コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
(多分、あの特別なアイテムよね)
万能薬や、復活の指輪みたいなあれ。ブライトに教えて貰った、この世にいくつか存在する、もの凄い力を秘めた物質のこと。多分、それを、グランツはいっているのだろうと、私は察した。けれど、北の洞くつのように、取りに行きにくい場所、危険な場所にあることは間違いない。それを、グランツは一人で取ってくるというのだ。無謀にもほどがある。
「南の砂漠だと?真実の聖杯だと?貴様一人で取ってこれるものではないだろう。諦めろ、証拠はこちらで……」
「貴方がたは、信用ならないので」
「何」
「皇帝陛下が、エトワール様を聖女と認めていないことは知っています。そして、彼女を陥れようとしていることも」
「貴様、無礼だぞ」
「俺は、自分の首が飛んでも構わないです。この命は、エトワール様に捧げているので、彼女を守るためなら、誰であろうと敵に回します。俺は、死ぬのなんて怖くない」
と、グランツは言い切った。その、迫力に押され、何も言い返すことが出来ないと、騎士達は降参する。そんな風に、黙り込んでしまうのなら、はじめから突っかからなければ良いものの。
(というか、相変わらず重い……なあ)
それがグランツってもう慣れてしまったから、あれだけど、何というか、その、重いよね。と、語彙力のない言葉でまとめつつ、私は、グランツをみた。彼の翡翠の瞳は真っ直ぐとしており、そこに邪念など混じっていなかった。純粋に主を思う騎士の目。一皮むけた彼ほど心強い存在はいないと、私は確信しつつ、少しだけ、心が安らいだ。
(……グランツ)
彼が味方でいてくれて嬉しい。でも、矢っ張り言い過ぎだと、私はあとで、命ってそんなに軽くないから、って伝えようと思った。嬉しいには、嬉しいから、そこもちゃんと伝えるつもりだけど。
まずは……
「あの……」
一気に集まる視線。怖いけど、怯んでいられないと、私は、真っ直ぐと立って騎士達を見た。どれだけの疑いと、どれだけの感情が向けられているか計り知れないけれど、自分にかかった疑いは自分で晴らそうと思う。
リュシオルの不安そうな目が後ろから刺さって辛かった。そんな顔して欲しいわけじゃない。それに、そんな顔させたくてここに来たんじゃない。リュシオルも私も、グランツも、ブライトも皆助けるつもりでここにいる。
私が、助けるなんて、そんな大それた事出来るのかと言われたら、出来ないかもだけど。それでも、やるしかない。
「私も、同行します」
「何故ですか。貴方は、今容疑を――」
「だからよ。その、真実の聖杯は、その聖杯にわいてでた水を飲んだ人は、嘘をつけなくなるっていう奴よね。だったら、私が嘘をついているかどうか、その聖杯で確かめるべきだと思うの。私の言葉、誰も、信じてくれないんでしょ?」
と、私が、彼らに冷ややかな視線を送れば、その通りだといわんばかりに黙ってしまった。ほら、そうじゃないかと。
ならば、その真実の聖杯を手に入れ、私が、皇帝陛下の前で、嘘を言わない、真実だけを伝えたら、さすがの皇帝陛下でも何も言えないだろうと思った。まあ、その前に、リースがどうこう、っていうのもあるけど。
(皇帝陛下は、ゲーム内で出てこなかったから、よく分からないんだよね……)
ゲームに出てこなくても、此の世界では生きているわけで、それなりの設定……いや、皇帝陛下っていう人間が、しっかりとこの国に君臨しているわけで。細部まで作られているな、と久しぶりに、そんなことを思った。これが、ゲームであれ、なかれ、今はどうでもいいけれど。
「行こう、グランツ」
「はい、エトワール様」
私が歩けば、騎士達はモーセのようにザッと横にひいた。私には触りたくないという風にも捉えられて、少しいらだちはしたけど、まあ、こんなものなのだろうと、私は無視をする。そんな私の後ろを、グランツが、ついて歩く。
けれど、このまま逃がしてはおけないと思ったのか、騎士の一人が声を上げた。
「そ、そんなの無謀です。許可されていません」
「許可なんているの?」
「でで、ですが、無謀です。二人だけでなど、死にに行くようなものです。南の砂漠……そこを守護するように徘徊している大サソリにでも出くわしたら」
大サソリ、という言葉を聞いて、怯まなかったわけではない。まあ、この間の大蛇のように、そこを守護する魔物はいると思っていたけれど、大きなサソリがいるのかと、新たな情報を得た気がする。
口を滑らせてくれて、ありがとう、と感謝をしつつ、私はまた、無視を決め込んで歩く。グランツは、私の考えに対して、何も否定的な所はないらしい。まあ、一人でも行くと決めていた男だから、面構えが違うけれど。
