最初はおしめを取り換えるのに悪戦苦闘しました。

もらい乳の為に奥様連の方々にも頭を下げました。

夜泣きするシエラを一晩中あやしたりもしました。


シエラが熱を出して苦しんでいる時などは、私がずっと添い寝をして看病をしたものです。


この時に初めて知ったのですが、赤子の熱を無闇に神聖術で治癒してはいけないのだそうです。シエラの発熱を知った私が大慌てで治そうとして、シスター・ジェルマに叱られてしまいました。


こんな風に、シエラの子育てには本当に色々な事がありました。いつもシエラの姿を確認し、四六時中シエラの事を考え、毎日毎日シエラの為に駆けずり回りました。


育児とは本当に大変なものです。ですが、そのお陰で私は様々な経験をし、たくさんの事を知りました。そして、とてもとても心を満たす温もりをもらったのです。


忙しい日々でしたが、とても充実し幸せな時間……そんな毎日の繰り返しに、いつの間にか私は普通に生活を送れるようになっていました。気が付けば慌ただしい日常に、私の胸の奥にあったエンゾ様を喪った悲しみが薄れていたのです。


「きゃっきゃっ……」

「ふふふ……シエラは今日も元気ね」


シエラの無邪気な笑い声に、私もつられて笑みが零れました。


シエラの笑顔を見ると、私の胸の中に心地の良い熱が宿るのです。それは芯からじんわりと温めてくれる穏やかな、そして暗がりを微かな明かりで先を示してくれるような灯火。


一寸先も闇夜で見えぬ迷い人にとって、それはどれ程心強いことか……


「これがシスター・ジェルマの言っていた光なのでしょうか?」


彼女の言っていた意味が何となく理解できた気がします。


私はエンゾ様を喪った悲しみに囚われ、一歩も前に進めなくなっていました。そんな私のもとにシエラはやってきてくれたのです。


この子は私の行くべき道を明るく照らし、一歩を踏み出す力を与えてくれました。


だから思ったのです。


きっとシエラとのこの出会いは、情けない私を見かねたエンゾ様の天よりのお計らいだったのではないかと……

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