テラーノベル
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「金、ねえな……」
佐伯陸はスマホを眺めながら呟いた。
財布の中身は、千円ちょっと。
次の給料日まではまだ遠い。
友達から遊びに誘われても、
「ごめん、今月キツい」
そう断るのも、もう何度目か分からなかった。
バイトを増やす気にはなれない。
かといって、このまま何もしないのも嫌だった。
そんなときだった。
SNSを眺めていた陸の指が止まった。
【簡単な作業で高収入】
【日払い可能】
【未経験歓迎】
そして、その下に書かれていた金額。
「……5万?」
思わず声が出た。
一日で5万円。
そんな仕事が本当にあるのか。
怪しい。
普通なら、そこで閉じる。
でも陸は、しばらく画面を見つめていた。
5万円あれば。
今月はかなり楽になる。
いや。
来月だって。
「……ちょっとだけなら」
陸は募集ページを開いた。
仕事内容は簡単なものだった。
指定された場所へ行く。
指示された物を受け取る。
そして、別の場所へ届ける。
それだけ。
細かい仕事内容については、登録後に説明すると書いてある。
「まあ……荷物運ぶだけだろ」
陸は深く考えなかった。
名前。
電話番号。
年齢。
いくつかの質問に答える。
最後に、
【応募しますか?】
画面には二つのボタンがあった。
【キャンセル】
【応募する】
陸は少しだけ迷った。
ほんの数秒。
そして、
【応募する】
を押した。
――ピロン。
すぐに通知が届いた。
【応募を確認しました】
「早……」
続けて、もう一件。
【あなたの参加者番号は23番です】
「参加者番号?」
陸は首を傾げた。
普通のバイトなら、そんなものはない。
でも、
「まあ、管理番号みたいなもんか」
クム
485
#狂愛
柏木さくら
4,367
2,753
そう思ってスマホを伏せた。
その直後。
また通知が鳴った。
陸は何気なく画面を開く。
【23番】
【明日の午前9時までに、指定された場所へ来てください】
その下には、住所が一つだけ書かれていた。
陸はその住所を見て、少しだけ眉をひそめた。
知らない場所だった。
そして最後に、一文だけ。
【他の参加者には、この場所を教えないでください】
「……なんで?」
陸は笑った。
でも、その疑問を深く考えることはなかった。
5万円。
その金額のほうが、ずっと魅力的だった。
陸はスマホを閉じた。
このときの陸は、まだ知らなかった。
自分が応募したのは、普通のアルバイトなんかじゃないことを。
そして。
23番という数字が、ただの管理番号ではなかったことを。
コメント
1件
るしゅさん、読了しました。 なんか、こう——じわじわ来る話ですね。冒頭の千円ちょっと財布の中身、もう何度目か分からない「今月キツい」の断り。この描写だけで陸くんの生活のキツさがひしひし伝わってきて、読んでるこっちも胸がギュッとなりました。 その上で、「簡単な作業で高収入」「日払い」「未経験歓迎」。ねえ、もうここだけで読者は「あ、これやばいやつだ」って分かっちゃうのに、陸くんは5万円の魅力に目がくらんで応募しちゃう。その「少しだけ迷った。ほんの数秒」っていう迷いの浅さが逆に怖いですよね。生活に追われて判断力を鈍らせるって、まさにああいうことなんだろうなと。 そして「参加者番号23番」「他の参加者にはこの場所を教えないでください」。最後の一文が不気味すぎて、続きが気になって仕方ないです。これ、番外編とのことですが、本編とどう絡んでくるのかも含めて楽しみです。