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第53話:シロ様、ついに「コタツ」を知る〜神獣とキツネの完全液状化〜
十二月。十勝平野を吹き抜ける風は、いよいよ骨の髄まで凍りつくような「真冬」の牙を剥き始めていた。
しかし、俺の住むボロアパート……もとい、古民家の縁側は、相変わらず春のうららかな陽だまりのような平和な空気に包まれている。
「いやぁ、今日もシロちゃんの結界は完璧ですね! 外は氷点下なのに、ここは本当にポカポカです!」
小春ちゃんが半袖のTシャツ姿でみかんを剥きながら、ニコニコと笑う。
その足元では、神獣シロが適温25度の絶対防壁(オーラ)を放ちながら、気持ちよさそうに香箱座りをしていた。
確かに、シロがいればストーブもエアコンも一切不要だ。灯油代も電気代もゼロで春の陽気が手に入る、まさに究極のエコライフであり、最強の冬支度である。
だが、俺の中の『日本人のDNA』が、どうしてもある一つの欲望を抑えきれずにいた。
「小春ちゃん。確かにシロの結界は最高だが……日本の冬を越す上で、どうしても欠かせない『最終兵器』があるんだ」
「最終兵器……? 先日の需品科レベルの備蓄物資の中に、まだ何か隠し玉があったんですか?」
「ああ。昨日の夜、納屋の奥の物資の山から引っ張り出してきた」
俺はもったいぶって、居間の中心に鎮座させていた『それ』にかけられた布を、バサッと勢いよく取り払った。
「……ジャーン。ニトリで買った、天板リバーシブルのこたつだ」
「こ、こたつ……!」
小春ちゃんが目を輝かせる。
そう、こたつである。ブラック企業で連日深夜まで働き、暖房の切れた極寒のワンルームに帰宅した俺にとって、唯一の癒やしであり、文字通り命を繋ぐ相棒だった。
北海道に引っ越してきてから使う機会がなかったが、ついにこの古民家にこたつを展開する時が来たのだ。
「でもお兄さん、シロちゃんがいるのに、わざわざこたつを出す必要ありますか?」
「ある。こたつは単なる暖房器具じゃない。人間の精神を底無しに堕落させ、すべてを優しく包み込む『人をダメにする沼』だ。俺は今日、このこたつで限界までダラけるという強い意志を持っている」
俺の謎の決意表明に、ジンバルにセットされたスマートフォンの向こう側、200万人のチャット欄がワッと湧いた。
『主の謎のプライドww』
『シロ様という最強のこたつがあるのに、物理こたつを導入する男』
『どんだけダラけたいんだよww』
『元社畜の反動が凄すぎて草』
俺はコンセントを挿し、こたつのスイッチを「弱」に入れた。じんわりと、赤いランプと共にヒーターが温まり始める。
「さあ、小春ちゃん。まずは俺たちが手本を見せよう」
俺と小春ちゃんは、厚手のこたつ布団をめくり、足を滑り込ませた。
「……あぁぁぁぁ……」
「……ふにゃぁぁ……」
入った瞬間、二人同時に、全身の骨がゼリーになったかのようなだらしない声が漏れる。
シロの結界が「空間全体を包む快適さ」だとすれば、こたつは「下半身から脳天に向かって直接響く、暴力的なまでの快楽」である。みかんを乗せた天板に突っ伏すと、もう二度とこの場所から動きたくなくなる。
『ミャウ?』
俺たちのあまりの堕落っぷりに、シロが不思議そうに近づいてきた。その後ろからは、いつの間にかレギュラーメンバーとなったキタキツネのコン吉と、コン次郎の兄弟もトコトコとついてきている。
「シロ、お前も入ってみるか? これが人間の叡智の結晶だぞ」
俺がこたつ布団を少し持ち上げてやると、シロはヒクヒクとピンク色の鼻を鳴らしながら、中から漏れ出す温かい空気を探った。
そして、警戒することなく、スルスルと暗いこたつの中へと吸い込まれていった。
続いて、コン吉とコン次郎も「なんだなんだ?」とばかりに、シロの後を追って潜り込む。
「さて、神獣様と野生のキツネのお気に召すかどうか……」
数分後。
こたつの中から、ゴロゴロという重低音のモーター音と、キュゥゥという幸せそうな鳴き声が、共鳴するように聞こえてきた。
俺はそっと、こたつ布団をめくって中を覗き込んだ。小春ちゃんがカメラを動かし、こたつの中をズームで映し出す。
そこには、この世のものとは思えない光景が広がっていた。
「……溶けてる」
俺は思わず呟いた。
こたつの中央で、純白の神獣シロが、完全に『液状化』していたのだ。
