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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第52話:冬の備蓄物資と、元社畜の兵站(へいたん)管理
十一月下旬。北海道の冬は、もはや「季節」という生易しい言葉ではなく、明確な「脅威」としてその姿を現し始めていた。
灰色の雲が空を覆い、風はカミソリのように冷たい。
本格的な大雪(豪雪)で物流が完全にストップする前に、限界集落で冬を越すための『最終防衛ライン』を構築しなければならない。
「おーい、兄ちゃん! 頼まれてた越冬物資、ドカンと持ってきたぞー!」
庭先にけたたましい排気音を響かせてバックしてきたのは、見慣れた宅配便のバンではなく、村の運送会社が手配してくれた4トントラックだった。
荷台のウィングがウィーンと開くと、そこには天井まで隙間なく積まれたダンボールの山。
保存食、レトルト食品、米、トイレットペーパーから非常用の簡易トイレ、さらにはシロやコン吉、コン次郎たちのための高級ペットフード(大量)まで、ありとあらゆる物資が詰め込まれている。
「お兄さん……これ、全部二人で納屋に運ぶんですか……? 私、明日絶対に筋肉痛で動けなくなりますよ……」
小春ちゃんが、そびえ立つダンボールの山を見上げて絶望の声を漏らした。
ジンバルに固定されたスマートフォンの向こう側でも、配信を見守る200万人の視聴者たちがざわついている。
『業者の発注ミスを疑うレベルww』
『完全にシェルターの備蓄なんだよなぁ』
『これを手作業で仕分けるのは地獄すぎる』
『主、ついに過労で倒れるぞ』
「……小春ちゃん、スマホを持ってそこから動かないでくれ。記録(配信)だけ頼む」
俺は、フリースの上着を脱ぎ捨て、Tシャツ一枚になった。
そして、首でパキキッと音を鳴らし、軍手(ホームセンターで買った3双298円のやつ)を両手に深くはめ込んだ。
「え? お兄さん、一人でやるつもりですか!?」
「いいか。冬の北海道において、物資の枯渇は即ち『死』を意味する。だが、ただ漫然と詰め込めばいいというものでもない。いざという時に必要なものが1秒で取り出せる、完璧な『兵站(へいたん)』を構築する必要がある」
俺の目の奥に、かつてないほどの鋭い光が宿る。
コールセンターのクレーム対応で培った鋼のメンタルとはまた違う、俺の肉体の奥底に眠っていた『別のスイッチ』がカチリと音を立てて切り替わったのだ。
「――作戦行動、開始」
俺はトラックの荷台に飛び乗った。
そこからの俺の動きは、控えめに言っても「異常」だった。
「保存食(缶詰)ロットA、右舷棚下段へ! 賞味期限が近いものは手前、先入れ先出し(FIFO)の原則を徹底する!」
ダンボールを抱え上げる動作に、一切の無駄がない。
膝のクッションを使い、腰への負担を極限まで減らしながら、重さ数十キロの箱をまるで発泡スチロールのように軽々と持ち上げ、納屋の中へと滑り込んでいく。
「ティッシュ及びトイレットペーパー、かさばる軽量物は上段へ! ただし湿気を避けるため、スノコの上にパレットを形成して配置!」
シュババババッ! という風を裂くような音が鳴る。
開封、確認、分類、運搬、配置。
俺の脳内には、納屋の立体的な3Dマップが完全に構築されており、どの物資をどこにテトリスのようにはめ込めば最も効率的な『導線』が確保できるか、コンマ1秒で計算が弾き出されていた。
「ペットフードはシロ様用とキツネ用で区画を分離! さらに非常用バッテリーと灯油タンクは、引火の危険性を考慮し、指定の防火エリアへ隔離する!」
俺は残像が見えるほどの速度で納屋とトラックを往復し、山のような物資がみるみるうちに吸い込まれていく。
納屋の中は、ただの物置から、まるで計算し尽くされたAmazonの巨大物流倉庫、あるいは軍の補給基地のように、美しく、そして機能的な空間へと変貌を遂げていた。
『ミャウ?』
『コンッ!』
『キュゥ!』
シロ、コン吉、コン次郎の三匹は、俺のその異常な反復横跳び(運搬作業)を、縁側から首を同じ方向に振ってポカンと眺めている。
そして、カメラを回していた小春ちゃんも、完全に顎が外れたような顔で固まっていた。
「お、お兄さん……なんなんですか、今の動き……。まるで機械みたい……」
だが、一番狂乱していたのは、画面の向こう側の視聴者たちだった。
『はああああああああ!?!?』
『動きがガチすぎるだろwwww』
『重たいダンボールを運ぶ時の体幹が一切ブレてない』
