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長く続く階段。冷たくて、そして、かび臭い匂いが、鼻孔をかすめる。




(こんな所にリュシオルが?)




地下牢、悲惨、拷問……嫌な言葉ばかりが並んだ、所に向かっていると、私は感じていた。今更、足が震えてきて、立っているのがやっとだった。疲れとはまた違う、恐怖に包まれて、私の足はバカみたいに震えてしまう。


でも、私が嫌がったとしても、ここに連れてこられただろう。それに、リュシオルがどんな状況か確認もしたかったから。




(ただのメイドっていう役割で、そんな内通者とか、共犯者とか扱われてるってことだよね……)




誰がやったかは分からないし、どうやって、その紙をリュシオルの部屋に置いたのかもまだ分からない。でも、エトワール・ヴィアラッテアが関わっているということだけは分かる。銀髪の少女って、きっと彼女のことだもん。でも、彼女は、使えるであろう変装魔法を使わず、その姿であらわれたっていうことは、私を容疑者に仕立て上げたいって思いの表れだろう。




(……本当に、どうかしてる)




彼女の目的は、私を殺すことで、愛されること。

なのにどうして、まわりまで巻き込むのか、それだけは不思議で、分からなかった。私を殺したいのであれば、直接これば良いのに。もしかしたら、度胸がないのかも知れない。でも、ただ、手を汚したくないとか……




(若しくは、他に理由があるとか)




情報が少なすぎる。分かっているのは、私を殺して、禁忌魔法を肩代わりさせようとしていること、それだけだ。時間を巻き戻したところで、エトワール・ヴィアラッテアはそもそも愛されない。断言は出来ないし、私が愛されたかと言われれば、全員からは愛されなかったけど、そこに確かな愛はあったわけで。わかり合うことも、理解し合うことも出来た。本人の努力次第で、人は人を動かせるんだって此の世界にきて分かった。でも、勿論、絶対にあわない人とか、考えを変えない人もいるわけだし、全員から愛されることなんてない。愛される努力をエトワール・ヴィアラッテアは、ゲーム内で途中までしていたのに、嫉妬にまみれて、トワイライト……ヒロインを虐める方に手を染めてしまった。そうしなければ、誰かが、エトワール・ヴィアラッテアの魅力に気づいて、愛してくれたかも知れないのに。




(って、私が言っても何も変わらないか……)




ついたぞ、と騎士の言葉を聞いて、私はハッと顔を上げる。降りた階段の下には、大きな扉があり、その鉄扉を開くと、暗闇に続く鉄格子が幾つもあった。本当に牢獄という感じで、嫌な気配が、足下を這い回る。

こんな所に、リュシオルが閉じ込められているというのだろうか。

本当に、極悪人、罪人が閉じ込められる場所、という感じで嫌だ。そんな罪を、リュシオルは絶対に犯していないのに。




(私も、閉じ込められる可能性はある……けど)




ゲーム内では、ルートとして、断罪ルートといって、災厄、混沌と融合せずに断頭台にて処刑されるというルートがエトワール・ヴィアラッテアには存在した。その時、登場した地下牢というのが、ここのことなんだろう。

人間として断罪されるか、人間を超越した化け物になって断罪されるかの二択だったのは、さすが悪役として設定されたキャラだな、とは思う。




「リュシオル!」

「エトワール様!?」




騎士達が、とある鉄格子の前で、ピタリと足を止めたため、私はその間を縫ってはいるようにして、その鉄格子に近付いた。中には、水色の髪を酷く見だしたリュシオルが居て、私を見ると、ハッとしたような顔をして私に近づいてきてた。

見る限り、乱暴されたという感じはないし、鉄格子に入れられているだけ、という感じがした。でも、床には、手錠やら、足枷やら、いつでもはめられるであろう、さびた拘束具が散らばっている。ひとまず、拷問にかけられたという可能性は薄そうだ。




「リュシオル、だ、大丈夫」

「ええ、いきなり連れてこられて、びっくりしたけど、平気だわ」




と、ケロッとした顔をして見せてくれるリュシオル。でも、本当にそうなのか、分からなくて、疑いの目を向けてしまう。私の前だから、元気を繕ってくれている、という感じじゃないから、心配いらないのかもだけど。




(良かった……)




いや、何も良くないんだけど、ひとまず、手は出されていないようでそこだけでも安心する。けれど、やはり、かけられた疑いというのは、どういう感じではらせば良いのか分からなかった。そもそも、何でリュシオルの部屋に、リースの暗殺の手引き的な手紙が入っていたのか。誰が、リュシオルの部屋に侵入したのか。そこも、謎だ。




「リュシオル……」

「エトワール・ヴィアラッテア様、お話を聞かせて貰ってもよろしいでしょうか」

「ここで?ちょっと、さっきから非常識すぎない?」




私は思わず、反論してしまった。幾ら、皇帝陛下の命令だとはいえ、私へのあたりがあまりにも強すぎるのだ。もしかしたら、元から、私に反感を持っていた騎士達かも知れないけれど。これって、あんまりで……




「何を、聞きたいのよ。私は、リースの暗殺に何て関わってない。それに、気配にすら気づいていなかった」

「そういう演技をしているのでは?」

「だから、私は」

「貴方様は、正式な皇太子殿下の婚約者ではないですよね。殿下がそうやっていっているだけで、貴方様は、婚約者でも何でもない……それに、婚約者だったとしても、重罪だと思いますが」

「だから――!」




何を言っても通じない。というか、何で、婚約者云々の話しになっているのかも分からなかった。リースは、婚約者だって、まわりにいってくれているはずだし。

もしかしたら、皇帝陛下は、認めていないから、そういっているだけなんじゃ。けれど、それをいっても、この人達は皇帝陛下側の人間だろうし、私の話なんて聞いてくれるわけが無いだろう。




(こんなのって……こんなのって、ありなの?)




