しばらく3人はお互いに抱き合い何やら話をしていた。とりあえず涙は止まったようだ。
すると猫又監督が
「久しぶりの再開で悪いんだが、そろそろ自己紹介をしてもらってもいいか?」
まあそうだろう。3人は一斉に監督の方に目をやり(ちょっと怖い)泣いていた2人は顔を赤くし、立ち上がった。
いや、まさかマネージャーとして登場するとか予想外すぎんだろ。
なんだかもう我慢してきたものが全部溢れ出て止まらなかった。でもそれは俺だけじゃないようだった。研磨も同じように静かに涙を流し零に押し付けていた笑
しばらく3人で抱き合って居ると監督から声がかかった。
そこで我に返った。
俺、、めっちゃ後輩もみんないる前でめっちゃくちゃ泣いてんじゃねーか!
やばいやばい。めちゃくちゃ恥ずかしい。顔に熱が集まるのが分かるくらい恥ずい。
やっくんも海もなんだか安心して見守る保護者みたいな顔してるし!
後輩も微笑んでいる。こえーよ。
まだ笑い飛ばしてくれた方がマシだ。
研磨も同じように顔が赤くなっている。突然後ろから笑い声が聞こえた。
「ンフッ。ククククっwングゥゥwww」
みんながそちらへ視線を向けると笑いを堪え(堪えられてない)ながら喉でくつくつと笑っている零の姿があった。
おい!笑うんじゃねえ!
そう言おうとして体が思うように動かないことに気がついた。
あれ?んだこれ
まるで世界が傾いているようだ。零はあんだけ笑っていたと言うのに急に真剣な顔になってこちらに駆けつける。
そうか今俺倒れそうになってるのか。踏み留まろうとしても上手くいかない。まるで全てがスローモーションで動いているみたいだ。
なんだか眠い。ダメだ。きっと今寝たら乗っ取られる。
そう己に言い聞かせても言うことを聞かない。ついに意識が落ちる。
「クロ!」
そう叫んだのは他でもない零だった。零が倒れそうになっているクロの体を抱きとめる。俺もすかさずクロに駆け寄った。
そうしているうちに部員が集まってきた。これは危ない。変に霊を刺激すればその分クロが危なくなる。
「みんな、離れて!」
そう言うが部員は戸惑う顔をしており、おずおずと下がる。もう少し離れて欲しいのに。
「お前ら邪魔だ!黒尾は研磨達で何とかするから監督の方までさがれ!」
そう声を飛ばしたのは夜久さんだった。ありがとう。
そして零が
「クロ!分かる?零だ。今祓うから乗っ取られんなよ。」
と声をかける。俺も零に必要な情報を言うと零は、
「チッ めんどくさいやつに憑かれやがって。こいつは多分下級か、中級霊だけど怨念が強すぎる。厄介だ。」
「武器持ってるの?」
「いや無い。でもまあシャーペンくらいあるでしょ?」
「うん。あるけど、、、」
*「じゃあ貸して* 」
「どうするつもり?」
「うちの霊気を込めて無理矢理武器にする。」
「そんなこと出来るの?」
「まあね」
「何本必要?」
「一応三本」
「分かった。」
「あと、研磨も危ないから離れて」
「零は?大丈夫なの?」
「まあね。」
「任せる。クロを取り返して」
「りょーかい」
そう言って俺も離れた。
きっと零はクロを信じてる。だから俺も信じるよ。零が取り返してくれることを。
さっきまであんなに泣いていた黒尾が急に倒れた。幸い、研磨とマネージャーが支えてくれたから良かったものの危ないところだった。
そして研磨が離れるように声をかける。だけどうちの部員はよっぽど黒尾が心配なのかなかなか離れようとしない。
痺れを切らした俺は
「お前ら邪魔だ!黒尾は研磨達で何とかするから監督の方までさがれ!」
と怒鳴った。海が苦笑いを浮かべているがそんなもん知ったこっちゃない。
にしてもアイツ祓えんのか?
前に研磨達が大体は道具とかを使わないとリスクが大きいし、霊気も使うから祓わないと言っていた。
でもあいつシャーペンだけ持ったぞ。嘘だろ。あーいうのってなんかもっと神社とかにありそうな巫女のもつ棒だとか御札じゃないの!?
そう思っている内に研磨が戻ってきた。
すると痺れを切らしたのかリエーフがでけえ声で研磨を質問攻めにした。
「研磨さん!誰なんすかあの人!!それに、黒尾さんには何が起きたんすか!?」
「まあ、リエーフ落ち着けって」
俺が宥めるも興奮が治まらないのか今にも研磨に突進していきそうだ。
「ごめん。詳しい説明は落ち着いてからする。でもこれだけ言っとく。あそこにいる人俺たちの幼なじみで悪い人じゃないから。絶対クロを助けてくれる。」
普段あんま喋らない研磨が少し饒舌になった。研磨の真剣な目を見て少しは落ち着いたリエーフが
「あとで絶対話してくださいよ!」
と念を押している笑
それに思っていることはリエーフだけでは無いようだ。後ろにいる虎や犬岡あたりも頷いている。
久しぶりに幼なじみに会った。5年前に2人から自分は離れた。身勝手なやつだったと思う。それでも、再開出来た2人は真っ先に自分に駆け寄って抱きしめてくれた。
ほんとお前らには感謝してもしきれないよ。
ただ、クロを見たとき、悪寒が走った。なんでもないような顔をしているがその後ろにはどす黒い負のオーラが見える。
昔から憑かれやすい2人だが、5年の間に霊気も強くなっていて状況が悪化しているようだ。
クロが自分に抱きついたとき確信した。こいつはやばいと。どうやら復讐心や執着心が強いようでクロの強烈な霊気に当てられてもずっとしがみついている。
きっとこいつの事だから無理したんだろう。隈も酷いし、なによりこの体で尚、バレーをしようとしている。昔から自分の体には無頓着なやつで、ずっと自分たちを気にしてくれた。幼いときは自分を見つめる数多の霊の視線から護ってくれた。
だから今度は自分の番。この5年間本気で鍛えて来た。この程度の霊だなんて祓い慣れてる。
まあ今回は憑かれやすいのとあてられやすいのが居るから、無闇に祓えない。まあそんなハンデ大したものじゃないが。
ときに慣れは油断を招く。
気を引き締めて目の前のクロいや、背後に憑いている、女の霊と対峙する。
研磨に借りたシャーペンに霊気を込める。大丈夫。絶対に取り返す。