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第30話「この海では、変わってもいい」
登場人物:ナギ=ルス(潮属性・短髪・小柄で丸顔、笑顔が苦手)
メハリ=オウ(熱属性・中背・髪は濃い赤、まゆ毛が濃くて優しい)
舞台:放課後の校舎裏/水草水槽横のベンチ
「変わらなくていいって、言われたいんじゃない。
──“変わってもいい”って、言ってほしいの」
そう言って、ナギ=ルスは水草水槽に背を預けた。
光が差し、水面が壁に模様を描いている。
彼女は潮属性。けれど、最近“ゆらぎ”が起きて、熱域の反応も混ざるようになった。
「熱っぽい料理が好きになってさ……」
ナギは笑いながら言った。けれどその笑顔は、うまく形を保てなかった。
メハリ=オウは黙って隣に座った。
熱属性の彼は、ゆるやかに湯気のような共鳴をまとっている。
彼が持ってきたのは、今日の海食祭で余った料理のパック。
「辛くないやつも入れてきた」
とだけ言って、渡した。
ナギはうなずいて受け取ったけど、なかなか開けなかった。
「私、“変質”がうまくいかなかったらどうしようって、怖くて」
「この間、波域手帳もまっしろでさ……」
メハリは、手帳を見せた。そこにも、波の記録が一行だけだった。
「俺も、波、ほとんど揺れてない」
「でも、おれの好きな料理は……変わった」
その一言に、ナギの目がゆっくり揺れた。
「変わってもいいんだね」
ベンチの下、水槽に映る光が重なって、ふたりの輪郭をやわらかく包んだ。
“変質”はまだ途中。
けれど、今日ここで食べたごはんと、言葉と、温度は──
きっと記録に残る。
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