『納屋の中の整理整頓が芸術レベル』
『おい、このおっさん絶対にただの社畜じゃないぞ!!』
『主、その無駄のない動き、絶対に元・特殊部隊(レンジャー)だろ!!』
『プロの動きだ。素人の運搬じゃない』
『(アメリカの軍事オタクからの$50MeTubeギフト)=”Master! Were you in the Special Forces!? That’s Delta Force level logistics!“(主よ! あなたは特殊部隊にいたのか!? デルタフォース級のロジスティクスだ!)』
チャット欄は「主=元特殊部隊の精鋭説」で完全に埋め尽くされていた。
無理もない。
俺の手際があまりにも「戦闘的」かつ「機能的」すぎたのだ。
最後のダンボールを所定の位置にビシッと収め、俺は額の汗を手の甲で拭った。
四トントラック一杯の物資が、わずか三十分で、完璧な在庫管理システムのもとに格納完了した。
「ふぅ……よし。これでいつマイナス二十度の吹雪が来ても、三ヶ月は余裕で籠城できるな」
俺が満足げに頷きながら縁側に戻ってくると、小春ちゃんが興奮気味にスマホの画面を突きつけてきた。
「お兄さん! コメント欄が大変なことになってます! お兄さんが元レンジャー部隊の生き残りじゃないかって、みんな大騒ぎしてますよ!」
「……は?」
俺はほうじ茶の入った湯呑みを手に取りながら、心底不思議そうに首を傾げた。
「レンジャー? 何を言ってるんだ。あんな超過酷な訓練、俺みたいな凡人が耐えられるわけないだろ」
俺はカメラのレンズに向かって、いつものように感情の抜け落ちたフラットボイスで、淡々と、そして真顔で語りかけた。
「……皆さま、誤解なきよう。俺はレンジャー部隊なんかじゃありませんよ」
『じゃあその動きはなんなんだよ!!』
『只者じゃないオーラ出まくってたぞ!!』
『絶対に人を殺めたことのある手際だった(確信)』
「俺はかつて、陸上自衛隊に所属してはいましたが……後方支援隊の補給隊、いわゆる『需品科(じゅひんか)』の上がりです」
俺はほうじ茶をズズッと啜り、遠い目をした。
「燃料、糧食、被服。部隊が戦うためのあらゆる血液(物資)を管理し、前線へ届ける。在庫管理とロジスティクスの構築は、需品科における基本中の基本ですから。今日の運搬なんて、演習の時の物資搬入に比べれば、ただのお遊戯みたいなものです」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、俺の背中をバンバンと叩きながらツッコミを入れた。
「四トントラックの荷物を一人で三十分で完璧に捌き切る需品科がどこにいるんですか!! どう見たって戦闘能力高すぎでしょ!!」
『需品科(物理最強)』
『適応力バグおじさん、ついに自衛隊の隠し玉だったことが判明』
『需品科の仕事=Amazonの倉庫番(※命懸け)』
『クレーマー対応もできて、兵站も完璧とか、最強のサバイバル要員じゃねえかww』
『シロ様(神獣)の護衛にはこれくらい必要ってことか』
俺の「ただの需品科上がりです」という真顔の否定は、視聴者たちの想像力をさらに掻き立てる結果となってしまったらしい。
『ミャウ(お疲れ様)』
俺が縁側に腰を下ろすと、すかさずシロが膝の上に乗ってきて、適温25度の絶対防壁(動くこたつ)を展開してくれた。
コン吉とコン次郎も、俺の両脇にピッタリとくっついて丸くなる。
「……あぁ、この温もりがあれば、どれだけ雪が降っても生きていけるな」
元コールセンター社員であり、元陸上自衛隊需品科。
数々のブラックな環境(?)を生き抜いてきた俺のスキルは、この北の大地の限界集落において、最高に平和なスローライフを守り抜くための『最強の盾』として完成されつつあった。
外では冷たい北風が吹き荒れているが、完璧な兵站(備蓄)と、神獣のオーラに守られた俺たちの日常は、どこまでも温かく、そしてバグり続けていくのだった。
コメント
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うわぁ、この回めちゃくちゃ好きです!😊 元自衛隊需品科って、まさかそんな裏設定があったなんて…!4トントラックの物資を30分で完璧に捌くとか、ただの社畜じゃないオーラがありすぎますよ(笑)視聴者たちが「元レンジャー説」で盛り上がるのも納得の手際の良さでした。 そして何より、シロちゃんが膝に乗って「動くこたつ」になってくれる温かさ…真冬の脅威が迫るからこそ、この穏やかな日常のシーンが沁みますね。備蓄もバッチリで、これで安心して冬を乗り切れそうです!