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NEO-V:system_0

5 - 第1話:デバイスの向こう側

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2025年05月06日

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第1話:デバイスの向こう側


東京湾沿いの再開発エリア、シスケープ第7開発ビル。

その奥まったフロアの隅に、ひときわ静かなブースがある。


ガラス越しに見えるのは、パーカーにジャケットを羽織った青年。

前髪が左目にかかるほどの黒髪、無精髭もなく整えられた顔立ち。

彼の名はユーヤ。NEO-Vの内部制御コードを扱う若手エンジニアだ。


「……仕様変更、4行目で反転処理に不整合。リバート後、4秒で再試走行。」


誰に聞かせるでもなく、低くつぶやきながらキーボードを打ち込む。

上層から突然飛んでくる“例によって”の仕様変更。

社内チャットには「今日の昼、またバグ消し祭りらしいぞ」と、誰かのぼやきが浮かんでいる。


昼休みの時間。

他部署のメンバーがCOKOLO内で雑談している中、ユーヤは無言でNEO-Vを装着した。





【COKOLO → LAST STRIDE】


転送先は“ファントムタグ戦”のアリーナ。

赤錆の鉄骨群が残る、廃工場型マップ。


system_0――誰もがその名を知り、誰もその正体を知らない。

装備は防御重視の黒いスーツアバター。片手には連射式のホロライフル、背面にフラッシュナイフ。無駄が一切ない構成。


試合開始と同時に、爆発と共に一人のファントムが倒れる。

タグは宙を舞い、system_0がそれを静かに拾い上げる。


――ここから、逃げ切れ。


地上に照準を合わせる敵。だがsystem_0はビルの影を“重力カットジャンプ”で三階層飛び越える。

敵が目を見張る間に背後へ回り込み、わずか0.3秒の硬直を突いて背中に一閃。


タグを奪われた者はログアウトの霧へと包まれる。


「誰も……何も言わないのか?こいつ……」


無言のまま、冷却煙の中を歩き去るsystem_0。

その視界には、勝敗の数字ではなく、データの“バランス崩壊率”が表示されていた。





【現実側】


「……あ、またこいつ逃げ切ったって」


社内の開発者チャンネルがざわつく。

一部のプレイヤーたちはうすうす気づいている。“system_0”はプレイヤーの域を超えている。


だが、誰もそれをユーヤと結びつけることはない。

彼は今日も、社内チャットを無言で閉じ、モニターに再びコードエディタを開く。


「“正しい動作”と、“楽しい仕様”は違うんだよ」

デバイスの向こう側にしか、彼の声は存在しない。

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