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第29話「深層試験:波のない海」
登場人物:スイ=オルト(波属性・細身の男子)
カノン=ヌマミ(澄属性・長髪の無表情女子)
レイヨ=タンゴ(熱属性・陽気な筋肉質男子)
ミル=ユグレ(潮属性・小柄で明るい転校生)
深層試験の日。
選ばれたのは、四属性から一名ずつ──“意図的な交差”。
円形の観測プールに、彼ら四人は放り込まれた。
深さは測定不能。底の塩素濃度も変動する。
この場では、誰かひとりの“波”だけで泳ぐことはできない。
波属性のスイは、最初に呼吸を乱した。
「俺の波、届かない……?」
彼の髪は揺れず、声も反響しない。
──波がない。音も、返ってこない。
「ここ、変質できない」
澄属性のカノンが冷静に分析した。
目はガラスのような水面を映すだけ。
「つまんねぇ試験だなぁ!」
熱属性のレイヨが叫ぶ。
その声だけが妙に響くのに、力は生まれない。
唯一、水を軽やかに蹴ったのはミル。
潮属性、だが波ではなく“感情”に強く反応するタイプ。
彼女は言った。
「たぶん、ここ、“だれの波”でもない場所なんだ」
「だから、自分たちで“つくる”んじゃないかな?」
彼らは手を取り合い、呼吸を合わせた。
誰かのリズムに乗るのではなく、合わせてひとつの“流れ”を生む。
波のない海に、最初の小さな渦が生まれた。
その中心で、それぞれの“変質”が始まる。
誰も“うまくいった”わけじゃない。
でも、最後に戻ってきた彼らに、観測者が言った。
「きみたちの変質は、不完全だった」
「──でも、全員のログが“つながっていた”。」