テラーノベル
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メイド姿のフリーデ将軍を引き連れて、俺達は店の中を歩き回っていた。
「あ、あの王子……見られていませんか?」
「見られておるな」
これだけの美人を引き連れて歩き回ったら、そら周囲の視線を集めるだろう。
フリーデの勘違いではなく、一般客の視線を集めているのは間違いない。
ふと身なりの良さそうな中年の貴族が、俺達の前に立つ。
「そこの少年、お待ちを。とても品のあるメイドを連れている。さぞかし名のある貴族なのでしょう」
「貴族というか……」
王子と言いかけたが、わざわざ宣言して、騒ぎ起こすのも面倒なので貴族ということにしておこう。
「是非そのメイドを私に譲ってもらえないだろうか? 言い値で支払おう」
「残念だが売り物ではないのだ。そなたも人の上に立つものならば、人が連れている人間を金で買おうとしない方が良い。己の品性が疑われる」
「…………失礼いたしました」
さすがは上流貴族、それ以上はゴネずに引き下がっていく。
「な、なぜ彼は私を買おうと?」
「そりゃ魅力があるからでしょ。モテてるんだよ」
「も、モテ……」
今まで騎士として過ごしてきたから、世間一般で自分の評価がどの程度のものか理解してなかったようだ。
「それにこんな丈の短いスカート履いてるし。後ろからだとパンツ見えそう」
「そ、それは王子が……」
「ほんとに余のせいか~?」
「あ、あまりいじめないで下さい……」
顔を赤くして羞恥に耐えているフリーデ。真面目な優等生が、ちょっと悪いこと経験してるみたいで面白い。
「む~……」
その様子を見て、ママ上は唇を尖らせブティックへと走って戻っていく。
「あれ、ママ上どうしたんだろ?」
「ヤキモチ焼いてんだよ。多分メイド服買って帰ってくるぜ」
ヨハンナの言葉は、ほぼ予言通りになりママ上はメイド服を買って戻ってきた。
「メイド服買ってきちゃった♡」
「いいね、家で着て」
「うん、いい下着もセットで買ってきたから気にいると思う」
さすがサキュバスの眷属、サービス精神が高い。家帰ったらメイドと意地悪主人ごっこして遊ぼう。
その後、アクセサリー屋、美容院と回ってから喫茶店で休憩。
俺はケーキを大食いの如く頼みまくって、片っ端から食べていく。
すると、聖剣からナハト(子犬形態)が出てきて、ガウガウと怒る。
「わふわふわふ(ラウルずるい。良いもの食べてる。僕だけのけものだ)!」
「お前はいつも昼間寝てるだろ」
ウェイトレスに頼んで、犬皿とケーキを出してもらう。
ナハトは犬皿に積まれたケーキの山に目を輝かせ、尻尾を振りながらケーキに抱きつくようにかじりつく。
その間、ママ上、ヨハンナ、フリーデは自分たちの生活について話す。
「皆さん日頃はどのような生活を?」
「あたしは騎士だから、基本王子について回ってるな。留守番の時は、部下の面倒見たり、船の整備したり、パトロールとか」
「私も、極力ラウルちゃんと一緒に回ってるわ。そばにいられないときは、家事が多いかしら」
ヨハンナとママ上の話に、なるほどと頷くフリーデ。
「休日などは、どうされているのですか?」
「島にいるときはサーフィンしたり、釣りしたり、船の上で日焼けしたり。まぁでも大体王子と一緒にいるな」
「私もお買い物したりお料理したり、ダイエットに海で泳いだり。あとはラウルちゃんのそばにいるわ」
「王子が突発的に何か言い出すことが多いからな。タコ焼き食べたいから海潜ってタコとるとか、ハチミツほしいから蜂飼うとか」
「余をトラブルメーカーみたいに言うな」
フリーデは、話を聞いて意外そうに目を丸くしている。
「意外です、こういっては何なのですが、もっとお忙しい日々を過ごしてプライベートもないものかと」
「意外と休日は、お仕事入らないんですよ。皆さん気を使ってくださっていますから」
「そうそう、公務はほぼ平日。あと忙しいのは王子だけってパターンが多い」
「余は、公務のストレスを癒やしてもらうために、大体勤務地には皆連れて行く」
「…………わたしも、パートナーと公私ともに支え合うような生活を送ってみたかった」
「余は権力者だ。権力者は一人でいると悪に染まりやすい。それを引き止めてくれるのが、ここにいる者たちだ」
「とても優しく、温かい方達ですね……」
フリーデの目が、どこかよその家庭を羨むように細められる。
そしてポロッと涙が頬を伝う。
「だ、大丈夫、フリーデさん?」
「何か虫でも飛んできたのか?」
ママ上もヨハンナも、突然泣き出したフリーデに慌てる。
「いえ、なんでもありません。本当に……」
唇を噛みしめながら耐える彼女。恐らく幸せそうな家庭を見て泣いてしまうということは、自分の家庭の幸せが既に壊れてしまっていると察しがつく。
「フリーデよ」
「はい」
「余が救えるうちに手を伸ばさぬと、取り返しはつかぬぞ。自分で言うのもなんだが、余は王族の中では一番話がわかる方だぞ」
「そうだぞ、あたしらの王子はアクアレムをクーデターから守ったのに、見返りを全く求めなくてメッサー王に怒られたほどなんだぜ」
「バラすな!」
いらんことを言うヨハンナ。
「…………」
「ムグムグ」
ケーキほんま美味い。でも、もうなくなりそう。
フリーデの視線が右に左にと揺れる。
口が硬いやつだな。
「フリーデよ、人の幸せとは一人につき一つではない。何かがあって自分が持っていた幸せが壊れてしまったとしても、再び幸せを作ったり与えられたりすることはあるのだ。一番良くないのは、壊れた幸せをずっと握りしめて新たな幸せに気付けぬことだ」
「…………」
「つまり空になったケーキの皿を見つめてないで、新しいケーキを頼めということだ」
「わふわふ♪」
その意見に賛成なのか、ナハトが尻尾振りながら鳴き声を上げる。
「店長、ケーキを後30頼む。いや30ずつ頼む」
「わふわふ♪」
「申し訳ございませんお客様、ケーキの在庫がなくなってしまいまして……」
「…………」
「わふ~ん……」
「まぁこうなっても店をかえれば良いだけだ。別の店に行くぞ」
俺が席を立とうとした時だった。
フリーデが肩を震わせながら口を開く。
「お、王子! 申し訳ございません!」
「むむむ? 別にケーキがなくなったのはそなたのせいではないぞ」
「……保管していた聖剣を……失いました……」
ようやく彼女は、伸ばした手を握り返してくれたようだ。
「……話を聞こう」
ま-ん-て-ん
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コメント
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おお、悪役とケーキってタイトルからして気になるな…と思って読んだら、めっちゃ良かった! フリーデ将軍がメイド姿で恥ずかしがってるの可愛いし、ママ上がヤキモチ焼いてメイド服買ってくるの笑ったわ。でも最後の「聖剣を失いました」からの告白シーン、グッときたね…。ラウルの「壊れた幸せをずっと握りしめてるな」って言葉が刺さる。手を伸ばすかどうか、フリーデの選択が気になるな!