これじゃあ、何を言っても、私が悪者みたいじゃない。

もっと、ちゃんとした調査をして、とか、私が犯人たる証拠を持ってこいとか言いたかった。でも、発言できるような雰囲気じゃなくて、私は言葉を詰まらせるしかなかった。どうにかしようって考えていたのに、こんなの、どうにも出来ないと。




「何も言えないと言うことはそういうことでよろしいでしょうか」

「待って、私は」

「エトワール様は、何もしていないと思います」




コツコツ、といつの間にか聞えてきた足音と、聞き覚えのある声に振向けば、そこにはグランツがいた。騎士達は、一斉に、私を守る……いや、接触させないように、グランツと私の間の壁になる。

グランツはそれをみながら、腰に下げている、剣に手を当てる。ここを、血の海にしないでよ? と思いながら、私は、グランツを、騎士達の隙間からみる。よく、ここに、私の護衛であるグランツがこれたな、何てことも思いながら、彼が助けに来てくれた。その事実に私は安堵感を覚えた。このままだったら、何も言えずに、犯人に仕立て上げられそうだったから。




「それは、どういうことですか。グランツ・グロリアス」

「言葉通りの意味です。そして、そのメイドも、無関係かと」

「証拠は。言い切れる証拠はあるんでしょうね」




と、食ってかかる騎士。


その反応を見て、グランツは、心底呆れたというように、ポケットから、魔法石を取りだした。アメジスト色のそれは、ブライトの瞳に似ているなあ、何て思いながら、私はそれをまじまじと見る。転移魔法を発動させる気だろうか。それとも、何か別の魔法が付与されている?

そう思ってみてみれば、その魔法石から、映画のように、ヴンと浮き上がった映像が流れ始めた。それは、監視カメラのように、私の行動や、聖女殿内の様子が映し出されている。




(と、盗撮じゃない!)




内心、そう思いながら、私は、グランツを見ていたが、非常事態だろうといわんばかりに、グランツは、これが、証拠です。と提示する。




「貴方がたが、銀髪の少女をみたのはいつですか」

「い、いや、我々はそのような情報を耳にしただけで」

「不確かな情報で、俺の主を犯人に仕立て上げようとした……ということですか。あまりに、不誠実すぎませんか」




グッと、何も言い返せないというように、騎士達は黙り込む。もしここに、リースがいたら、彼らの首を全員切り落としていたかも知れない。私も、そんな不確かな情報だけで、犯人扱いされるのは嫌だ。

そんな風に、拳を振るわせていれば、騎士の一人が、声を上げる。いわなければ良いことを、口にして、場をさらに冷えかたまらせた。




「ですが、彼女は、伝説上の聖女と異なった容姿で――」

「……ッ」

「グランツ待って」




剣を抜こうと、部わりと広げた殺気を感知して、私は、彼に呼びかける。何となくだけどそんな言葉を言うんだろうな、っていうのは予想がついていた。そして、案の定、グランツは激昂し、剣を引き抜こうとした。白い刃が見え、私は恐ろしくなりつつも、抑えてというように、彼にいう。グランツはフルフルと怒りで震える手を押さえ、剣を鞘に戻した。




(いや、本当に危ない)




まあ、今のは完全に騎士の失言が原因なんだけど。

そのせいで、周りの空気は最悪になり、はじめから、そのつもりで、そして、そういう風にみていたんだということが私にバレてしまったのか、彼らは、あろう事か、開き直ってしまう。




「やはり、その容姿のせいかと」

「何よ。容姿のせいって、意味分かんないし、アンタ達も、そんな風に私を見てたの?」

「皇帝陛下は、貴方様を、聖女と認めていません」

「皇帝陛下が……」




いや、分かってる。分かってるからこそ、何て言い返そうか考えていた。でも、ここで下手に噛みついたら、グランツやリュシオルにも、被害がいってしまうかも知れない。

どうするのが、最善か。リースならどうするか、そんなことを考えていると、グランツが何かを思い出したように手を挙げる。




「証明すれば良いんですよね」

「何を言っているんだ。証拠がなくとも、彼女は……」

「そのよくまわる口を切り落とされたくなければ、黙っていて下さい。エトワール様が、嘘をついていないと、そのメイドが嘘をついていないと証明できれば良いんですよね」

「……」

「なら、いい道具があるじゃないですか。俺は、それを取りに行きます」




グランツが何を言っているか分からなかったけど、いい道具、と言葉を聞いて、何となく察した。でも、一人で取りに行かせるなんて出来ない。




「南の砂漠にある、真実の聖杯。それを、持って帰ってきて見せます。そして、エトワール様の無実を、証明する」


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