骨格という概念は消失し、まるで床にぶちまけられたスライムのように、平べったく広がっている。神秘的なオッドアイはトロンと半開きになり、口からは小さなピンク色の舌がだらしなくはみ出していた。
そして、その両脇では、コン吉とコン次郎も完全に野生の矜持を失い、液状化したシロに絡みつくようにして、長い体をデロデロに溶かしていた。
三匹のもふもふが完全に融合し、一つの巨大な『黄金と白の温かいゲル状生物』と化している。
「し、シロちゃん……!? コン吉くんたちも、原形をとどめてないですよ!」
小春ちゃんが悲鳴を上げた。
『wwwwwwwww』
『溶けたあああああああ!!!』
『神獣、こたつに完全敗北wwww』
『キタキツネがスライムになってるぞww』
『完全液状化現象じゃねえか!!』
『人間の叡智(こたつ)、恐るべし』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Oh my God! The sacred beast became liquid! Is this a new state of matter!?“(なんてことだ! 神獣が液体になった! これは新しい物質の状態か!?)』
「お、お兄さん! どうしましょう! シロちゃんたちがこたつに取り込まれちゃいました! このままだと床に染み込んじゃいます!」
パニックになる小春ちゃんを横目に、俺はカメラに向かって、元コールセンターの完璧なフラットボイスで解説を始めた。
「……皆さま、落ち着いてください。これは単なる物理現象です」
『出たww限界言い訳タイムww』
『物理現象(大嘘)』
「猫やキツネという生物は、そもそも体の70%が水分でできています。こたつという密閉された熱源環境下に置かれることで、彼らの体組成の融点が限界を超え、一時的に『固体から液体へと相転移』を起こしたに過ぎません。ええ、北海道の冬の室内ではよく見られる、ごく一般的な熱力学の法則です」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんのキレキレのツッコミが、古民家の天井に響き渡る。
「生き物がこたつで相転移するわけないでしょ!! ただ気持ちよすぎて限界までダラけきってるだけじゃないですか!!」
『小春ちゃん、今日も正論パンチ助かるww』
『主、ついに熱力学の法則まで歪め始めたぞww』
『融点越えは草』
『相転移(ただの怠惰)』
『限界集落おじさん、ノーベル物理学賞受賞のお知らせ』
俺の苦し紛れの限界言い訳に、200万人のリスナーから愛のある総ツッコミの弾幕が殺到する。
『ミャ……ゥ……』
液状化したシロが、抗議するように小さく鳴いたが、こたつから出る気は1ミリもないらしい。コン吉とコン次郎に至っては、もはや白目になりかけて、完全にこたつの魔力に屈服している。
「……まあ、いいさ。俺たちも一緒に溶けよう」
俺は苦笑しながら、こたつ布団を元に戻し、再びみかんに手を伸ばした。
神獣の絶対防壁(オーラ)の中で、さらにこたつという人間の叡智に包まれる。ここは間違いなく、今の日本で一番暖かく、そして一番『人をダメにする』極上の空間だろう。
窓の外では、白い雪が舞い始めている。
だが、俺たちのスローライフは、もはやどんな大寒波が来ようとも揺るがない。元社畜と液状化したもふもふたちの、最高に怠惰で幸せな冬籠もりが、こうしてぬくぬくと幕を開けたのだった。
コメント
1件
もうめっちゃ笑ったww神獣シロがこたつで液状化してスライム状態になってるの可愛すぎるでしょ😂✨小春ちゃんのツッコミもキレッキレで最高!「相転移」とか言い出すお兄さんの限界言い訳に200万人のチャットも総ツッコミw こたつの魔力ってほんと怖いね〜。めちゃくちゃエモくて癒やされたし、もふもふ三匹が溶けてる絵面が想像できて幸せすぎる😭💕 次の話も楽しみにしてるよ!
ゆうき あきや
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ゆうき あきや
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キュルノ
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