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Side 黒
それは仕事が終わって家に向かう帰路の途中のこと。
携帯が着信音を鳴らした。
『ごめん、家来てほしい』
高地からのラインだった。その送り主が彼なだけに、慌てる。
何かあったのではないか、助けてほしいんじゃないか。
「すいません、今から高地の家行けますか」
運転席のマネージャーさんに言う。俺の様子から何かを察してか、
「——曲がります」
すぐに向かってくれた。
走っている間も、心配事で頭が埋め尽くされる。
もし倒れていたらどうしよう、病院は今の時間にやっているか……。
嫌な連想はやめよう、と首を振る。
十数分で彼の家に着く。
「ちょっと待っててください」
1人で車を飛び出した。
インターホンを押して待つ間も、ものすごくもどかしい。
返答がなかったから、もしかしたら動けないのかもしれないとまた負の思考のループに陥りそうになったところで、やっとガチャリと待ちわびた音がした。
「高地っ、大丈夫?」
顔を見せた彼は、案外落ち着いた表情をしている。
「ああ…」
でもどこか沈んだ声だった。
何か話したいことがあるのか、俺を部屋に入れる。
「どうした?」
「…とりあえず座って」
丁寧にお茶まで出してくれる。
「体調悪いのかと思ってめっちゃ慌てたんだけど…そういうわけでもない?」
ごめんな、と高地は小さく謝った。
「さっきすごい痛くなって、薬飲んだのに治んなくて。誰かに来てもらいたくなってメールしたのが北斗」
「今は?」
痛くない、と首を振った。
「そのあとすぐ治った。でもやっぱ一人は寂しいし…。ごめん、夜遅くに」
俺は立ったままの高地に、とんとんとソファーの隣を示した。座った彼の頭をわしゃわしゃとこねくりまわす。
「な、何すんだよ」
緩めのパーマがかかっていた髪がさらにくるくるになり、ちょっと可愛らしい。
「偉いよ」
え、と見返してくる。
「こーちは偉い。ちゃんと必要なときに人を呼ぶことができた。それでいいんだから。いつでも呼べよ」
くしゃっと、あのいつもの笑みが戻った。少し照れたように下を向く。
「痛いでも寂しいでもいい。メンバーなら、弱みもさらけ出せるだろ」
「…メンバーが、お前と…お前らでほんとによかった……」
肩が小刻みに震える。きっと涙が溢れたんだろうけど、そこは高地の強がりを尊重してあげようかな、なんて。
いつの間にか離れかけていた距離が、元通りに、そしてまた少しだけ近づけた気がした。
手のひらで感じる背中の温もりは、俺と高地にとってちょうどいい温度だった。
終わり