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こんにちは下界の愚民ども。
私、天使は神の使いである。
つまり私の行動言動は、神の意思と同じものなのだ。
特に。私のような凄腕スナイパーは、魔王と勇者をくっつけてハッピーエンドに持っていくことも不可能ではないくらい神がかっている。
頼まれたことないから知らないが。
今日は、魔王討伐に向けて旅を続けている勇者一行の僧侶をターゲットに、私の凄さをとくと披露しようと思う。
天気は晴れ、風も少なく広大な草原の葉が時々ゆれる。陽気が少し暑いくらいか。なぁに、問題ない。
勇者一行は岩陰で少し涼むようだ。
コイツがターゲットの僧侶。
後方回復担当面をしている。みんなに“いい人”で終わるやつだな。
それも今日までだ僧侶。お前のいい人面をこっぱみじんにしてやる。
私は愛用の弓をしならせると、構えていた矢を僧侶めがけて放つ。
僧侶「ほげぇ?!」
……ふっ。早い仕事だったな。
僧侶はぐらりと上体を前かがみにする。
さて、次は相手だがパーティーの誰にしたものか。
人たらしの男勇者。お嬢様気質の女魔法使い。冷静沈着で剛腕の女戦士。
……そうだな、ここは魔法使いが妥当…か…?
天使「な、なんだと…?!」
僧侶は急に体を起こすと慌てて周囲を警戒している。
私の矢は確かに僧侶めがけて飛んだはず。
当たらなかったのか?!この命中に全てステータスをふったような私の矢が…?!
…………くくく!がぜん面白くなって来たようだ。
魔法使い「姿が見えないじゃない!卑怯なやつね!」
勇者「どこから仕掛けて来るか分からない。みんな、背中を合わせよう!」
僧侶「はい!」
戦士「了解した!」
岩陰を利用して勇者パーティーは背後を完全に守ったようだ。
だが。しかし甘い…!私は上空へ高く飛び上がると、太陽を背にして僧侶の頭を狙う。
ふふふ!流石に頭上からとは思うまい!
くらえ僧侶!チェリーボーイを終わらせてやる!!
僧侶「うわぁ!」
………なんて素早い身のひるがえし方だ。
高速すぎて加工動画かと思った。流れ弾で天使の矢が当たった勇者が尻を抱えている。
まさかここまで僧侶が手こずらせてくれるとは。作戦を練らなければ。
もうなんかやる気をなくした私は、試しに女戦士に矢を放ってみた。
勇者「戦士も当たったのか?!」
僧侶「二人共大丈夫ですか?!すぐ回復魔法を……」
戦士「じ…自分は、大丈夫だ。当たったと思ったのだが、矢も傷もない……」
勇者「オレも傷も矢もなくなってる……」
魔法使い「えぇ…?どうなってるの……???」
僧侶「で、ではこの矢はいったい…?」
僧侶が天使の矢を調べている。いくらでも調べたらいい。天使の矢は下界では長く存在出来ない。そのうち命中した矢と同様、消えてなくなるだろう。
だが、女戦士以上の身のこなしをする僧侶とはどう言うことだ…?
私は一度、帰ることにした。
ひらめいた。夜襲だ。
人間は睡眠を取らなければならない。
寝ることによって、日々の疲れや傷を癒やす生命体だ。これは大きな隙だ。
天使としてこれで良いのかと言う言葉が脳裏を過ぎったが、凄腕と言うプライドが止めることを許さない。
僧侶たち、もとい勇者たちは近場の村へ足を運んでいた。
夜になると星空の方が明るい。月明かりを頼りに宿屋らしき建物を発見する。
窓から部屋の中を覗くと、案の定勇者らしいシルエットが見えた。ひそひそと小声で何か聞こえる。勇者と女戦士だろうか。
戦士「……何故、拒むんだ勇者」
勇者「な、なぜって……オレたちは魔王討伐の責務があるんだぞ?!」
戦士「分かっている」
勇者「分かってるなら…」
勇者「?!」
戦士「……お前を愛している。…慕っている。冤罪で処刑されそうになっていた自分を、お前が助けてくれた。あの時からずっと…」
勇者「……オレだって…オレだって。剣の腕が未熟だったオレを、お前がずっと修行をつけてくれて…惹かれてた」
戦士「なら何故?」
勇者「死ぬかも知れないんだぞ?!オレもお前も!…でも誰かがやらなくちゃ、故郷のみんなが……!」
戦士「死ぬ時は…一緒だ、勇者」
勇者「…!、戦士……!」
違うんだよなぁー。
そうじゃないんだよなぁー。
……まあ、矢が効く証拠には違いない。
私は地面につばを吐き捨てると、明かりの灯っていない別の部屋を覗く。思うに僧侶は聖職者らしく、もう寝ているのだろう。
いくつか窓を回っていると、月明かりに照らされ、ベッドの中でまぶたを閉じた僧侶を見つける。
私は物音を立てないように窓を開けると、翼を羽ばたかせその部屋へ侵入した。
僧侶は良く寝ているらしく、ピクリとも動かない。つい私はにたりと笑ってしまう。
弓そっちのけで矢包に手をかけると、矢を一本強く握りしめる。
“ゼロ距離”。これで当てられない天使はバカだろう。私は腕を大きく振りかぶると僧侶の顔面に先端を突き立てた。
おかしい。
おかしい、おかしい、おかしい……
私は手元が狂ったのかと思った。確かに矢は当たった。だが、その矢が滑るほどの柔肌!
意味が分からない。
天使の矢を弾くほどのうるつや肌?
しかも良く良く見ると、その寝顔にはべったりとクリームが塗られている!
天使「…………ふ……くくく……ハハハハハ!!」
私は高笑いをすると僧侶から距離を取った。
ここまで私を手こずらせるとは聖職者の風上にもおけない奴だ。
私は弓を構えると、矢包からありったけの矢を放り投げる。
舞った矢はそれぞれ光を放つと空中にとどまる。それから360度ぐるぐると自在に回転し、その先端を一斉に僧侶へと向けた。
天使「くくくくく……まさか人間ごときにこの技を披露する日が来るとはな……」
光を放って矢が僧侶に襲いかかる!
僧侶は一塊も残らないほど、ヤリ男になるしかあるまいなのだ!
どうやら僧侶の横のベッドに魔法使いが寝ていたらしい。
僧侶と魔法使いを守るようにバリアが貼り巡られる。
はっはーん、あれだね。2部屋しか予約入れてないのに、勇者と戦士が一緒に寝たがったから、このメンツが1つの部屋に押し込められたわけねぇ。ふーん。
光を失い、矢が床へジャラジャラと無機質に落ちていく。
心地よく眠る僧侶のベッドの上に、魔法使いが寝癖をぐしゃぐしゃにしながら仁王立ちした。
鬼気迫るその表情から、憎しみが私に向けられる。
魔法使い「あんたいったい何者なのよ!懲らしめてやるわ!」
天使「ふぇ、もうやだ。かえりゅ」
鬼の形相の魔法使いが怖くて窓の外へ退散する。ヤレヤレ、若い子は元気がよくてたまりませんな。
夜闇に魔法使いの怒号がこだまする。
今回は私の凄腕を披露することが出来なくて残念だ。しかし、私も眠たい。
ゆらゆらと翼をはためかせて、私は天国へと帰って行ったのだった。
おわり
※天使のなんかすごい技は
厨二技名ジェネレーターで作りました。
お好きに読んでください。