「それにしても、鍾馗《しょうき》殿?あなたこそ、こんな時間に、何をしておられるのです?」
「あー、それは、その、あの、お、屋敷の警備をー」
不自然な物言いの鍾馗に、晴康《はるやす》は、何か感じとったのか、そっと目を閉じた。
黒煙を立てながら、細くなっていく松明のあかりが、晴康の眉目秀麗な面持ち──、少しばかり切れ上がった目元、細く上品に伸びる鼻筋、薄くそれでいて、引き締まった唇──、女の様にも伺える線の細さを際立たせるものを、ほんのり照らす。
薄灯りは、その容姿を一層妖艶に写し、鍾馗の目を釘付けにした。
男のものでもなく、女のものでもない、毒気に、鍾馗は当てられてか、前の男が何故に瞳を閉じているのか、考えることもなく立ち姿にうっかり見惚れてしまっていた。
「ああ……」
晴康の呟きに、鍾馗は、我に返った。
「は、晴康様、いかがなされました?」
男に見惚れていたと、ばれるのがばつが悪いようで、鍾馗は、いかついその顔を引き締めて、晴康に問うた。
「あー、もう、面目無い。陰陽寮に仕えているとはいえ、所詮下っ端。上の者にこき使われて、疲労困憊。つい、眩暈などに襲われてしまいました……」
「それは、いけませんなぁ。よろしければ、我が家《や》でお休みください」
鍾馗は、大納言家の敷地内、親子で住み込む住居を勧めた。
晴康にとっては、一度、上野に追い払われた屋敷の内へ入れるのだ。願ってもない話ではあるが、先ほど『見えた』物を思い、丁重に断った
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