「無謀……ね」
この騎士達の名前に興味も無ければ、これから関わる事もないだろうけれど、釘を刺そうと思った。悪役らしく、ニヤリと笑って言ってやる。だって、彼らは、私を悪役に仕立て上げたいんだろうから。
「無謀かも知れない。でも、皇帝陛下もそれを望んでいるんじゃない?私が、南の砂漠に行くっていったら、喜ぶに違いないわよ。だって、二人……無謀なんでしょ?死にに行くようなものだと、きっと笑うに違いないわ」
と、そういうと、場は冷えかたまってしまい、皆、言葉を失っていた。何も言い返せない、図星なんだろう。皇帝陛下ならそう考えるだろうっていう、そういうことのあらわれ。
本当に意味が分からない。と、私は、彼らを再度睨み付けて、地下牢を出た。はじめはここに連行されてきた訳だけど、簡単に抜けられるものなのね、何て乾いた笑みが漏れる。唯一心残りがあるとするのなら、リュシオルを置いてきてしまったことだろう。でも、必ず戻ってくるし彼女の疑いも晴らしたい。
けれど、私が南の砂漠に行くってエトワール・ヴィアラッテアが知ったら、その間に何か仕掛けてくるかも知れない。
頼ってはいけないし、巻き込みたくないとは思ったけれど、唯一まともに動けるトワイライトと、アルバに、他に変な動きがないか、調べておいて貰おうと私は考える。一段、一段上がっていけば、グランツが、ピタリと後ろで足を止めているような気配を感じ、私は振返った。
「グランツ?」
「エトワール様、良かったのですか」
「さっきの事?うん、あれでよかったと思う。悪役っぽかった?」
「……」
「自分にかかった疑いは、自分で解かなきゃ皆納得できないでしょ。きっと、アンタが持ち帰ってきたとしても、皆私を疑ってしまう。いや、いちゃもん付けるとか言った方が正しいかもだけど。後、それに……アンタを一人にはさせられないって思ったの」
「本当に優しいんですね、エトワール様は」
優しい、といって笑うグランツは、もう慣れた、そういう人だ、と訴えかけてくるようで、少しむずがゆかった。まあ、優しい、っていわれればそうなのかもと、今回は自分の性格を認めて、私は地下牢と地上を切り離している扉を開く。
眩しい光が差し込みつつ、皇宮の赤いカーペッドを踏めば、そこには、見慣れた人物が待っていた。
「ブライト」
「エトワール様、大丈夫でしたか。何か、されたりは」
「ううん、何もされてない。でも、ブライト……リースは?」
「僕の、信頼できる従者に任せています。それに、僕以外が魔法を使えないように、結界魔法をかけてきていますので。すぐに戻りますが……とても心配で」
と、ブライトは語ってくれた。
地上で待っていてくれた人がいる、それだけで、私は幸せだった。ブライトは私の味方だと、そう実感できて、無出をなで下ろす。
改めて、私のまわりが敵だらけ、それも、多数の意味で敵だらけということを知って、何だかまた肩身が狭くなったと思う。どうして、エンディングをむかえたはずなのに、物語は、平和になってくれないのか。生きているうちは、物語は終わっていない。そう言い切ってしまえば、それまでなんだけど、それでも、束の間の平穏が、本当の束の間だったと、私はあの頃が恋しくなる。
災厄や混沌と戦ってきたときよりも、今の状況の方が最悪だって言い切れる保証がある。あっちが、本編じゃなかったのかって。今、もう一人のエトワール・ヴィアラッテアと戦っている方が、より過酷で、辛くて、まわりも巻き込んで……
(マイナスな気持ちになっちゃダメ、しっかりしなきゃ)
私を思ってくれる人がいる。それだけで、幸せでしょ。と自分に言い聞かせて、私はブライトとグランツに改めてお礼を言った。私の味方でいてくれてありがとうって、そんなことだけど。
二人は、少し分からないな、といった感じに顔を見合わせてから、フッと、笑って私を見た。私の事を100%理解して何て言わないし、私も二人のことを100%理解できるわけじゃない。だからこそ、理解できない部分を想像や、その人の話を聞いて、限り無く100%にするんだとおもう。それに、分からないっていう秘密があった方が、その人をより知りたいって思えて良いのではないかとも、密かに思っている。
「ブライト、リースのこと、よろしく」
「分かりました。エトワール様……貴方は、何を言っても止らないでしょうから……お気を付けて。グランツさん、エトワール様を頼みましたよ」
「分かっています。命に代えても守ってみせるので」
二人はそんな会話を交し、ブライトと顔を合わせ、グランツは、約束します、というように、胸に拳を当てた。